第3話 主人公達
「……申し訳ありません。お許しください」
オリバーは数分前の自身の発言をひどく後悔した。
「コルセットを?なぜでしょう。私は男ですが?」
私の意図が理解できず、オリバーはまた馬鹿なことを言い始めたと呆れていた。
「つければ女の苦しみがわかるわ。もし、そのあとにまたさっきと同じことを言えたら、このはしたない格好をすぐにでもやめるわ」
そう言うと私はオリバーにコルセットをつけ思いっきり紐を引っ張った。
オリバーは予想を遥かに上回る苦しみに食べた物が全て逆流しそうになった。
なんとか耐えるもこのままでは骨が折れると思い謝罪しやめてくれと頼むが、笑顔で「え?何言ってんの?まだ全然締めれてないけど」と言われ思いっきり紐を引っ張られた。
オリバーはこのままでは死ぬと思ったそのとき、扉が開くのが見えた。
「お嬢様。朝食の準備が……失礼しました」
男は入ってくるなり私達のやりとりを見て慌てて部屋から出て行こうとする。
「待て!アスター!」
オリバーが男に向かって叫ぶ。
私は男の名を聞いて紐を手放す。
そのお陰でオリバーは苦しみから解放された。
「アスター?」
「はい……」
アスターは一応返事はするものの雰囲気から今すぐこの場から立ち去りたいと思っているのが伝わってくる。
私は部屋にいる二人の男を見てこの小説の話しを思い出した。
私が転生した小説は異世界バトルファンタジーとラブロマンファンタジーの二つが舞台となる物語だ。
アスターとオリバーはバトルファンタジー物語の方の主人公だ。
アスターは今はスカーレット家の騎士だが前半で私が憑依したローズを含む家族全員が死ぬことで旅をして魔物達と戦う日々をおくる。
小説の後半では世界を救った英雄として愛される存在になるまでは孤独だっ。
そしてオリバーは、そんなアスターを支えるため、王宮に勤めて才を磨き官僚へとのぼり何度もアスターの危機を救う存在となる。
二人は主人公なだけあって顔が整っている。
もう一つの小説のラブロマンスの方の主人公達とヒロインに引けを取らないくらいには。
'それに比べて私が憑依した人物は……'
悲しくなる。
異世界転生して他人になるなら普通、主人公、ヒロイン、悪女のどれかじゃん!
それで幸せな人生をおくるのが定番ネタじゃん!
それなのによりにもよって借金まみれのど田舎貴族にするなんて……!
元の世界の方が間違いなく幸せな生活おくれたじゃん!
帰してよ!
誰に文句を言えばいいのかすらわからない状況に嫌気がさす。
主人公二人がいたとしてももうすぐ死ぬ運命の私には対して役にも立たない。
……いや、立つくない?
今は借金まみれでも元の世界の知識を利用すれば簡単に大金を手に入れられる。
それどころかこの国一、いや大陸一の大金持ちにすらなれる。
いま私の目の前にいる二人はラブロマンの主人公達よりも頼りになる存在。
私はラブロマンスの主人公達やヒロインみたいにチート能力や贅沢な暮らしができる家ではない。
それでもこの二人をうまく利用さえすれば元の世界以上の暮らしができる。
そう確信した。
それに詐欺をしなくても金を手に入れらる。
「素晴らしい!最高だ!やっぱり私は天才だわ!」
大金持ちになる計画を立て、それが叶った未来を想像する。
私は急に楽しくなってきて気づいたら声を出して笑っていた。
「とうとう壊れたな」
オリバーは額に手を当て旦那様になんて報告するか考える。
「そうですね。そらにあれはどう見ても貴族の令嬢がする顔ではありません。悪党が人を騙して喜ぶときにする顔です」
アスターは真顔で言う。
二人はどうかこれ以上問題を起こさないでくれと思った。
「じゃあ、早速借金返済のため私の部屋にあるドレスと宝石全部売ってきて。それと動きやすい服を何着か持ってきて」
クローゼットにある趣味の悪いドレスを着たくないからそう言ったのに、二人はその発言に驚き固まってしまう。
それもしかなたい。
ローズはドレスと宝石が大好きで、そのためなら家が傾こうが、借金まみれで大変でも関係なしに買って両親を困らせてきた。
どれだけ両親が「やめてくれ」と頼んでも無視して買うほど超自分勝手な女。
二人は今までの経験から今度は改心したと見せかけ、金をまたせびるつもりかと警戒してしまう。
そんな過去があったことを知らない私はなぜ怪しんだ目で見られているのか全く理由がわからない。
'そんなに驚く?あんた一体どうしたらこんなに驚かれるわけ?'
この場にいない、この体の持ち主に向かって文句を言う。
「お嬢様。正気ですか?どこか頭でも打ったんですか?」
オリバーはよっぽど私の言葉が信じられなかったのか失礼なことを言う。
「失礼ね。正気よ。頭もどこも売ってないわ。そんなことより早く服用意して」
隣にいたアスターも同様に信じられないのか「あんなにドレスと宝石が好きでしたのにどうされたのですか?まさか新しいものでも買うおつもりですか?」と言ってくる。
どんだけ信用されてないのよ、と心の中で悪態を吐きながら「私の気が変わる前にさっさと売ってきて」と二人を睨みつける。
「「はい……」」
二人はまだ何か言いたそうだったが、確かに気が変わって売らないと言われると困るので急いでドレスと宝石を部屋から出す。
アスターはそのまま店に行きドレスと宝石を売る。
オリバーは私の服を用意しに使用人の装備品の部屋へと向かう。
その理由は私が「わざわざ買う必要はない。使用人の余った服でいい」と言ったからだ。
貴族が使用人と同じ服を着るなど本来ならあり得ないが、私は貴族ではないのでなんとも思わない。
二人が帰ってくるのを待ちながら今日するべきことの計画を立てる。
まずはこの世界には何があり何がないのかを知る必要がある。
小説の中では基本人物を中心に書かれているので生活用品のことは何もわからない。
料理に関してもそうだ。
ラブロマンでは主人公達とヒロインが一流シェフの料理を美味しく食べるシーンが書かれているが、なんの料理かは記載されていない。
つまりこの世界の料理のレベルがどの程度なのかはわからない。
調味料もどれだけあるかわからない。
もしないのがあれば、それを販売して大儲けすることができる。
'あ〜、早く調査したいな。一体この世界はどれだけ金に変わるのか。今から楽しみだな'
私は今からどれだけ金を稼げるか考えただけでも楽しみで無意識に笑っていた。
'うわっ!なんだ?あの顔は?悪魔そのものじゃないか!?'
オリバーは服を用意して戻ってくるとノックをして部屋に入ろうとするが返事がなく勝手に扉を開けると、ちょうど金のことを考え笑っていた場面に出くわす。
一旦部屋から出ようかと考えたが、そのときローズと目が合ってしまった。
「おっ。ようやくこの服ともおさらばできるわね」
私はそう言うとオリバーから服をもらい着替える。
「うん。こっちの方がやっぱりいいわ。ズボンの方が動きやすいし。何より苦しくない」
私は鏡の前でどこもおかしいところがないか確認する。
「どう?意外といけるでしょ」
オリバーにそう言うと呆れたように「ええ。そうですね」と棒読みで言われる。
'うわー。すっごいむかつくわー'
私はオリバーの態度に苛つく。
「それよりお嬢様。朝食の準備は既にできていますが、今日は食べないのですか?」
いちいちムカつく言い方だが、料理が楽しみで気分がいいので許せる。
「もちろん。食べるわ」
元の世界の昔の料理なら期待はしないが、ここは小説の中の世界。
間違いなく料理は美味しいはずだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます