仲直りプラン
「はるにぃさん、お待たせ」
「全然待ってないけどさ、一緒に行けば良かった事ない?美穂」
最寄り駅から急行電車一本で着く大型ショッピングモールに俺は美穂と二人で来ていた。
「はるにぃさんは女心がまるで分かってないから現地集合でいいの!」
「お、おう・・・・とりあえず今日は付き合ってくれてありがとう」
「それで?何買うか決めてるの?お姉ちゃんの誕生日プレゼント」
「いや・・・まだ何も」
「はぁ・・・・だと思った。だから私にお願いして来たんだもんね」
ため息を吐き、メガネを整えた美穂。
「情けない兄さんですみません」
俺は小さくなり謝った。
* * * *
「お姉ちゃんの誕生日プレゼント選びに付き合って欲しい?」
香織との喧嘩から四日後、橙山家の玄関で俺は美穂に向かい頭を下げお願いをしていた。
「うん・・・・ダメかな?」
「そんな乙女見たいなお願いしないでよ、気持ち悪い」
「うっ・・・・」
頭を下げたまま美穂を見上げたせいで、意図せず上目使いで美穂を見ていた。
しかし、キモイとはひどいな・・・・
「私の言う事聞いてくれたら、お買い物について行ってあげる」
「ほ、本当か!?」
「うん・・・・」
「まじか!ありがとう!」
最近、香織が何を好きで欲しているのかを把握していなかった為、この”妹”と言う助っ人を得た功績はデカい。
これで、香織と仲直りを・・・・
「私も、お兄ちゃんとお出かけしたかったから」
「ん?なんて?」
美穂がボソッと呟いた言葉は聞こえなかったが、少し頬を赤らめていた。
「何でもない!それより私の言う事聞いてよね!」
「お、おう俺にできる事なら・・・・」
そう返事をした俺に前かがみになり、美穂は”言う事”を言ってきた。
「いい加減、お姉ちゃんと仲直りして」
「はい・・・・」
そして次の日、俺達は大型ショッピングモールにやってきた。
* * * *
「ん!」
「ん?何だ?」
両手を広げ何かを訴えかけてくる・・・・アメリカのハグ的な何かして欲しいのか?
「服の感想!!」
「え!?あぁ、ごめん・・・・その、似合ってるよ」
「もう本当に分かってないんだね、はるにぃさんは」
髪をくるくるさせ、服の感想を求めてくる美穂。
今日はいつものような学生服ではなく、白いTシャツにデニム生地のスカート。
髪は流すのではなく、後ろで束ねている。
髪を結んでるか、そうでないかで印象って変わるものなんだな・・・・
「オシャレした女の子に会ったら、まずは服装についての感想」
「後、”似合ってる”じゃなくて”可愛い”って言うの!」
「はい!可愛いです!」
「よ、よろしい!」
俺たちは店の前で何をやっているんだか・・・・
周りを通るおばさま達からは「若いっていいわね」とか「一番楽しい時期ね」と言う声が聞こえ、俺たちは二人とも顔が赤くなっていた。
「そ、それじゃあ行こ、はるにぃさん」
「お、おぉ!?」
右手に温かいものを感じ俺はそれを確認すべく、自身の右手に視線を落とす。
「み、美穂・・・・どうして手、繋いでるの?」
「お、女心の理解度を上げる練習!!」
小学生の頃はよく手を繋いでいたが・・・・流石に美穂ももう中学三年生。
”妹”と手を繋ぐのは・・・・気まずい。
「わ、わかった」
しかしこれも練習ならば仕方がない。
美穂も特に嫌がってる様子もないし、そのまま俺たちはお店を見て回った。
「うーん、何がいいのかな」
「お姉ちゃん、服は自分で買ってるし、趣味も特にないからね」
大方、店内を見て回ったがピンっと来るものは見つからなかった。
「逆にはるにぃさんが貰う側だったら、何が欲しいの?」
「俺?そうだな・・・・」
俺も特に趣味とかないしなぁ・・・・でも強いて言うなら。
「コップかな?」
「コップ?はるにぃさん、家具が好きなの?」
「うん、最近気になってる奴だと二重構造になって結露を防いでくれるコップとかね」
「あっ、そういう事か」
俺の家具話に何かを思い出した様子の美穂。
「だからお姉ちゃん、最近家具とかインテリアのサイトをよく見てたのか」
「香織が?どうして?」
アイツは別に家具とかに興味があるわけじゃないのはよく知っていた。
「馬鹿だなぁ、はるにぃさんと話を合わせる為でしょ?」
「お姉ちゃん、あぁ見えて意外と真面目なんだよ」
「そっか・・・・知らなかった」
アイツが・・・・香織が俺と話をする為に。
思えば最近、俺は香織とまともに会話をしていなかったな・・・・
俺の為にいろいろ調べてくれてたのに・・・・・悪い事したな。
”幼馴染”って言葉を利用して香織を蔑ろにしていた。
「香織も、女の子なのに・・・・」
俺は自身で呟いた言葉を心に留め、美穂に提案をした。
「ごめん美穂、もう一回店内を回ってみてもいいかな?」
「別にいいけど、何か気になるお店でもあった?」
「そう言う訳じゃないけど、次はもっと真剣に探したくて・・・・」
毎年適当に選んだ物を渡していたが、今回は違う。
ちゃんと香織に謝って、お祝いもできる物を探したくなった。
伝えたい言葉もある・・・・
その後、一時間かけ店内を回り、ようやく気に入った物が見つかった。
「ほ、本当にそれを渡すの?」
「え!?そんなにおかしいか?」
美穂は俺が手に持っている商品を見つめ、眼鏡を整えながら言ってくる。
これ、そんなにおかしいのか?他の女の子のお客さんも違う種類を買っていたし、なにより!
【プレゼントにオススメ!!】って書いてるし・・・・・
「やっぱり、千円くらいの物だとダメかな?」
”コレ”の価格は税込み980円。
女の子にまともなプレゼントを渡したことも無いから相場がわからん。
美穂は頬を赤らめて俺と持っている商品を交互に見ているし・・・・
「いや、価格の事を言ってるんじゃなくてね」
「はるにぃさん、物にも適応されるのかは分からないけど、”意味”とか理解してる?」
「意味?何それ、別に他の女の子も持ってるだろ?」
意味?いったい何の事だ?そんなにおかしな物でもないだろ。
そう考えていると、美穂はため息をついた。
「はぁ、まぁはるにぃさんが良いなら良いんだけどさ、これは女心の練習必須だね・・・・」
「い、良いの良いの!俺はコレが香織にピッタリだと思うから」
俺は美穂の言葉を振り切り、お会計をすました。
その後はカフェにより、一時間ほど時間をつぶし、帰宅した。
「今日はありがとね、助かったよ」
「ううん、私も楽しかったし、いいお休みになったよ」
「それならよかった」
自宅前で美穂にお礼をし、今日の一日が終わった。
決戦は明後日の橙山家で開かれる誕生日会。
そこで俺は香織と仲直りをする!
* * * *
・・・・・と意気込んでいたのだが。
「バイト!?」
「えぇ、なんでもお友達が高熱を出したみたいでね」
誕生日を祝いに橙山家を訪れた俺は、おば・・お義母さんに香織が急遽バイトに行った事を聞かされた。
「うーん、せっかく遥も来てくれてるわけだし後日また日を改めて行いましょうか」
「・・・・そうだね」
また仲直りが遠のく・・・・許してもらえるかは分からないけど。
香織のアルバイトは21時まで、終わってからでは遅すぎると別日の提案をされたが。
やっぱり、誕生日は当日に祝ってこそだよな。
「お義母さん!」
「な、何?」
「香織のバイト先って確か
「えぇ、そうだけど・・・・」
三咲駅までは最寄駅から電車で15分程、《おしゃれなカフェができた!》とか言って少し離れた所で香織はアルバイトを始めた。
「俺ちょっと行ってくるよ!今日、香織に伝えたいし」
「そう・・・・終電が無くなった時は電話してよね、迎えに行くから」
そんなに長居する気はないけど、ありがたい言葉だな。
「ありがとう、お義母さん」
お礼を言って早速香織のバイト先に行こうと玄関の扉を握った時に、お義母さんに声をかけられた。
その言葉に足が止まり振り返ると優しく微笑んでいた。
「早く仲直りして、またご飯食べに来なさい」
「もしかして・・・・気づいてた?」
「当たり前でしょ、私に隠し事が通じると思った?」
急に声のトーンが変わり、笑っているのにどこか怖い。
昔から思ってたけど、おっちゃん絶対尻に敷かれてるよな・・・・・
「まぁ、今はいいから、気を付けていってらっしゃい」
「うん、行ってきます!」
その言葉と共に俺は香織のバイト先へ向かった。
* * * *
・・・・・落ち着け俺
店に入って、香織を見つけて謝るだけだ・・・・・って馬鹿か!
業務中に行ってどうする!!
ここはやはり、控室から出てくるところを出待ちして・・・・・って馬鹿か!
これじゃあ不審者じゃん!!
「あっ・・・・」
香織に会う方法を考えながら、ガラス越しに店内の様子を確認すると、レジカウンターに探していた女の子がいた。
俺は無意識に店に入り、香織の前まで来ていた。
「はる・・・・・」
「えっと・・・・その・・・・」
どどどど、どうしよう。
まずはごめんなさいって言うべきか?それとも誕生日おめでとうか?
と言うより今香織は業務中だし、ここで突っ立ててもお店の迷惑だし・・・・
《女心練習!》
俺の脳内に美穂の声が響き渡った。
そうだ、香織に迷惑をかけずに香織に会うには、普通に《バイト終わったら話がしたい、店の前で待てる》的な事を伝えればいいだけじゃん。
俺は決心し、口を開く。
「香織!」
あっ・・・・でも最近避けられてたし、来てくれないかもしれない。
どうすれば・・・・
「お、俺と今からデートしてください!!」
「え?」
何言ってんの俺!!?
で、デート・・・デートってどうするの?
ほら、香織も困ってるじゃん!俯いてんじゃんか!!
どうしよ、これ絶対また機嫌悪くなるよ・・・・
「バイト終わるまで待ってて・・・・」
あれぇ・・・・・・・・?
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