大切な人
「ねぇ、どこまで行く気なの?」
「えっと、もう少しで着くと思うんだけど・・・・」
俺の後ろを歩く香織から声をかけられる。
デートの誘いをしたが当然プランがある訳も無く困っていたが、香織のバイト終わりの時間までにある場所に歩いていける距離に自分がいる事を思い出した。
十五分程歩き、流石に目的地も伝えずに付いてきてもらっている事と、現在喧嘩中な事もあり、香織の機嫌は悪くなっているように感じられた。
何分目的の場所には三年ぶりに訪れるので、道があっているか不安だったが・・・・
「潮のかおり・・・・」
そう呟く香織の声を聞き、着実に目的地に近づいている事を確信した。
「ここって・・・・・」
目的地にたどり着き、香織はそう呟いた。
波音が聞こえる。
ゆったりとした波が、寄せては返す。
俺たち以外に人が居ないせいか、その音はよく聞こえる・・・・
「うん、昔おっちゃんに連れてきてもらった海水浴場」
水面には月が写り光っている。
満月じゃないのが残念だが、この景色を二人占めって言うのはかなり贅沢だな・・・・
香織はその景色に見とれたように視線を動かさず、ただ真っすぐに海を眺めていた。
その表所を見ていると、先程まで悩んでいた事が、嘘見たいに言葉が出てきた。
「香織・・・・」
俺の呼びかけに、横にいた香織はこちらを向いた。
「今まで、ごめん・・・・」
「呼び方や対応とか・・・・」
「香織はいつも俺の為にいろいろ考えてくれてたのに、俺はー」
ここ最近の事はもちろん、今まで香織がしてくれていた事、俺がした事を思い出し謝罪をした。
俺は言葉を続けようとしたが、香織が口を開いた。
◇
「あの場所・・・・覚えてる?」
私が指さした場所は、他と何の変りもない砂浜。
でも、私にとってはとても大切な思い出の場所。
「うん・・・・」
はるは小さく頷いた。
「はるが私をナンパから助けてくれた場所・・・・」
「足を震わせながら、私の前に立って私の事を守ってくれた」
「いやまぁ、情けなかったけどな・・・・」
中学一年生の女子をナンパする高校生くらいの男三人組・・・・今思い出しても普通に怖い。
絶対将来性犯罪を犯していると思う。
はるは頬を掻き、あの時を思い出す様に答えてくれた。
「ねぇ、はる・・・・」
「うん?」
はるは”あの場所”を見ていたが、私の呼びかけにこちらを向いた。
久しぶりにはるとまともに目を合わせた。
「はるが私をいつも助けてくれるのは、幼馴染だから?」
「ナンパされても不良に絡まれても、ノートを忘れても、お財布無くしても、迷子になっても、転んでけがして泣いていても助けてくれたのは幼馴染だから?」
思い出・・・・はるが私を助けてくれた数えきれない程の思い出。
小さい頃から今も私を助けてくれる理由を聞きたくなった。
「うん、そうだよ」
「やっぱり・・・そうなんだね」
結局彼は幼馴染だから助けてくれていただけ。
私の事を少し仲のいい姉くらいにしか思っていない事を理解した。
下を向いてしまいそうな時、彼は言葉を続けた。
「でも、幼馴染だからって理由だけじゃないよ」
「え?」
彼は頬笑み、また言葉を続けた。
波の音と彼の声しか聞こえない。
「例え香織と幼馴染じゃなくても、香織が辛い目に遭っていたら助けるし、泣いていたら慰めるし、悩んでいたら悩みが解消されるまで話を聞くよ」
はるの目は優しいのに真っすぐ真剣な表情で私を見てくれていた。
「どうして・・・?」
「だって香織は俺の・・・・」
「大切な人だから」
その言葉と共に雲に隠れていた月が現れ、まるで舞台のスポットライトの様にはるを照らした。
私はその言葉に、目を開く事しかできなかった。
大切・・・・大切な人。
「香織が”幼馴染”って言葉にどんなイメージがあるのかは分からないけど、少なくとも俺の思う”幼馴染”は特別な人だと思ってるよ」
「特別・・・・」
私はおそらく単純だ。
つい先日まで不仲だったのに、この言葉一つで心がときめいている。
正直もう殆ど怒りなんて在りはしなかった・・・・
はるとどんな顔をして話せばいいか、そもそも話をしてくれるのか・・・・違う。
はるは対応はアレでも無視をされた事は無かった。
「おっちゃんがさ、”香織が他の男の人と付き合うかもしれない”って話をしていた時、めでたい事だと思ったよ」
「香織はもう俺が知ってる仲のいい兄妹じゃなくて、大人の女性に成りつつあるんだなって」
前回の食事会でお父さんがはるに言った言葉、半分くらい冗談で言っていたと思っていたけど、はるは色々考えていたんだね。
あと、姉弟じゃないのね。
「でも俺、素直に香織におめでとうって言える自信が無かったんだ」
「どうして?」
少しの沈黙の後、彼は再び口を開く。
「勝手だけどさ、香織が俺の知らない人と仲良くして付き合って、その・・・・キスとかしてるのは・・・・嫌だなって思って・・・・」
はるの顔は赤くなっていた。
月明りで顔が良く見えるから、彼が”キス”と言うワードで恥ずかしくなっているのがわかる。
はるは純粋だから、この言葉がどう言う意味を持っているのかも理解していないのだろう。
こんなの、ほとんど告白だよ・・・・・
でも恥ずかしがりながらも、こう言う事を言うはるに嘘はない。
例え自覚がなくても、この言葉は彼の本心なのだろう。
だから嬉しかった。
「か、香織!?どうして泣いてるの!?」
「俺何か変な事・・・・」
自然と涙が出てくるほどに、嬉しかった。
ちゃんと私の事を見ていて、少しは意識してくれていたんだ。
「なんでもないよ」
私は涙を拭い、また彼と目を合わせた。
「ねぇはる・・・・また、前みたいに一緒に学校に行っていい?」
「前みたいに、一緒にいていい?」
「俺がお願いしたいくらいだよ」
その言葉に二人して笑った。
誰もいない砂浜には、波の音と私たちの笑い声響いた。
「そうだ、香織・・・・」
はるは肩に掛けていたカバンの中から小さな箱を取り出し、私の前に差し出した。
◇
「香織、誕生日おめでとう」
「私に・・・?」
「うん、受け取ってくれないかな」
俺はカバンから美穂と買いに行った、彼女へのプレゼントが入った手のひらサイズの箱を取り出し、香織に差し出した。
「ありがとう・・・・開けていい?」
「もちろん」
プレゼントを受け取ってくれた香織は、早速箱を止めていたリボンを解き、中を確認した・・・・と思ったら。
「え!?」
「えっと・・・・これ・・・・本気?」
香織は中身を見るや否や、急に頬を赤らめ始めた。
「うん、いつも適当に選んでたけど、今回は真面目に選んでみたんだ」
いつもは”これでいいか”くらいの気持ちでプレゼントを選んでいたが、今回は違う。
美穂もいたが、自分で一番香織に渡したいと思ったものを選んだ。
「あっ・・・あのその、私も同じ気持ちって言うか・・・・その、こう言うのって物にも適用されるかは分からないけど・・・・はるから言われるとちょっと心の準備が・・・・」
「準備?似合わないと思ってるなら俺が香織に付けようか?そのヘアピン」
俺の言葉に今まで動揺していた事が嘘のように、一瞬で香織は落ち着きを取り戻した。
「・・・・はるはこれの”意味”とかちゃんと分かってる?」
「それ、美穂にも言われたなぁ」
「でも大丈夫!ちゃんと似合うと思って買ったから!」
小さな赤いバラが四輪並んだ花のヘアピン。
オレンジ色の髪と赤色の組み合わせは親しみやすく自信に満ちていて、ポジティブな色ってお店に書いていた。
まさに香織の表すような良い色合い!
と思っていたのだが、香織はため息を吐いた。
「はぁ・・・・まぁ、はるだもんね」
「でも、ありがとう・・・・今までで一番嬉しいよ!」
まぁってなんだよ・・・・でも喜んでくれているならそれでいいか。
「ほら、付けてくれるんでしょ?」
「お、おう・・・・」
俺にヘアピンを渡し、一歩こちらに近づき、目を閉じた。
へ、ヘアピンを付けるだけ・・・・付けるだけ。
「こ、こうか?」
「違うよ、もっとこう髪集めて・・・・もう手貸して!」
「こうやって右手で前髪を集めて、整えて・・・・」
夢中で慣れないヘアピンを付けていたからか、香織の顔が至近距離にある事を忘れていた。
お互い既に耳が赤くなっていた。
「そ、それで留めるの・・・・」
「よ、よし・・・・」
上手く留まったと思う・・・
髪型一つで印象が変わる事は知っていたのだが。
「どう?似合う?」
少し首を傾げ、そう聞く香織に思った言葉をそのまま口に出してしまった。
「うん、可愛いよ・・・・」
美穂との女心練習の成果かもしれないけど、これは・・・・
「あっ、ど、ありが・・とう・・・」
「ど、どどどういたしまして・・・」
流石に居たたまれない空気になった為
「帰ろうか・・・・」
と言い無事に終電までに自宅に着き、それぞれ眠りについた。
恥ずかしがってはいたが、やはり香織がたまに見せるとびきりの笑顔は昔と何も変わらずに可愛かった。
* * * *
いつもと変わらない朝。
鳥のさえずりなどで起きれるはずも無く、私はジリリリとうるさい携帯のアラームを叩く。
跳ねた髪を整える為に自室から洗面所に向かうとそこには、鳥のさえずりで起きれそうな妹がいた。
「お姉ちゃん、おはよう」
「おはよう、相変わらず美穂は早いね」
「お姉ちゃんが夜更かしし過ぎなだけだよ」
「タハハ・・・・」
いつも通りの会話を行い、髪を整え、顔を洗い二人でリビングに向かう。
リビングには朝食の用意をしてくれているお母さんとコーヒーを飲んでいるお父さんがいた。
「おはよう」
私の挨拶に二人も答え、用意してくれていたサンドイッチを頂く。
ゆっくり食べていると、スマホのアラームが鳴った・・・・と言う事は。
時刻は七時二十分、はるを迎えに行く時間だ。
私は「ご馳走様」の言葉を伝えた後、歯を磨き自宅を出る。
もちろん宝物のヘアピンも忘れずに。
赤城家の前で前髪を整え、インターホンを鳴らすと彼が眠たそうな表情で、あくびをしながら出てきた。
「おはよう、はる!」
「ふぁぁ・・・・おはよう」
私たちはいつもの様に挨拶を交わし、並んで歩き始める。
「ねぇはる、知ってる?から揚げにはマヨネーズ派って人は一割ぐらいしかいないんだって!」
「へぇ・・・・まぁ俺はやっぱりレモン派だな」
「えへへ、私も」
こんな他愛のない会話を行い、今日も私は幼馴染と登校をする。
いつか振り向かせて見せる・・・・
* * * *
俺が住む家の右隣には幼馴染が住んでいる。
容姿端麗?成績優秀?そんな学園のマドンナ的要素は持ち合わせてはいない。そう言う人は他にいる。
オレンジ色のショートヘアが特徴的で明るくて運動神経が良い、男勝りな女の子。
あとはやはり・・・・笑顔が可愛い!かな
【
ーーーーーーーーーーーーーーー
後書き
読んでいただき、ありがとうございました!
私がギスギスした展開が苦手なので書いていて「遥、早く気づけよ!!」となっていました。
私の文才が無い事が原因でダラダラとしたストーリーになってますが、まだ書きたい事もありますので、次回以降も読んでいただけると幸いです。
いいねやコメントもして頂けると嬉しいです。
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