第2話 憑依
私の人生は誰が聞いても「波瀾万丈だね」と言う。
自分でもそう思う。
簡単に説明するなら、5歳の時に両親に捨てられ、その日に二人の借金を背負いその手の者達に連れ去られた。
中学を卒業するまではヤクザが管理する施設に預けられ、そこで地獄のような日々を過ごした。
今思い返してもクソな人生だと思う。
普通の人なら泣き寝入りして、言われるがまま過ごす。
だが私は違う。
完璧な計画を立て、借金とり達から逃げ3年間息を顰め、その間に自分を守れる力と知識を身につけた。
そうして、私は両親と借金とり達から大金を騙し取り全員牢屋にぶち込んだ。
これが私の最初の詐欺。
そしてこの日から悪党共から大金を奪う生活が始まった。
私は間違いなく詐欺の才能があった。
私の立てた計画は全て完璧で、一度も失敗することはなかった。
ただ、最初の頃は信じていた仲間に何度か裏切られはしたが。
これからもこの生活が続くと信じて疑わなかった。
それなのに、なぜ私はいまコルセットをつけ、吐きそうになるくらいしめられているのだろうか?
「死ぬ!死ぬ!死ぬ!いやあああーっ!やめてーっ!本当に無理だから!吐く!吐く!止めてー!」
私はさっきまで小説を読んでいたのに、気づいたらメイドの格好した人達にコルセットをつけられ苦しすぎて叫んでいた。
'え!?本当なに?てか、ここどこ?私さっきまで家にいたよね?'
状況を把握しようにもコルセットのせいでそれどころではない。
本当にこれ以上は無理だと思い「やめて」と言おうとしたら、声を発する前に思いっきり締め付けられそれどころではなくなった。
「ぎゃあああーっ!」
私の叫びなど聞こえていないのか、侍女達は手を緩めなかった。
「終わりました。私達はこれで失礼します」
侍女の一人がそう言うと、全員部屋から出ていく。
意識を飛ばしているうちにドレスを着せられていた。
'く、苦しい……'
ドレスを脱いでコルセットを外そうとするが、どんなに頑張っても一人で脱ぐことができない。
そのせいで人が入ってきたのにも気づかず、変なポーズで奇声を上げている姿を見られた。
「申し訳ありません。出直します」
容姿端麗な男がそう言うと部屋から出て行こうとする。
私はどっかで見た顔だなと思いながら「待って!」と呼び止める。
「なんでしょうか?」
男は顔にこそ出さなかったが態度から嫌だということは伝わってくる。
「悪いけどこれ脱がして」
もう限界で相手が男だろうと関係なかった。
それに元の世界では海やプールでビキニを着ていた。
こんなことで恥ずかしくなることはない。
「は?……え?お嬢様。今自分が何を言ったかわかってますか?」
男はなんてことを言うだと信じられない顔をする。
この世界では貴婦人が嫁ぐ前に異性に肌を見せるのは不潔だと考えられている。
それを知らないはずなどないのに、なぜいきなりそんなことを命じるのか?
また何か企んでいるのかと男は怪しげな目で私を見下ろした。
'は?何してんのよ!こっちは苦しいのよ!いつまでそこで突っ立ってんのよ!さっさと助けろや!'
この世界の事情など知る由もない私は、未だに動こうとしない男に苛立ち睨みつける。
それでも動かないので私は声に怒りの感情をのせてこう言った。
「ちょっと!早くして!私を殺す気なの?」
「……はい」
男は「殺す気か」の言葉を聞いて死にそうなら非常事態だから仕方ないと言い訳をし、ドレスを脱がす。
「コルセットも緩めて」
ドレスを緩めただけで立ちあがろうとするので慌てて言う。
「……」
男は私の言葉に正気かと言う目を向ける。
さすがにこれ以上は駄目だと言おうとするが「さっさとしろ!こっちは死にそうなのよ!後であんたにもつけやろうか?」と先に私に言われてしまい何も言えなくなる。
「……」
男は顔を横に向け視線を外しながら無言でコルセットの紐を緩める。
「ああー。生き返った」
私はベットの上に寝転がる。
男が何か言いたそうな顔をしているが気づいていないふりをする。
'それにしてもここどこ?'
ようやく苦しみから解放されて考える余裕ができた。
ベットに埋めていた顔を少しだけ浮かし周囲を見渡す。
'どう見ても私の家じゃない。このベットも私が使っているものより固いし……いや、本当どうなってんの?'
もう一度頭をベットに埋めて頭を整理しようとするとため息が聞こえ、そのあとに声をかけられた。
「お嬢様。いつまでそうしているおつもりですか?」
男の声は完全に呆れていた。
'お嬢様?誰が?私が?……私がお嬢様!?'
私は勢いよくベットから飛び降りて鏡の前へと走る。
「……嘘でしょ」
鏡に映った顔は私の顔ではなかった。
赤い髪と瞳。
この顔はブスではないが、はっきり言って私の顔はこの顔より百万倍も整っていて美人だ。
'……ふざけんないで。誰よこいつ。そんなことより私の顔はどこいったのよー!'
私は声にならない叫び声を上げてその場に座り込む。
男はそんな私の奇妙な行動にとうとう頭がイカれたのかと真顔で眺めていた。
「あんた名前は?」
ようやく冷静さを取り戻した私はまずは自分が何者か知ることから始めた。
「……オリバーでございます」
オリバーは本当にいかれたんだなと思いながら名を名乗る。
'オリバー?オリバーってあのオリバー?あー、それでこの顔を見たことあると思ったわけだわ'
私はオリバーの名前を聞いてようやく納得したが、すぐに「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げる。
'嘘でしょう。まさか私……今流行りの異世界転生しちやったわけ?ちょっと待った。さっきから私のことお嬢様って言ってたよね。ってことは、まさか私はあのたった三行しか出番がなかった問題児のローズ・スカーレットになったわけ!?'
「お嬢様。本当に大丈夫ですか?いつもに増しておかしいですが、医者をお呼びしましょうか?」
なんか変な言葉が聞こえたが、そこはスルーして「大丈夫」だと言う。
そんなことより確認しないといけないことがある。
私は本当にあの小説の世界に入ってきたのかを。
「ねぇ、オリバー。この家、借金あるよね」
「……それはお嬢様が気にすることではございません」
男は否定しない。
つまり間違いなく借金があり、そして私は小説の中の人物に憑依したと確信した。
'まじか……最悪だわ。私の夢のワンダフルライフが消えた……'
せっかく貴族になったのにど田舎の借金まみれの生活だと知り絶望する。
それももうすぐ死ぬ運命の人物。
「それよりいつまでその格好でいるつもりですか。はしたないですよ」
私はオリバーの言葉にイラッとした。
はしたない?
苦しいのに我慢して着ろと?
第一こんな下っ腹が出てるのに苦しくないはずないじゃん。
本来の私の体は無駄な筋肉など一つもない完璧な体だったが、ローズの体は簡単に言うとぽっちゃり体型だった。
別に他人の体型がどんなであろうと興味はないが、この体でコルセットをつけるなど自殺行為だ。
絶対につけない。
それに一度もこの苦しみを味わったことなさのないものに言われるとなぜか無性に腹が立つ。
私はニコッとオリバーに微笑む。
「オリバー。一回コルセットつけてみようか?」
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