ヤクザの娘の本心を俺だけは知っている

お嬢様七変化

「お待たせしました！」

　待ち合わせ場所のショッピングモール内、雑貨屋前のベンチに座っていた俺に彼女は駆け足で手を振りながら近寄って来た。

「おはよう、青崎さん。全然待ってないから安心して、俺も今着いたとこだよ」

「そ、そうですか・・・良かったです・・・・あっおはようございます」

　青崎は息を整え、いつもと変わらず挨拶を返してくれた。

　今日は先日学校で約束した青崎と初めて遊ぶ日。

　まさかあのラブコメ漫画おなじみの《待った？》《いや、今来たとこ》を実際に言える日が来るとは・・・・

　実際は一時間前には居たけど・・・・そこは言わないお約束。

　とりあえず今は・・・・

　美穂が言っていた女心練習その①

【女の子に会ったら服装を褒める】を実践するべく息を整え終わった青崎を見つめる。

　今日はいつもの制服姿と違い、白いロングスカートにデニムジャケット。

　頭にはベージュのハット帽をかぶっている。

　いつもと違い過ぎる服装にどこから褒めるべきか悩んでいると青崎が口を開いた。

「私、赤城君の普段着初めて見ました！」

「普段の制服姿も素敵ですが、その・・・・カッコイイですね」

　少し頬を赤らめながらそう言ってくれた青崎は言葉と共に微笑む。

　先に言われた！！

　ど、どうしようどこ褒めよう・・・・正直似合い過ぎていてどこでも褒めれるんだけど。

　そう頭を悩ませていると美穂の言葉を思い出した。

　女心練習②

【褒めるときは可愛いって言う！】

　美穂先生！ありがとう！！俺ちょっと恥ずかしいけど勇気出して言ってみるよ。

「お、おうありがと・・・・青崎さんもその・・・・いつもと違う服装、可愛いよ」

　無事に伝えられた。

　少し笑顔が足りなかったかもしれないが及第点として褒めてくれ。

　俺の言葉を聞いた青崎は耳が赤くなり始めた。

「あ、あ、あり・・・ありがとうございます」

「あはは、そろそろ行こうか、ずっとここで話してるのもアレだし」

「ですね、行きましー」

　俺の提案に返事をする瞬間、青崎は後方を凄い速度で振り返った！！

　一瞬凄い形相で後方確認をしたが、すぐにこちらに顔と体を戻した。

「ど、どうしたの！？何かあった？」

「い、いえすみません、行きましょう赤城君・・・・」

　なんだったんだ今の・・・・まるで暗殺者の気配を感じ取った護衛のような・・・・

　と、とりあえず次の女心練習だ。

　その③【さり気なく手を繋ぐ】

　これはかなり難易度が高い・・・・

　ほぼ妹みたいな美穂とでも緊張した俺が・・・・できるのか？

　いや！やるんだ・・・・青崎と仲良くなる為に！

　俺は青崎の右手に自身の左手を伸ばしたが。

　その繋ごうとした手をバシッと払いのけられた・・・・

「あっ・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

　美穂ぉぉぉぉ！！！！！！ダメじゃん！！

　数秒の沈黙の中俺は天井に向かいそう叫びそうな思いを心の中に留めきった。

「ご、ごめんなさい！手を繋ぎたくないわけじゃなく・・・・どちらかと言えば繋ぎたいのですが、その・・・・恥かしくて」

　目が泳いでる・・・・気を使われた・・・・

　はぁ、俺ダサすぎるよ。

「あはははごめんね、妹の言葉を意識し過ぎてたみたいだったよ」

「それじゃあ気を取り直して行こっか」

「あっはい！」

　俺は涙が出そうだった。

　店内をぶらついた後に特に他と変わりのない服屋に来ていた。

「この服とか青崎さんに似合いそうだと思うよ？」

「ほ、本当ですか？」

　俺は手に持った服を青崎さんにおススメしていた。

　返事が返ってくるが、また何かを気にしているような様子だった。

「うん、似合ってるけど・・・・」

「その、どうかしたの？さっきからどこか気にしてるみたいだけど」

「えっ！えっとその・・・・私これ買ってきますね！」

　明らかに青崎はどこかを見るようにチラチラと視線を移動させていた。

　指摘するとすごいスピードで俺がオススメしたワンピースを買いにレジまで逃げるように走っていった。

　今日はどうしたんだ？本当に何か様子がおかしい。

　うーん俺はもしかして嫌われているのか？

　さっきの手の払い方、あんなの完全に《触らないで！！》って言いたげな感じだった。

　俺何かしたのかな？

　俺が店の前のベンチで座って考えていると、買い物が終ったであろう青崎が駆け足でこちらまで寄ってくる。

　店を出る前に深呼吸をしているのが見えた・・・・なんで？

「は、はるく～ん、お待たせ～」

「は、はる君！？」

　何その呼び方に話し方・・・・って！！

「あ、青崎さん・・・・その・・・・当たってる・・・・」

　何故か俺の右腕を両手で抱きしめるようにガッチリホールドしてくる。

　つまり・・・・胸が・・・・・

「えぇ～何そのよそよそしい呼び方・・・・いつもみたいに”楓”って呼んでよ」

「ちょ、ちょっと本当にどうしたの！？」

「どうしたっていつも通りでしょ？ね！」

　その言葉と共に俺を抱きしめる腕がぎゅっと締まる。

「あっはい・・・・」

「はるくん、私次はあのお店に行きたいな」

　青崎が指さす先には、黒を基調とした、先程とはまた違った服屋があった。

「ほらっ、行こ！」

「ちょ、ちょっと！」

　俺の手を引きその黒い外観の服屋に向かっていった。

　店内に入り手を離した青崎は気まずそうにし、走ったことで呼吸が荒くなっていた。

「あ、青崎さん・・・・？」

「すみません・・・・今はその・・・・何も聞かないでください」

　顔は赤く下を向いて呼吸をしているから当然表情は見えない。

「突然すみませんでした。次、行きましょう」

「う、うん・・・・」

「すみませんがここからは手を繋いでもらえませんか？」

「い、いいけど」

　予定とは違ったが無事に青崎と手を繋げた。

　俺の手を引き店を出るかと思いきや、店の入り口で顔だけを出し、キョロキョロと周囲を確認した青崎は

「良し」と一言発し、次の目的地である本屋に向かった。

　あなたはSPか何かですか？

　結局様子がおかしいまま買い物は続き、日も暮れ始めた為帰ろうと出口に向かっていた途中・・・・

「あっ！ペンタン・・・・」

「ペンタン？」

　青崎がそう言い視線を向ける先には大きなペンタゴンのぬいぐるみが展示されていた。

　そう言えば教室でペンタゴンの小さいぬいぐるみに話しかけていたっけ。

「あぁ、クレーンゲームか」

「可愛いなぁ・・・・」

　ジッと景品ディスプレイのペンタゴンを見つめ、そう呟く青崎に話しかける。

「欲しいの？」

「あっいやその・・・・・はい・・・・」

「でもやっとことも無くて・・・」

　まぁ青崎とゲームセンターって全然違う位置にいそうなイメージあるしなぁ。

　しかし、青崎が何かを欲しがっている所って始めた見た。

　せっかくの初めてのお出かけな訳だし・・・・

「ちょっと待ってて・・・・」

　俺は知っているコツの通りにぬいぐるみに付いているタグにアームをかける技、【タグ掛け】を行い一発でぬいぐるみを獲得した。

「はい、取れたよ」

「す、凄いですね赤城君・・・・こんな特技が」

「いやまぁ、バイト先の先輩が馬鹿みたいにクレーンゲームが上手くてさ、教えてもらったんだ」

　あのゲーセン泣かせの先輩に比べれば俺なんて可愛いもんだと思うけどな。

　青崎は俺が抱えているペンタゴンのぬいぐるみをジッと見つめていた。

「あははっ、そんな顔しなくてもあげるよ」

「えっと・・・その・・・でもこれは赤城君が・・・お金も」

　その顔に思わず笑ってしまい、青崎は耳が赤くなっていた。

「元々青崎さんの為に取ったんだし、コイツも青崎さんに貰ってもらった方が喜ぶよ、なっ！」

「ソ、ソウデスネ。オネェサン二モラッテホシイデス」

　俺はペンタゴンで顔を隠し、ぬいぐるみの手を動かしながら腹話術の様に自分とは違った声でそう言った。

　元々青崎の為に取ったものだしね。

「フフフ、可愛いですね赤城君は」

「前に見た青崎さんの真似してみたんだけど、似てた？」

「あっ！あの事は忘れてください！！」

「アハハ、ごめんごめん」

「もう・・・・意地悪ですよ？」

「でも、ありがとうございます」

　頬を膨らまし、赤面した青崎は不服そうな顔をしながらも、俺に微笑みかけてお礼を言ってくれた。

　取った甲斐があったってもんだな。

　そんなやり取りをしていると、このショッピングモールに来ていた理由を忘れていてしまった。

「あっごめん！買いたい物あるの忘れてた！」

「悪いけどちょっとここで待っててくれないか？」

「え？他に行きたいお店があるのでしたら、私も一緒に行きますよ？」

「いや、すぐ帰ってくるから大丈夫、荷物も多いしさ」

「わ、わかりました」

「じゃあ」と伝え俺は目的のお店まで走った。

　商品を買い五分程で合流し、そのまま青崎と駅に向かおうとした時、背後より声がした。

「ねぇおねぇさん、ちょっと俺らと遊ばない？」

「そうそう、そんな冴えない奴ほっといてさ」

　振り返るとそこには、派手なスーツに身を包んだ三人の男がいた。