オペレーション・ショッピングデート

「この服とか青崎さんに似合いそうだと思うよ?」

 紺色を基調としたワンピースを持った赤城君が私におススメをしてくれる。

 私たちは服屋さんに来ていたのだが・・・・


 付いてきてる・・・・

 今度は向かいの靴屋さんの壁から三人がこちら覗いている。


「ほ、本当ですか?」

 向こうの様子が気になって会話に集中ができいないよぉ。

 赤城君が私に近づく度に不機嫌そうな顔しちゃって・・・・三人いたら一人くらいまともな人いてよ!


 せっかく赤城君が似合いそうって言ってくれってるのに、近寄りづらい・・・


「うん、似合ってるけど・・・・」

「その、どうかしたの?さっきからどこか気にしてるみたいだけど」


 ばばば、バレてる!!

 ちょっと周りを気にするあまり、目が泳ぎすぎていたかも。


 どどどどどうしよう、赤城君に気付かれるのはまずいし、近寄りすぎると組の人がアレだし・・・・

 でもこの服は可愛いし、何より赤城君が似合いそうって言ってくれた服だし、この服を着てまた可愛いって言ってもらいたいし、あわわわわわ!


「えっ!えっとその・・・・私これ買ってきますね!」

 勝手に妄想をしていたたまれなくなった私は逃げるようにワンピースを手に持ち、レジに向かった。


「こ、こここの服ください!」

 私は勢いのあまり服と一万円札をドンっとレジに叩きつけるように置き、お会計を済ませようとした。


「ありがとうございます。ポイントカードはお持ちでしょうか?」

「ももも、持ってません!」

「宜しければ、お作りいたしますか?」

「いえ、結構です!ありがとうございます!!」

 私が変な言動を取っているせいで店員のおねぇさんも笑顔のままちょっと汗かいてるよ・・・・

 この服はちょうど四千円・・・・お釣りとレシートを頂いて、早くお店を出よう。

 そう思い手元に戻って来たお釣りを確認したが・・・・・


 6400円・・・・


「あの、これお釣り間違ってませんか?」

「え?」

「四百円多いと思うのですが・・・・」

「あ!あぁそう言う事ですか!」

 多めに頂いたお釣り額をお返ししようとしたが、店員さんは片手の手のひら上で拳を叩く。

 そして、店内に掲示しているポスターを指さし、言葉を続けた。


「当店ではただいまカップルキャンペーンを行っておりまして、カップルでご来店いただいた際に商品を10%割引にさせていただいてます」

「へぇ~カップル・・・・カップル!?」

 かかかか、カップル!?私と赤城君、お付き合いしている様に見えたって事!?

 まだ告白もしてないのに、良いのかな?キャンペーン対象にしてもらって。


 無事?買い物も終わったし、赤城君の元へ戻ろう。

 顔早く元に戻さない・・・・また赤くなってるよ・・・・・

 最近赤城君といるといつも火照ってるよ。


 !?


 近づいてきてる!?


 考え事をし、店を出ようとした時に組の人達が目に入った。

 先ほどいた靴屋さんから20メートルほどこちらに近づき、私たちを植栽の陰から見ている。

 きっとあの位置では声は聞こえなかったのね。


 どうしよう、あの位置だとますます普通の態度と適切な距離感を維持しつつ、会話も普通にしないと・・・・

 まずカップルキャンペーンの事は伏せて、えっとそれから・・・・ゲッ!?


 なんかめちゃくちゃ赤城君の顔が暗くなってる!!


 あわわわ、私が逃げるようにレジに行ったから?やっぱりさっきの手つなぎの事かな?

 なんにせよ直ぐに戻って機嫌を戻してもらわないと・・・・ゲゲッ!!


 なんか組の人達がすごい顔で赤城君を睨んでる!!

 あの顔絶対アレだ、《コイツ、お嬢といるのになにつまらなそうな顔してんだよ》って顔だ!


 どどど、どうしよう。赤城君の機嫌を直して、組の人達にも睨まれない方法・・・・はっ!

 そうだ、こんな時こそ本の出番!


 意中の男性を振り向かせる方法!

【押してダメなら引いてみろ!名前で呼ぶと距離がグッと近づく!!】

 や、やってやります!赤城君と仲良くなる為に!買い物を無事に終える為に!


 私は走った。

 赤城君目掛け、手を振りながら走った・・・・・


「は、はるく~ん、お待たせ~」

「は、はる君!?」

 押して・・・・えいっ!!


「あ、青崎さん・・・・その・・・・当たってる・・・・」

「えぇ~何そのよそよそしい呼び方・・・・いつもみたいに”楓”って呼んでよ」

「ちょ、ちょっと本当にどうしたの!?」

「どうしたっていつも通りでしょ?ね!」

 ど、どうだ?これで少しは・・・・


 私は組の人達の方をチラッと確認したが。


 血を吐いて倒れてる!?

 何があったらそうなるの!?

 なんか床に血文字で【クソガキ】って書いてる様にも見える・・・・


 赤城君の方は・・・・・

「あっはい・・・・」

 あれ?あんまり反応良くない?

 チラッと見上げた赤城君の顔は赤いだけで特に表情の変化はなかった。


 まだだ!”押して”ダメなら!!


「はるくん、私次はあのお店に行きたいな」

「ほらっ、行こ!」

「ちょ、ちょっと!」


 ”引いて”みる!!

 私は赤城君の手を引き、黒が基調のお店に向かった。

 これで組の人と距離を離せるし、一石二鳥!


 このまま赤城君の手を引いて・・・・引いて・・・はっ!


 私、赤城君と手、繋いじゃってる!!

 あわわわわ、意識したら顔が熱くなってきた・・・・

 流石女性に人気の本!本の通りにしたら自然と手まで繋げちゃったよ!

 ”押してダメなら引いてみろ”ってこれであってるよね?


 でも・・・・恥ずかしすぎる!!

 勢いで手も繋いで、下の名前も・・・・・


「あ、青崎さん・・・・?」

「すみません・・・・今はその・・・・何も聞かないでください」

「突然すみませんでした。次、行きましょう」

「う、うん・・・・」

「すみませんがここからは手を繋いでもらえませんか?」

「い、いいけど」

 とりあえずせっかく繋げたこの手を離すわけにはいかず、無理やり手つなぎを継続させた。


 次のお店は本屋さん・・・・組の人達は・・・・「良し」

 まださっきの場所でのたばってる。


 本を買い、お昼ご飯を食べ、時間はあっという間に過ぎていった。



 もう17時か・・・大変な一日だったけど楽しかったな。

 ”楽しい時間が過ぎるのは一瞬だ”なんて経験するまで信じていなかったよ。

 また遊べないかな?次は邪魔が入らない場所で、二人で・・・・

 もっと赤城君と・・・・・あっ。


 私の視界には、私が一番好きな可愛いぬいぐるみが写った。


「あっ!ペンタン・・・・」

「ペンタン?」

「あぁ、クレーンゲームか」

「可愛いなぁ・・・・」

 商品ディスプレイに並んだペンタゴンは私が持っている物の十倍の大きさはあった。

 ヤクザの娘がぬいぐるみを好んでいるなんて、うちの組の人達が知っている訳も無く。

 その立場上からぬいぐるみを好んでいると怒られると思っていた。

 だから中学校の時、こっそりと買った私の友達件宝物のペンタゴン・・・・・の十倍!?

 可愛すぎる!!!


「欲しいの?」

「あっいやその・・・・・はい・・・・」

 ディスプレイをジッと見ていた私の表情で分かったのか、赤城君はそう聞いてきてくれた。

 でも・・・・


「でもやっとことも無くて・・・」

 ゲームセンターに入った事も、クレーゲームを触った事も無い私には、どうがんばっても手に入らないもの。

 諦めていた時、彼は荷物を置いてそのクレーンゲームに向かっていった。


「ちょっと待ってて・・・・」

 慣れた手付きでお金を入れ、操作を始める。

 赤城君はぬいぐるみの本体を持ち上げず、ぬいぐるみに付いたタグにアームの爪を引っ掛けた。

 そのまま落下口にゴール・・・・


「はい、取れたよ」

「す、凄いですね赤城君・・・・こんな特技が」

「いやまぁ、バイト先の先輩が馬鹿みたいにクレーンゲームが上手くてさ、教えてもらったんだ」

 こんな大きなぬいぐるみの相場って三、四千円はするはずなのに、赤城君はたった百円で取ってしまった。

 赤城君より上手な先輩さんはきっとお店泣かせなのでしょうね。


 あっ!このペンタゴン、いつも胸元に持っている五角形のマークが星形になってる!

 それにしっぽのデザインも少し違うかも・・・・

 おっきなぬいぐるみだから目もいつもよりクリクリして見える・・・・可愛いなぁ。

 私が赤城君の抱きかかえているペンタゴンを見つめ、考えていると彼は笑った。


「あははっ、そんな顔しなくてもあげるよ」

「えっと・・・その・・・でもこれは赤城君が・・・お金も」

 そう言うつもりで見てた訳じゃ無いのに・・・・嬉しいけど。

 貪欲な女の子って思われたかも・・・・

 そう思うとまた顔が、耳が熱くなってきた。


「元々青崎さんの為に取ったんだし、コイツも青崎さんに貰ってもらった方が喜ぶよ、なっ!」

「ソ、ソウデスネ。オネェサン二モラッテホシイデス」

 赤城君は抱えたぬいぐるみの手を動かして、一人二役の声で私に話しかけてくれた。

 その光景は優しいのにおかしくて、可愛くて、私はつい笑ってしまった。


「フフフ、可愛いですね赤城君は」

「前に見た青崎さんの真似してみたんだけど、似てた?」


「あっ!あの事は忘れてください!!」

「アハハ、ごめんごめん」


「もう・・・・意地悪ですよ?」

「でも、ありがとうございます」

 思わぬ反撃で恥ずかしい記憶が蘇ってしまった。

 時々意地悪な事言ってくるのよね、赤城君って・・・・もう。

 私はプクッと頬を膨らませてみた。


 でも、赤城君は私が受け取りやすくしてくれたんだ・・・・

 彼がいなければ、私はまだペンタンとお話してたかもしれない。

 香織ちゃんとお友達になって、赤城君と・・・・お友達と遊ぶ事なんてなかったかもしれない。

 そう思うと胸が熱くなった気がした。


 私がまた考え事をしていると彼は思い出したかのように声を上げた。


「あっごめん!買いたい物あるの忘れてた!」

「悪いけどちょっとここで待っててくれないか?」


「え?他に行きたいお店があるのでしたら、私も一緒に行きますよ?」

「いや、すぐ帰ってくるから大丈夫、荷物も多いしさ」


「わ、わかりました」

 その言葉と共に彼は駆け出して行った・・・・と思ったら五分程で戻って来た。

 肩にかけていたサコッシュが少し膨らんでいるような・・・・




 はぁ・・・・終わっちゃった。

 服は買えたし、ぬいぐるみも貰えたのにこのさみしい気持ちは何なのだろう。

 駅に向かう一歩一歩が重たく感じる。

 学校に居る時はこんな事思わないのにな・・・・

 私は抱えていたぬいぐるみをギュッと抱きしめた。


 駅までの道を渋々進んでいると背後から聞き覚えのある声がした。


「ねぇおねぇさん、ちょっと俺らと遊ばない?」

「そうそう、そんな冴えない奴ほっといてさ」

 振り返ると案の定あの三人が居た。


 この人達、普通に声かけてきたんだけど!!

 嘘!私に気付かれていないと思ってるの!?


「この人達、青崎さんの知り合い?」

「えっと・・・・その、知ってるような・・・・・知らないような、そんな感じです」


 どどど、どうしよう。

 この感じ、赤城君はまだこの三人がうちの人達って事を気付いてないよね?

 って言うかこの人達どうして話しかけて来たの?何考えてるの!?

 もしかして・・・・・いや、あり得る。

 私はなんとなく彼らがこのタイミングで話しかけて来た理由が分かった。


「ほら、彼女もお兄さん達の事知らないみたいだしさ、解散にしない?」

「一応今日は俺が彼女を貸し切らせて貰ってる訳でね」

 何そのセリフ、カッコイイ!

 本に書いてるのかな?

 後で私が読んだ本の男性バージョンも読んでみよう・・・・ってそうじゃない!


「あぁ!?お前とは話す気ねぇんだよ!」

「そうそう、お前みたいなチビ陰キャと違って俺達はこっちの嬢ちゃんに様があんの」


 こいつら、今赤城君の悪口言った?


 後で飯田さん諸共ー


「早く来いよ!」

「痛っ、やめて、離して!」

 そう考えていると一人が私の手を強引に引っ張り始めた。


 もうゆるさない、赤城君の悪口含め・・・・今ここで!


 いつものお嬢様口調で怒りだそうとした時、私が発しようとしていた言葉と同じ声が聞こえた。


「おい・・・・いい加減にしろよ」

「嫌がってんだろ?離せよ」

 目の前の赤城君がいつもとは全く違う目つきと声で怒っていた。


「はぁ?何生意気な口きいてんだ?」

「てめぇには要はねぇって言ってんだろうが!!!」


 一人が赤城君に向かい殴りかかったが、赤城君はそれを容易くかわし殴りかかった腕を掴んだまま相手を地面に叩きつけ、体重と関節で固定した!!


「いでででで!!」

「今すぐ消えるか、このまま肩の骨折られて三か月ギプス生活のどっちがいいか今すぐ決めろ」

「ふ、ふざけんじゃー」

「いでででで!」

 抵抗の隙も与えず、更に男の関節は閉まっていく。


「3・・・・2・・・・」

「わ、わかった!消える!消えるよ!!」

 カウントダウンに恐怖したのか、その言葉と共に組の人達は帰っていった。


 仮にもヤクザ何だから、あれくらいで降参するならナンパなんてしてくるなってものよ

 まったくもう・・・・


「ごめんな青崎さん、怖い思いさせちゃって」

「え?」

 胸が痛くなった・・・・・私が原因なのに。

 怖い口調で話したから?自分が頼りないから、私がナンパされたと思っているのかな?

 その言葉を聞くだけで胸が苦しくなった。

 だからこそ、私は言わいといけない。

 君のせいじゃないよって・・・・お礼を。


「赤城君、ありがとう!」

「カッコよかったよ!」

「え!?あ、あぁどうも・・・・」

 私にもだんだん分かって来た、赤城君は急に褒められるのに弱い。


 頬をかいて横目で照れる赤城君共に駅のホームに向かった。


 最後にトラブルがあったけど、何とか初デー・・・・もうデートでいいかな。

 初デートは上手くいった気がした。

 私たちは最寄りの駅の関係で別々の電車に乗車する。

 後五分したら、私の乗車予定の電車が先に来てしまう。


 まだお話したいな・・・・まだ赤城君と一緒にいたい。


 明日も学校で会えるのに、どうしてこんな気持ちに・・・・・

 悲しくなっていると彼が照れながら私に声を掛けてくれた。


「青崎さん・・・・」

「はい?どうかしました?」

「はい、これ。誕生日おめでとう」

「え・・・・これ・・・・私に?」


 彼の手には紙包装された何かがあった。


「一週間くらい遅いけどね、青崎さんの誕生日をお祝いしたかったんだ」

 その言葉と共に微笑む彼は優しい目をしていた。


「その・・・ありがとうございます」

 突然のプレゼントに戸惑い、いいリアクションができなかったけど、涙が出そうなほどに嬉しかった。


「今・・・・開けてもいいですか?」

「もちろん」


 その言葉を聞き、中身を確認した。


「青崎さん、いつも本読んでるしちょうどいいかなぁって思ってさ」

「あははは、安物だけどね」


 中身は紅葉柄のブックカバーだった。


 彼は照れ隠しで頭をかいてそう言っているが、このプレゼントは値段がどうとかじゃない。

 今まで、組の人達から千回以上の誕生日プレゼントを受け取り、祝われてきたけれど・・・・


「赤城君!ありがとうございます!」

「今まで誰かに頂いた中で、一番嬉しいです!」


 これは私の本音。

 家で空けていたら涙が出ていたに違いない。

 でもこんな彼からの最高の贈り物を頂いたんだ、私がすべきは泣き顔などではない。


「本当にありがとう!!」

 私は今日イチの笑顔でそう言った後、電車に乗り彼とは別れた。




 自宅に着き、自室で貰ったブックカバーとぬいぐるみを見つめ、一人呟く。


「お返しは、何がいいかな」


 ◇


 余談ですが、青崎に怒られた飯田さんは部下の前でガチ泣きしたのだとか・・・・・

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