初恋の人参戦

俺のクラスにはもう1人の幼馴染がいる。

 小学五年生まで香織と共にいつも遊んでいた女の子。

 誰にでも優しいが、気弱な性格の少女は桃色の髪をいつも揺らしていた。

 そんなもう一人の幼馴染【桃原優芽ももはらゆめ】は俺の初恋の人だった。




「あははは!はい、またウチの勝ちやねぇ~」

 俺の目の前の画面にはYOU LOSEの文字が表示されていた。

 耳元のヘッドホンからは、俺を煽る腹立つ声が聞こえてくる。


「後輩君は復帰が単純やから、メテオ決めやすくてチョロえもんやわ」

「ぐぬぬぬぬぬ!!」

 俺たちはネット環境を利用して、最近大人気の格闘ゲーム【スマッシング・ブラザーズ】通称【スマブラ】をプレイしていた。

 相変わらずのゲームセンスで俺をボコボコにしてくる相手に、俺は手元のコントローラーを握りしめる事しかできなかった。


「もうちょっと練習した方が良いんとちゃう?」

「いや、あんたが上手すぎなんだよ!」

「褒めんといてぇな、ウチ照れてまうやろ?」

「思っても無い事言わないでください!」

 いつも通りの調子で俺はバイト先の先輩の煽りを受けていた。


 たまたまバイト先の先輩とゲームの話をしていた時に、同じゲームをしていることが分かり・・・・・今に至る。

 始めは煽ってこなかった・・・・・・事も無いか。

 この人バイトの時とほとんどテンション同じだしな。


「後輩君?どないしたん?」

「え?あっ、あぁすいません」

 考え事をしていると、俺が次の対戦開始ボタンを押し忘れていた。


「なんや?今日はえらいウチの煽りが効いとるね」

「次はハンデとして、ウチが残機1で後輩君が残機5でやったろか?」


「言ったな!ぶっ潰してやる!!」

 流石の舐めた提案に腹が立ち、残機設定をいじり対戦開始ボタンを押した!!


 YOU LOSE


「クソー!!!!」

「アハハハハ、お腹痛いわホンマに!」

「あんな意味わからん所で攻撃したら、そりゃカウンター入れるに決まっとるやん」

 俺は自室で発狂した。

 俺が悔しがる声をオカズに白米が進んでいそうな先輩の笑い声は止まらない。


 あり得ないだろ・・・・俺、結構このゲームプレイしてるよ?

 こんな文字通り手も足も出ないなんて事ある?

 俺はゲームは好きだが上手くない。

 それでもこのゲームだけはやり混んでいるつもりだ。


 プレイヤーの上位層しか到達できないVIPランクにいる俺が?


「先輩・・・・先輩って何者なんですか?」

「何者って・・・・・」

 もしかして、これが噂に聞くプロゲーマーなのでは?

 この強さなら納得するし、そうじゃなきゃ俺が惨めすぎる。


「ウチは後輩君の先輩や」

「はいはい」

「なんやのその反応!」

 まぁこんな答えが来る気はしてたよ。

 ホント、見た目からは想像できないゲーム好きな性格とゲームセンス・・・・・

 人は見かけによらないってのはこの人に当てはまる。


「まぁええか、とりあえずもう一戦やろ」

「いいですけど、先輩明日は大丈夫なんですか?」

 もう時計の針は23時を回ろうとしていた。


「いけるいける、ウチ明日の講義昼からやし」

「いいですね、大学生って・・・・」

「そう?案外なってみたら高校の方が良かったって思うで?」

「いやいや、無いでしょ」

 俺は早く大学生になって、車でドライブデートとか、サークルでバーベキューとかを楽しみたいのに。


「まぁでもウチは後輩君と同い年で高校生になれるなら、戻りたいなぁ」

「え・・・それって・・・・」

 急にドキッとする事を、ときめいた様な声で言ってくるものだから俺の顔は赤くなっていた。


「直接後輩君をいじる機会が増えるしな!はははっ!」

 俺の熱は一瞬で冷めた。


「なんや?自分顔赤なってんとちゃう?」

「ぐっ!!」

「何期待してたか、おねぇさんに正直に言ってみ?ほらほら聞いたるから」

「こんの・・・・アホ先輩!!」

 俺はヘッドホンに付いているマイクに向かって叫んだが効果はなかった。


「ほらほら、気を取り直して早よやろ!」

「はいはい・・・・」

 少し何かを期待して損したよ全く・・・・


「そろそろ緊張感のある試合がしたいからがんばってや~」

「こ、この女・・・・ぶっとばしてー!!」


 YOU LOSE


 そこから十戦ほどやった事を覚えているが、俺は一勝もできなかった。


 * * * *


 眠い・・・・昨日のせいで明らかに寝不足だ・・・・

 こんな日は先生にバレずに睡眠をー


「赤城!聞いてるのか!?」

「は、はい!!」

 できる訳も無く、英語教師の増田は俺を指名してきやがった。


「この四つの単語のうち過去形として間違っているのは?」

「ま、間違っているのは・・・・」

 俺は必死に板書されている単語を見たが・・・・違いが分からん!!

 ど、どうしよ・・・・こうなったら山勘で!

 そう決心して答えようとした時、右隣の席からボソッと数字を答える声が聞こえた。


「三だよ・・・・・」

 俺はその声を聞き、正面を向いたまま答えた。


「さ、三です!!」

「なんだ、ちゃんと授業聞いてたのか、正解だ」

 た、助かった!?


「あっははは、俺はてっきりお前が俺の授業中に寝てやがるのかと、いやぁすまんすまん」

「あははは、俺が先生の授業で寝る訳ないじゃないですか・・・・・ははは」

 増田先生の授業での睡眠=追加課題・・・・・

 これもう新手の体罰だろ。


 先生はそのまま授業を再開し始め、皆板書をノートに記入する。


 っとそうだ、お礼しなきゃ。

 俺は先生にバレないように顔を右に向け、彼女にお礼をした。


「桃原さんありがとう、助かったよ」

「ううん、気にしないで・・・・」

「追加課題くらちゃったら大変だからね」

 ホンマええ子や。


 俺に微笑み、そう小声で話してくれる同じクラスの女の子【桃原優芽ももはらゆめ】はたまたま高校入学後に働き始めたバイト先が同じで”また”仲良くなった。

 そう彼女こそ俺の初恋の女の子である・・・・


「でも珍しいね、あっく・・・・赤城君がウトウトしてるなんて」

「いや、昨日はちょっと先輩とゲームしてて・・・・ほゎぁぁ、寝不足で・・・・」

 俺は止まらない・・・・もはや止める気もないあくびをしつつ、寝不足の原因を答えた。


「先輩って、姫先輩?」

「そうそう、なんなのあの人?もう勝てるビジョンが全く浮かばんわ」

「ふーん、バイト以外でも仲良いんだ。ふーん」

 なぜ二回言った?

 あと、その不満そうな目は何?


「まぁでも赤城君が勝てないのも仕方ないよ、姫先輩から直接聞いたけど、前開催されたオンラインゲーム大会で二位だったらしいよ?」


「嘘だろ!!?」

 その衝撃的過ぎる言葉に俺の声は小声でなくなっていた。


「嘘じゃない、次の期末テストは中間の倍の出題範囲だから気を抜いてるとまた赤点取るぞ赤城?」

「え?・・・・・・・嘘だろぉ!!!?」

 俺のリアクションは運よく別の形で処理されたが、先生から絶望的な忠告を受け、授業は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る