ウェルカム夏休み?

「た・・・・耐えたぁぁぁ!!!」


 俺はテスト結果が張り出されている廊下の張り紙を見つめ、安堵の声とガッツポーズをした。


 基本五教科合計得点、332点。

 総合順位341人中201位。


 問題の英語は32点・・・・んーーーギリギリセーフ!!


 いやぁ一時はどうなるかと思ったが、期末テストも乗り切れたし後は夏休みを全力で楽しむだけだ!!


 それはそうと、他の人の点数も気になるな・・・・


「青崎さんは・・・・って、聞かなくてもわかるか」

「えっと、たまたま山が当たっただけですよ?」

「やめて、32点で喜んでた俺が惨めになる・・・・」

「で、でも赤城君も頑張りましたよね!偉い偉い!」

「アハハハ・・・・恥かしいから頭を撫でないで頂けると・・・」

「す、すいません・・・落ち込む赤城君が可愛くて、つい・・・・」


 可愛いって・・・・俺は男なんだけどなぁ・・・・


 青崎の順位は順位表のトップ。

 今回も二位と三十点ほど点数が離れた基本五教科498点、圧巻の一位。


 これで山が当たったって言うのは流石に無理があるよ、青崎・・・・



「さぁてと、【エアポート香織さん】の点数はっと・・・」


 香織の得点を確認しようと自分の名前より下を目で追うように見ていたが一向に香織の名前が出てこない。


 いや、まさかな・・・


 俺が香織の名前を見つけたと同時に、誰かが俺の肩に手を置いた。


「英語は赤点だったけど・・・・総合は私の方が上だったようね、はる」


 声の方に振り返ると、これでもかとドヤ顔をした香織がいた。


 英語28点・・・・だが総合順位・・・・くっ!


 199位・・・・くそっ!


 馬鹿な、俺が人生で二度も香織に勉強で負けるなんて・・・


「アハハ、どう?褒めていいよ?」

「うっせえ、お前は次に英語で赤点を取らない勉強でもしてろ!」


 腹立つわぁ~コイツのこう言う時の煽りが特に刺さる・・・


「まぁでも、やっぱり楓ちゃんと夢には勝てないかぁ・・・」

「そ、そんなことないよ・・・・香織ちゃんも今回点数伸びてるみたいだし、青崎さんに比べたら私もまだまだだし・・・・」


 そう言う桃原の総合順位は五位。


 謙遜しているが、中間も似たような順位だったような・・・・


「まぁまぁ、みんな赤点取らず無事に週末を楽しめるじゃないかぁ」


 そう言って一緒に点数を見に行っていた親友の辰彦は会話に入って来た。


「辰彦君って頭良かったんだね」

「まぁね、俺割と要領が良い方だから・・・・って俺が馬鹿だと思ってたの橙山さん!?」

「あっ、私も・・・」

「意外でした・・・すみません加納君」


 香織に続き、桃原と青崎も辰彦に対して抱いていたイメージを告白した。


 辰彦の総合順位は25位・・・・こいつ意外と頭いいんだよな。


「酷っ!」

「お前がいつもチャラチャラしてるのが悪いんだよ」

「遥、お前までぇ~」


 辰彦が俺の腕に気持ち悪く抱き着いて来た時、廊下に先生の声が響いた。


「おーい!そろそろ体育館で終業式を行うから、点数見た奴から早く行けよ!」


 その声を聞き生徒が続々と体育館に向け歩き始めた。


 俺達も他の生徒に続き体育館を目指した。


 そのまま俺達は、無駄に長い校長の名無しを聞き、高校一年生の一学期は終えた。


 * * * *


「へー後輩君赤点回避したんや!おめでとさんやなぁ!」

「ありがとうございます・・・・これで気持ちよ~く夏休みをエンジョイできますよ」

「それはよかったなぁ。ウチなんて大学の課題尽くしやで・・・・・はい撃墜」

「あっ・・・・」


 俺はいつもの様に、先輩と夜中にゲームをしていた。

 会話の流れのまま俺の残機を容赦なく減らしてくる先輩はいつもと同じくめちゃくちゃに強い。


「もう予定とか決めてんの?」

「いや、それが全然で・・・最近さぼり気味だったので、バイトざんまいですかねぇ」

「まぁ後は例年通り、幼馴染と遊ぶかもしれませんけど・・・・」


 例年通りだと、橙山家と一緒に海に行ったりするのだろうが今年は美穂の受験もあるしなぁ。

 辰彦は部活で遊べないらしいし、もうやる事と言えばお金を稼ぐくらいだろう。


 青崎を誘う勇気なんてないしな・・・・


 始まったばかりの夏休みのつまらなくなりそうな計画を考えていると、ヘッドホンから声がした。


「バイトもええけどさ、後輩君・・・・」

「はい?」

「ウチとも暇な日はな・・・遊んでくれる?」

「え・・・・?」


 急にヘッドホンから聞こえて来た甘え声に俺の脳は一瞬止まった・・・そして。


「はいー!ウチの勝ち!!!」

「ちょっ!」

「アハハ、油断しとったなぁ!」


 俺の画面には見慣れた【YOU LOSE】の文字が表示されていた。

 先輩の声は元に戻っていた・・・


「ウチを相手に考え事しながらスマブラするとかええ度胸やん」

「ずるいですよ!そんな・・・・ドキッとするような声・・・・」

「え?最後の方なんて言うたん?もう一回言うてみてくれへん?」


 このテンションが高い声・・・・間違いなく聞こえてたな。


「も、もういいですから!次行きますよ!」

「逃げたなぁ~。まぁええわ、ウチは準備出来てるで」


 結局その後も一時間ほど対戦をしたが、一勝もできず・・・・

 一体いつになれば俺はこの人に勝てるのだろうか・・・


「じゃあ、今日はこれで終わりますね」

「うん、楽しかったで~」

「ほんならお土産よろしくな~」

「お土産?何の事です?」


 時間も零時を回っていたので通話を切ろうとした時、身に覚えのない事についてお願いをされた。


 お土産?俺何処か行くって言ったっけ?


「何って後輩君・・・・明後日の日曜日から林間学校やないの?」

「それで夢ちゃんもバイト休む言うてたし・・・・」

「あっ・・・・」


 完全に忘れていた・・・・


 * * * *


「こらぁ、赤城!お前も早くバスに乗れ!」


 棒立ちしている俺を先生は呼んだ。


 今日から二日間、夏休みが始まって早々の林間学校が始まった・・・・

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