ずっと昔から好きな人
「・・・・・」
目が覚めると私はどこかもわからない場所にいた。
辺りには風に揺れる木々。
見上げると雲に隠れていた月が姿を表した。
月明かりに照らされた地面を見ると、私がこの場所に来た跡・・・体が擦れた跡がついていた。
そうだ・・・肝試しをしていて、崖から落ちたんだ私・・・
時間は・・・
どのくらい時間が経ったのかを確認するべくスマホの電源を付けた。
二十時・・・私がペアの後藤君と肝試しに向かってからもう三十分も経っている・・・
とにかく・・・戻らないと・・・
「痛っ!」
立ちあがろうとした時、右足首に痛みを感じた。
確認した足首は赤く腫れ上がっていた。
あの五メートル程上の崖から落ちて、骨折していなかっただけ運が良かったのかな・・・でもこの足じゃ・・・
「だ、誰かいませんか!」
「助けてください!!」
動けないなら助けを呼ぼうと声を出したが、聞こえてくるのは目の前の斜面に反射して帰ってくる自分の声だけだった。
携帯も圏外で繋がらない・・・
「どう・・・しよう・・・」
現状を打開する方法がなくなった途端に恐怖が押し寄せて来た。
揺れる木々と小動物が落ち葉を踏んだであろう音。
意味もなく背後を振り返るが何も・・・誰も居ない。
痛む足が誰かに掴まれた気がして確認しても、付いていたのはただの葉っぱ。
恐怖からなのか聞こえないはずの声が・・・聞こえてくる・・・
(タスケテ)
(イタイヨォ)
間違いなく幻聴なのだと理解しているのにこの声が止むことは無い・・・
怖い・・・怖いよ・・・
普段は私よりも怖がらな香織ちゃんが居たから、私が頑張らないとって意識をしていた、でも一人になると、どんどん恐怖が増していく。
私はその場で膝に顔を埋める事しかできなかった。
「夢!」
「!?」
私を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、顔を上げても誰もいない。
赤城君が来てくれた!
だなんて、今聞こえた幻聴のせいで勘違いをしてしまった・・・
こんな肝試しコースから完全に外れた森の中に、来るわけないのにね・・・
でも、昔もこんな事があった気がする・・・
私は昔の記憶を辿り、考えていると一つの・・・私の大切な思い出が出てきた。
あっ、そうだ・・・小学生の時に行った隣町の夏祭りの時だ・・・
私が迷子になって橋の下で怖くて動けなくなって泣いていた時、私の名前を読んだ赤城君が助けてくれたあの日・・・
違う・・・あの日だけじゃない・・・
私が香織ちゃんと心霊映画を見て眠れなくなった日も、朝まで手を繋いでいてくれた・・・
遠足先で迷子になった時も、三人で遊びに行って迷子になった時も・・・・私めちゃくちゃ迷子になってるな・・・
でも、いつも赤城君は・・・あっくんは泥だらけで私を探して・・・助けてくれた。
きっとこんな事、あっくんは覚えていないんだろうな。
思い出しただけで涙が出てしまう。
きっと怖いからだ。
どうしようもないから涙が出てくるんだ・・・・だって・・・
だって、あっくんはもう・・・昔のあっくんじゃないから・・・
でも・・・・・・・
「怖いよ・・・・」
「助けてよ・・・」
「あっくん・・・・」
「おう・・・助けてやるから、泣き止めよ」
「!?」
膝の中で呟いた私の言葉は返ってくるはずがないはずなのに、確かに聞き馴染のある声が聞こえてきた。
聞こえた声に反応し、顔を上げた。
「あっく・・・・ん!?」
「ど、どうしたの!?」
目の前にいる幼馴染の服は所々に破け、全身ボロボロだった。
「お前を探してたらこうなったんだよ!」
「・・・・・ごめん」
「でも・・・どうして?どうしてそんなボロボロになってまで・・・」
私の言葉に呆れたようにため息をついたあっくんは、笑って言葉を返してくれた。
「は?なんでって、そりゃ・・・お前が困ってるからだろ」
「え・・・?」
「昔・・・小三の時に行った夏祭りでお前が迷子になった時に泣いてたろ?」
「!?」
覚えていてくれたんだ・・・
「自分も怖いくせに、自分より怖い奴の為に強がる様な奴だろ夢は、昔から・・・」
「・・・・あっくん」
私の事、見ていてくれたんだ・・・・
昔から香織ちゃんしか見ていないと思っていたからか、少し胸が熱くなった。
私が胸を押さえているとあっくんが私のに背を向け、中腰の姿勢に座った。
「ほらっ・・・」
「え?」
「足、痛めてんだろ?昔みたいにおんぶしてやるから」
「あ、ありがとう・・・・」
私は恥じらいながらそう言う彼の背に乗った。
昔から乗せてもらっていたからか、抵抗感は全くなかった・・・
大きくなったあっくんの身長・・・背中もこんなに大きくなったんだね。
重たそうに背負っていた私を今は軽々と背負い上げ、歩き始める・・・
流石に気まずい空気の中黙って数歩歩いた時、あっくんが口を開いた。
「まぁお前も、俺なんかより・・・力也におんぶしてもらった方が良いんだろうけどさ・・・・」
「え?力也って・・・同じ小学校だった力也君の事?」
「うん、すげぇよな・・・あいつ」
「イケメンだし、本当にプロサッカー選手になっちまうし・・・・そりゃ俺なんかじゃ比べ物になんねぇよな」
なぜか悲しそうに話し出すあっくん。
「どうして力也君が出てくるの?」
「どうしてって・・・お前ら付き合ってんじゃないのかよ・・・」
え!?
何それ、どこ情報!!?
私付き合った事なんてないんだけど!!
「お前昔、力也にその・・・ラブレターを・・・」
「あいつ、まだ付き合ってるって言ってたし・・・」
そう言う事ね・・・
やっぱり誤解してたよ、アホあっくん。
「それ誤解だよ!」
「は?」
「あれは愛奈ちゃんのラブレターで、恥ずかしいって言うから代わりに私が渡してたの・・・」
もう付き合えたんだし言っても良いよね?
「なっ!・・・え!?そう言う事だったのかよ!」
「それならそうと、あの時言ってくれればー」
「言おうとしたのにあっくんが先に帰ったんでしょ!!」
「なんだよ・・・俺は五年間も何を・・・」
急に肩を落とし、ため息を着き始めたあっくんの背は少し揺れた。
・・・でも
「でもどうしてそれであっくんが悲しそうにしてたの?」
「べっ、別に良いだろ!今更そんな事!」
急にあっくんの背中が熱くなってきた・・・これはもしや?
めったにないあっくんの恥ずかしがっている状況を前に調子に乗った私はテンションを上げて質問をした。
「なになにあっくん?私が誰かと付き合ったら嫌だったの?えへへ」
「ねぇねぇ、教えてよ」
こんな状況なのに私はあっくんの肩を揺らして聞いていた。
でも、あっくんは恥じらいながらも真面目なトーンで話してくれた。
「うるっせぇーな・・・そんなの」
「そんなの・・・嫌に決まってんだろ・・・・」
「え・・・」
あっくんの頬は後ろからでも赤くなっているのがわかる・・・
予想外の言葉に私は固まり・・・・私まで体が熱くなってしまった。
多分私の体温の上昇具合に気付いていないあっくんは言葉を続けた。
「そりゃさ、香織も夢もいつか誰かと付き合って、結婚するかもしれないけどさ・・・」
「やっぱり・・・・あまり良い気はしないよ」
「あっくん・・・・」
「こんなの、ただの我儘だけどな・・・」
笑いながらそう言うあっくんの背はまた少し揺れた。
それにしても・・・・
「バカだなぁ・・・あっくんは・・・」
「なっ!どうして今俺が罵倒されるの!?」
馬鹿は私か・・・こんな言葉一つで私の心は昔の様に動いている。
心音が・・・あっくんにも伝わりそうな程に高まっている・・・
私はあっくんの背に顔をうずめ、心の中で呟いた。
(本当バカ・・・・)
言葉と共に私は・・・・
「なっ!なな・・・おまっ!何を!?」
「ど、動揺しすぎ!」
「これはただのお礼!」
「お礼にキスって!いつからそんな大胆な!!」
私が”それ”をした頬を抑えたまま歩くあっくんの体温はさらに上昇した・・・・私も・・・・
「あ、あっくんが私の事を知らないだけ!」
「これからは・・・・もっと大胆に行くから!香織ちゃんにも、楓ちゃんにも容赦しないから!」
「それってどういう意味?」
「さぁ?・・・あっくんも女心が分かる様になれば、理解できるんじゃないの?」
「ちょっ!教えてくれよぉ!」
私はそのままあっくんの背中に揺られ、宿に戻った・・・・
大好き・・・・
◇
宿に戻った俺達は・・・・いや俺は勝手に夢を探しに行った事が原因で先生にめちゃくちゃ怒られた・・・
ただまぁ、夢との仲も元に戻ったと思えばこんな説教なんて・・・・
「聞いているのか、赤城!!」
「は、はい!すみません!!
めちゃくちゃ怖かった・・・
* * * *
俺のクラスには初恋の女の子がいる。
桃色の髪をいつも揺らしていた桃原夢は誰にでも優しいが、気弱な性格だった・・・はずなのだが。
今後は大胆になるらしい・・・
でもまぁ、俺達は三人は・・・・今も仲の良い幼馴染だ。
* * * *
後書き
読んでいただきありがとうございました。
うーんなかなか上手い小説が書けなくて困っております。
っと話は変わりますが、少し現実が忙しくなった為、ただでさえ遅い投稿頻度がちょっと遅くなります。
書きたいお話がもう少しあるのでお付き合いいただけると幸いです。
下記の新しいお話も読んでいただけると幸いです。
https://kakuyomu.jp/works/16818093080412284767
他の小説も三作品ほど書きたいのがあるのでもっと投稿頻度を上げられるように努力します!
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