地獄の勉強会

「何やってたんだよ遥、いきなり迷子か?」

「まぁ青崎さんの家は広すぎるから迷子になる気持ちも分からんではないが」


 青崎の家もとい部屋で先に待機していた辰彦達と合流した。


「まぁそんな所・・・・」


 流石に言うわけにはいかず、辰彦のからの会話を流し、青崎の部屋に入った。

 まさか数分前まで親友がクラスメイトの身内に殺されかけていたとはコイツも思うまい・・・・




「何これ・・・・旅館かよ」


 青崎の家にお邪魔して十分弱、もう四度も非現実的な体験を味わってしまった。


 目の前の空間には、数えなくても畳が百畳は敷かれている。

 部屋の中央には馬鹿デカい机と座椅子が五台・・・・

 これは多分組の人が用意してくれたんだろうな。

 上座にある青崎の席と思しき座椅子には何やら高そうな座布団が敷かれているし。


 部屋の隅には勉強机とローベットが置いてあるだけのシンプルな部屋。


 シンプル?

 いや、この部屋が広すぎるから物が少ないように見えるだけだな。

 普通勉強机とベットを置いたら自室なんてほとんどスペース無くなるだろ。


「あの・・・恥かしいので、あまり見ないでいただけると・・・・その・・・」

「あっ!ごめん、余りにも現実味の無い空間だったからー」

「グヘッ!!」


 俺が青崎の部屋を見ていると隣から部屋の主である青崎に話しかけられた。

 言い訳を言いきる前にもう片方隣にいた、に肘打ちを食らった。


「何すんだよ!かお・・・・り?」


 その鬼人のような幼馴染の顔は腹を押さえる俺を見下ろし、睨みつけていた・・・・怖っ。


「女の子の部屋をジロジロ見るなんて最っ低!!」

「どうせこんな風になると思って、バイト休んで正解だったわ本当」


 この鬼女もとい幼馴染の香織はバイトを休み、俺を監視する為だけに勉強会に参加してきやがった・・・・


 * * * *


「って訳で今日青崎さんの家で勉強会するんだけど・・・・来るか?」

 俺は休み時間に香織の教室である【1ーD】を訪ねていた。

 なぜか香織に連絡を入れずに青崎の家に行っていた事がバレたら殺される気がしたから。


「生憎今日はバイトが入っててさ、楓ちゃんに『ごめん』って言っておいて」

「了解」


 流石にこれで香織に殺されることはないだろう。

 後は午後の授業を乗り切ってー


「あっそうだ、今日って青崎さんの他に誰かいるの?」


 俺が香織の教室を出ようとした時に香織がまた声を掛けて来た。


「俺と辰彦と青崎さん・・・・」

「うんうん」

「あと桃原さー」

「行く・・・・」


 桃原さんの名前を出した瞬間に香織から笑顔が消えた・・・・


「え?」

「わ・た・し・も、行く!!」

「で、でも香織、バイトは?」

「休む!前変わってあげたから、今日変わってもらう!」


 * * * *


 結局香織も加わり、今に至る・・・・


「辰彦君!辰彦君もちゃんとはるを監視してよね!」

「な、なんで俺が・・・・」


 すまんな、俺のせいで飛び火が・・・・まぁ辰彦ならいいか。


 そのまま勉強は始まり一時間した頃、俺は案の定英語の問題に詰まっていた。


「はるこの回答教えてあげようか?」

「え?香織にこんな英文訳す知能があったのか!?」

「あんた私の事馬鹿にしてるでしょ!!」

「見てなさいよ!」


 あの香織が!?

 俺より勉強ができない香織が?

 まぁでもここまで言ってる訳だし教えてもらうか・・・・


「・・・・・って意味で空港の場所を聞いてる訳だから、答えは・・・・・三番!」

「へぇ・・・・凄いな香織!」

「へっへ~ん、どんなもんよ!」


 まさかの説明付き。

 これには香織の認識を改めるしかない。


 俺は横に座る香織に素直にお礼を告げようとした時、正面の桃原が口を開いた。


「違うよ香織ちゃん、エアラインは航空会社って意味だから、答えは四番だよ。ね、楓ちゃん?」

「はい、橙山さんの言う空港はエアポートですので単語間違いですね」


 勉強得意組の二人、桃原と青崎に指摘された香織は直ぐにドヤ顔を止め、俺から顔を逸らしやがった。


「おい!」

「ヒューヒュー♪」

 口笛を吹いてごまかそうとしてるなコイツ!

 一瞬でも凄いと思った俺の気持ちを返せ。


「ほらな、香織は俺より点数低いんだからバイトしてる場合じゃないだろ?」

「うっ、それについては何も言い返せません」

「で、でも今回ははるも点数ヤバいんでしょ?気を抜いていたら小学校の時みたいに、はるや夢より点数高くなるかもね~」


 香織の発言に皆手を止め、辰彦が香織に質問をした。


「え?桃原さんって遥と香織ちゃんと昔からの知り合いだったの!?」

「う、うん。はるから聞いてないの、辰彦君?」

「いやいや、初耳だよ!」

「何だよお前、こんな可愛い幼馴染二人と幼少期を過ごしてきたのか!?」

「うらやまけしからん!!」


 勝手に言葉を作るな・・・・


「私も初耳です・・・・赤城君って女の子のお友達多いですよね?」

「た、たまたまだよ・・・・ほら辰彦もいるし・・・・」

「俺をおまけみたいに言うな」


 ジト目で何やら不満そうにしている青崎だが、悪いな辰彦・・・・お前は盾だ。


 俺たちのやり取りを聞いた後に香織は説明を始めた。


「夢は五年生の時に引っ越しちゃったからね・・・・」

「でもまさかこっちに帰ってきてて、同じ高校に通う事になったって聞いたときはビックリしたよ」

「ねっ、はる」

「う、うんまぁな」


「その割には先月くらいまで特に桃原さんと会話してなかったくないか?」

「いや、まぁその久し振りに会った訳だし、なんて話したら良いかも・・・」


「ホントかぁ?遥ってそんな事気にするタイプだっけ?」

「う、うっせな!俺にだって色々あんだよ・・・・ほら勉強再開しようぜ」


 いろいろ・・・ね。

 ただ逃げてるだけだって自分が一番わかってるのにな・・・・


 初恋の・・・・振られた相手に今更どう話したら良いかなんてわかるかよ・・・・


 いや・・・・振られてすらないか・・・・

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