肝試しは突然に

「えーそれから、宿に付いたら各自部屋に荷物を置いて夕食、その後はレクリエーションを行う」


 先生のバス内のマイクによるアナウンスで俺達は一日目の日程確認を行っていた。

 初日の大半はバス移動で道々にある工芸品などを見て回っていた。


「投票により内容は肝試しに決まったぞ~」

「喜べ男子、肝試しのペアは二人一組で必ず男女ペアを組む事」


「「「えぇーーーー!!!!」」」

「「「いよっしゃぁぁぁ!!!!!」」」


 先生の言葉に驚く女子と歓喜する男子の声でバスの中は埋め尽くされていた


 俺もどっちかと言えば嬉しい・・・・けど声は出さないでおこう。


「夕食後にペアを決めるから、好きな人がいる奴は男女共に精々お祈りでもしてろよ~」


 別に特定の誰かがいるわけじゃないけど、やっぱり仲の良い子と組めれば楽しいだろうな。

 香織なんて幽霊が苦手だから、発狂するんだろうな。

 あの男勝りな香織が涙目で怖がっている事を想像するだけでもう、ちょっと面白い。


 俺がそんな考えをしていると横に座る女の子の異常に気が付いてしまった。


「青崎さん、大丈夫?顔色悪いけど・・・」

「えっと、その・・・だいじょばないです」

「だいじょば?少しバス酔いした?」

「い、いえその・・・肝試しが・・・・」


 青崎の顔は青ざめており、少し震えていた・・・


「私昔から幽霊や暗い所が苦手で・・・」

「へぇーちょっと意外かも、青崎さんも心霊系苦手なんだね」」

「私?」

「うん、香織も昔っから心霊系がダメでさ、いっつもホラー映画みたら寝れないって電話かけてくるんだよ」

「寝れないなら見なきゃいいのにね」


 ちょっと意外だったなぁ、青崎にも苦手なものがあるんだ・・・

 俺も心霊系はどちらかと言えば苦手だが、ぶっちゃけヤクザの方が余裕で怖い・・・


 俺の会話が聞こえたであろう前の席に座る桃原も会話に参加してきた。


「小学生の時に香織ちゃんの家でお泊り会してね『手つないで寝ようよ!』って泣いてお願いしてきててさ。私も怖いのはダメなんだけど、私よりも怖がってる子をみたら怖くなくなって・・・」


 嘘つけ、桃原もギャン泣きだったじゃねぇか・・・

 お前達に呼ばれて、香織の家に行って一緒に寝た事忘れてないからな・・・


「あ、赤城君は怖いの大丈夫そうなので・・・・赤城君とペアになれる事を・・・祈ってますね」


 そんな赤面して言われると変な勘違いしそうだから止めてほしい。

 まぁでも、俺とペアになりたいと言ってくれるのは素直にうれしいな。


「お、おう!俺も仲いい人とペアになりたいし、祈ってー」


 青崎への言葉を伝えている最中、前の席の隙間からジト目でこちらを見ている桃原が見えた。


 なんか俺、睨まれてない?


「ど、どうしたの?桃原さん」

「別に・・・」


 その言葉と共に桃原はまた前を向いた。


 * * * *


「で?はるはどっちとペアになりたいと思ってるの?」


 夕食終了の時間が近づき、肝試しのペアを決める紙が入った箱が順に回されていた。

 俺に向かいそう聞いて来た香織はなぜか俺を睨んでいる・・・


 なんでお前は当たり前の様に他クラスにいるの?


「どっちって?」

「肝試しのペア、楓ちゃんか夢かどっちとなりたいの?」


「本当は私も・・・もう、どうしてはるとクラス別々なの?」

「ん?なんて?」

「何でもない!!」


 ボソッと何かを呟いていたが・・・・まぁいいか。


「どっちかって言うか、俺も二人のどちらかとペアになれたら良いなとは思ってるけど、【1-D】の女子って十五人だぞ?」

「そんな都合よく十五分の二を引けるわけー」


 俺はペア分けの紙が入っている箱に手を突っ込み、中身を一枚抜き取った・・・・のだが。




「よ、よろしくお願いします・・・・赤城君」


 引けちゃったぁぁ!!!!


「あぁ、そうそうお前ら」

「ちゃんと手を繋いでゴールしろよ?これもルールだからな」

「なっ!!?」


 サラッとマイクでルール追加をしやがった先生・・・あの人達絶対楽しんでやがる・・・


「手・・・ですか・・・」

「流石に恥ずかしいよなぁ」

「ま、まぁ適当にゴール前だけ手をつないで、途中は離してれば先生達にもバレないだろうしな」


 青崎を気遣って言ってみたのだが、俺の袖を掴んだ青崎は上目使いで話してきた。


「途中は・・・繋いでくれないのですか?」

「えっ!いや、そうだな!青崎さん暗いの怖いって言ってたもんな!」

「で、でも青崎さんは嫌じゃないの?俺と手を繋ぐの・・・・」


 あー、自分で言ってて辛い・・・


「嫌じゃ・・・嫌じゃないですよ?赤城君なら・・・・」

「それって、どう言うー」

「痛ってぇ!!」


 俺が後頭部に重たい一撃を検知した。

 もはや振り返るまでも無い、こんな事をしてくるのはアイツだけ!


「ちょっ!何すんだ香織!」

「何デレデレしてんのよ、気持ち悪い!」

「なんだお前、話した事ない男子とペアだからって緊張してんのか?」

「そんなんじゃー」

「いいじゃねぇか、これで仲良くなれば彼氏が出来るかもー」


 言い終わる前に追加の四発が俺の顔面にめり込んだ・・・・


「何故・・・・ボコる・・・・」

「アホのはるなんてしらないっ!」


 香織は地団駄を踏みながら、自分のクラスに戻っていった。


 相変わらず意味不明な奴だな・・・


 結局俺と青崎は同じペアで、桃原と香織はクラスの話した事がない人とペアになったそうだ。

 男子人気が高い二人に当選した男子達は泣いて喜んでいた。


 辰彦はと言うと・・・


「遥!変わってくれ!!俺も女の子とペアになりたい!!!!」

「無茶言うなよ、ウチのクラスは男子の方が多いんだからこうなるのは必然だろ?」

「ぐぬぬぬぅぅぅぅ!!!!!!!!!!!!」


 血涙って本当に流れるんだ・・・・どうでもいいけど。


 * * * *


 肝試しが始まって三十分・・・

 一組、また一組が森の中へ入っていく。

 森の中からは大量の悲鳴が聞こえる。


 香織の奴、パニックになって脅かし役の先生をぶん殴ってないといいけど・・・


 そうこうして更に五分後・・・俺たちの番が来た。


 緊張する・・・・青崎と手を繋いだ事はあったけど・・・この状況は流石になぁ。

 俺手汗掻いてないかな?

 正直緊張しすぎて恐怖心は一切ないんだが・・・


「あ、赤城君・・・絶対手を離さないでくださいね?」

「お、おう!頑張るよ」


 そう言えば香織の事ばかり心配していたけど、桃原も大丈夫かな?

 アイツも相当ビビりだったしなぁ・・・

 確か小4の夏祭りで桃原が迷子になってー


 昔の事を思い出していると、なにやらスタート地点のクラスメイトがざわついていた。


「あれ?後藤じゃん・・・なんでお前戻ってきてるんだよ。十分前に桃原さんとスタートしただろ?」

「いや、ちょっと怖すぎて走って戻って来たんだけど・・・」

「つうか桃原さんは?」

「え・・・俺の後ろに・・・・あれ?」

「お前が全力で逃げるから、呆れて一人でゴールに行ったんじゃね?」

「まぁ、桃原さんなら一人でもゴールするかぁ」


 桃原がこんな暗い森の中を一人で?

 アイツ、普段見せないだけで相当のビビりだぞ?


 俺が森の方を見ていると、お化けに扮した先生が森から出て来た。


「こらっ、後藤!ペアを置いて帰るとは何事だ!」

「す、すみません・・・桃原さんってもうゴールされました?」

「いや、まだ来てないそうだぞ?ゴール地点の先生も見てないって言ってるし・・・・」


 嫌な予感がした。

 根拠はないけど、昔に似たような経験をしたからか、どこか胸騒ぎがした・・・・


「赤城君?」

「ごめん、青崎さん・・・・ちょっと先に森の中入ってきてもいい?」

「勘違いなら良いんだけど、桃原の奴・・・多分動けないでいるから・・・・」


 俺の自分勝手な言葉を聞いた青崎は微笑んでいた。


「そんな事で謝らないでくださいよ・・・・幼馴染が困ってるなら、助けてあげないとでしょ?」

「ありがとう、青崎さん」

「でも!!私だって赤城君とペアの、この肝試しは・・・・怖いながらも楽しみにしてたんですよ?」

「ご、ごめん・・・・」


「ですので、一つだけお願いを聞いてくれるなら行ってもいいですよ」

「お、お願い?」


 青崎は俺に耳打ちをして、願いを伝えて来たのだが・・・・


「えっと・・・その・・・・」

「ダメですか?」

「いや、ダメじゃないけど・・・その恥かしいって言うか何と言うか」

「聞いてくれないなら行ってはダメです!」


 頬を膨らませそっぽを向く青崎。


 まぁでもこれは俺の我儘な分けだしな・・・


「分かりました、聞きますよ・・・」

「フフフ、約束ですよ?」


 俺はその言葉を聞いた後、森の中へ走っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーー

後書き(本編とは全く関係ありません)

いつも読んでいただきありがとうございます。

明日に別の小説を投稿させていただく予定ですので、そちらも読んでいただけると嬉しいです。


生意気な後輩とのすれ違いラブコメをテーマに書いてます。

更新頻度は今と変わらず「完成したら投稿!!」で頑張ります!

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