気になる飯田さん

「飯田のオヤジ・・・・突然の集会とは一体何用ですかい?」

 商業ビルのワンフロア内で、黒いオフィスチェアに座る男に向かい、十数名の男たちの中から一歩前に足を出し、紫スーツの男はそう言った。


「まさかとは思いやすが、金狼きんろう関係で?」

「いや、四丁目のシノギの件っすよね?」

 赤スーツを纏った男も紫スーツの様に男に向かい一歩前に出て質問をする。


「いや、金狼でもシノギでもねぇ・・・・」

「そんな事よりも重要な事だ」

 そう発した紺スーツの男の次の言葉を男達は固唾を呑み、待った。

 男は口を開く・・・・


「お嬢の様子がおかしい・・・・」

「なっ!?」

 そう話す男、【青龍会直系・飯田組組長飯田勝茂いいだまさしげ】の言葉に子分たちは動揺を隠せなかった。

「青崎会長の愛娘、楓お嬢に一体何があったんすか!?」


 指を組み合わせ、頬杖を突く強面の男・・・飯田は話を続けた。


「最近・・・・登校時の迎いを拒否されている・・・・」

「あの、青龍会直系組長総出で行う楓お嬢のお迎いを・・・・ですかい?」

「あぁ・・・帰りの迎いはなんとか維持をさせてもらっている状態だが・・・・いつ拒否されるか」

「それで・・・・青崎会長はなんと?」

「楓が言うなら仕方ない・・・・だそうだ」

「ば、馬鹿なぁ!!!」

 子分たちは皆膝から崩れ落ち、床を叩く者さえいる。


 そう、青龍会は青崎楓の事となると皆、頭がおかしくなるのである。

 会長含め、過保護を通り越した大のおっさん達は青崎楓の事を自分の娘の様に溺愛していた。


「落ち着け!お前たちを呼んだのは何も現状報告をする為じゃねぇ・・・・」

 机を叩き子分たちを静かにさせた後、飯田は話を続けた。


「おそらくお嬢は学校内で何かあったはずだ」

「もしかしていじめかっすか!?」

 その言葉に、かつていじめをしていた側っぽい一人が声をあげる。

 もちろんこの言葉に飯田は冷静でいられるはずも無く・・・・


「ウチのお嬢を・・・・クソが!どこのどいつだ!!!」

○○ピー○○ピーして○○ピーしてやろうか!!」

 一番落ち着かずに問題発言を連発した飯田を制止する様に男がまた一人前に出た。


「いや、いじめの線は低いでしょう」

「普段、飯田のオヤジ含め、青龍会の幹部が見守っている楓お嬢様をいじめるなど馬鹿の極みと言えましょう」

「三山・・・・ならお前は何が原因と考える?」

 黒いストライプスーツを身に纏い、自慢のメガネを光らせながら男は自身の見解を伝えた。


「・・・・・考えたくはありませんが・・・・気になる人ができたのではない・・・・かと」

「ぐばはぁっ!!!!!」

 自ら発言し吐血をした、一見知的そうな立ち振る舞いの飯田組若頭【三山一樹みやまかずき】・・・・こいつもアホだった。


「三山、そう言う心臓をえぐる発言は何か根拠があって言ってるんだろうな?」

「”勘違いでした”じゃあお前、エンコじゃ済まさんぞ?」

 急にヤクザの風格を見せ始め、その声に若い子分たちは皆萎縮していく。

 しかし、三山は淡々と自身の根拠を語り始める。


「もちろんなんの根拠も無くこんな・・・・青龍会始まって以来の事件に成りうる事を話すわけはありません」

「楓お嬢様の運転手の権利を獲得して六年目、水上のオヤジ曰く、最近は今まで見た事がない嬉しそうな表情をされているとか・・・・なんとも羨まー」

「コホン・・・・」

 咳ばらいをし、自身の根拠を聞いた事務所内の男たちはざわつき始める。


「なるほど・・・・確かに三山がそう考えるに至る可能性はゼロではない・・・・か」

「どこの馬の骨かも分らんが、ワシに殺されたいようだな」

 手元の銃のトリガーに手をかけ、頭にコンコンと一定間隔で銃本体打ち付ける。

 また子分たちがその光景に恐怖する。


「情報によると、今週末に楓お嬢様は隣町の大型ショッピングモール【マイナスAEONイオン】に向かわれるとの事」

「不服ですが、楓お嬢様にふさわしいかどうかを、我々で見極めさせていただきましょう」

「もちろん、楓お嬢様の思い人でもある可能性が高いのですぐに始末してしまっては・・・・お嬢様に何と言われるか・・・・飯田のオヤジも嫌でしょう?お嬢様に怒られるのは」

「あぁ、あんなに怒ったお嬢を俺はもう見たくない・・・・怒られたくない!!」

 ヤクザの組長が怯えながら、何やら女々しい発言をしていたが、話は戻る。


「とりあえず・・・・それが最適・・・か」

「浅田!宮内!時田!」

「「「うっす!!」」」

 納得はしていないが、しかし三山以外に良い案が出せる者もいない為、話を進めた。

 名前を呼ばれた三人は返事と共に男たちの中から飯田の前に出てきた。


「お前たちはまだ飯田組に入って日が浅い・・・・お嬢はお前たちの顔を把握していないはずだ」

「お嬢を尾行し、お嬢にふさわしい男なのかどうかを確認してこい!」

「お嬢は当然の事だが、その憎き男にも手を出すことは許さん」

「ただし!その男がお前たちの前から臆して逃げる様な事があれば・・・・」

「・・・・あれば?」




「欠片も残さず・・・・・殺せ・・・・」

「「「う、うっす!!!」」」

 怯えながらも初の大役を受けた三人はやる気に満ちていた。


「今は前の学校登校時の件でお嬢の側近を坂口に取られちまったが!」

「お嬢の様子がおかしい原因を探り、お嬢の側近として俺達飯田組が復帰をする!」

「わかったな!!!」

「はい!!!!!!!」

 どう考えても波乱になる、遥と青崎の初デートが始まる・・・・・

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