最終話 いざ、スィッフユニオンへ

「ここが、スィッフユニオン……」


 寮生活で使っていたものはすでに、スィッフユニオン内の僕の自室に送られている。


 騒がしさの中で、ぺらぺらと滑らかな声でされる説明はスルッと僕の耳を通り抜けて出ていってしまった。まずい、ほとんど聞けなかった。

 かちんこちんに固まった僕をみて、窓口の女性は優しく笑って「忘れてしまっても、端末を開けば確認できますよ」と教えてくれた。すごいよスィッフユニオン。ありがとうスィッフユニオン。女性が続きを話し始めたので、感謝はこのぐらいに留めておく。空港のロビーのようなざわめきに耳は慣れてきた。


「まずはポジションEとして、こちらの腕章をつけて探索に出ていただきます。すでにチーム編成は済んでおりますので、こちらの集合場所でメンバーと合流してください。チームメンバーはちょうど探索から帰還して待機している時間ですので」

「わ、わかりました……」


 渡されたのは深緑色の腕章と動きやすそうな黒のコスチューム、そして端末だった。僕のスマホとほぼ同じ大きさで機種も同じ。触り慣れているから使い勝手は良さそうだ。端末の液晶には集合場所と時間が記されている。


「ご自分の更衣室で着替えて向かってくださいね。では、お気をつけて」


 綺麗な抑揚にお見送りされて、僕はふらふらと更衣室なる場所に向かう。着替えたら新しいチームメンバーとご対面だ。ああ緊張する。それと同時に未知の世界に飛び込む感覚にワクワクが止まらなかった。


 

 時間通りに指定された場所に向かうと、数人の集団が目に入った。周りには僕と彼ら以外人はいない。どう考えても、彼らが僕の新たなチームメイトということになる。ああ、右手と右足が一緒に出ている気がする。

 思った十倍は緊張しているらしい。沈まれと思っても、どうしようが完全勝利していた。


「ん?」

「あ、あの……。こちらに集合するように言われてきました」


 僕に気がついたのか、一番手前にいる長身の男性がこちらに振り向いた。よろよろとした情けない声が漏れる。第一声くらい、そんな声で何をいうか練習しておけばよかったとひどく後悔した。

 そんな僕を見て彼はぷっと吹き出した。うう、恥ずかしい。


「よーこそ。チームリズクスへ」

「は、初めましてっ! サテ メイカイ……です」


 声は尻すぼみになりながらも、なんとか彼らに深緑色の腕章が見えるように左腕を向けた。僕の緊張が伝わっているのか、みんな優しい目でこちらをみている。その優しい目すら緊張を助長させていて、自分のポンコツぶりが情けなくなるループ。

 よくない悪循環に片足を突っ込みかけている気がしたので、僕は目の前のチームメンバーに目を向けることにした。みんないい人そうな反面、修羅場を潜り抜けてきた強者のようなオーラを感じる。学生の時の練習とは違う、本番を経験してきた目をしていた。


「よろしく。じゃあ、まずは恒例のこの問いを投げかけましょっか」

「?」


 男性が僕の目の前に立ち、にっこりと僕に微笑んだ。彼の腕章は赤色。ポジションAの色をしている。第三の選択肢ではユグナがついていたポジションだ。


「君はどうしてスィッフを探すんだ?」

「それは……」


 全員の目が集まった。僕は改めて、自分に問いかけてみた。僕がスィッフを探す目的はなんだろう? 手に入れた未来でどうしたいのだろう? 答えはまだ半分ほどしか完成していない。

 でも出てきた漠然とした答えに、不思議と恥ずかしさはなかった。


「僕にとって大事な人たちが、喜ぶところを見たいから……だと思います」


 彼らは僕を見て、きょとんとした顔をした。やっぱり変だったかな。みんな明確な理由を持ってくるものなんだろうか。ぐるぐると考えていると、ポジションAの男性がくっくっと静かに笑っていた。


「それはそれは。すげー素敵な理由だな。俺たちも君の言う”大事な人たち”になれるように頑張らないと。なあ、みなさん?」


 その問いにチームメンバーが盛り上がり、僕を囲んでくれている。僕はまだその雰囲気に呑まれながら、彼らの後をついて行くことしかできなかった。今はまだこれでいい。まずは僕の身の丈にあった行動と態度で、相手と向き合うこと。


 学園に入学当時の僕なら、相手にどう思われるかを気にしすぎてもっと挙動不審になってしまっていただろう。でも、それじゃきっと後悔する。本当の自分でぶつかってうまくいかないなら相手の気持ちになればいいから。


 他人のリアクションなんて不安定なものに、自分の幸福の全てを委ねるつもりはない。新しいチームメイトの自己紹介を聞きながら、僕はいつか言われた友人の言葉を思い出していた。



 スィッフ。それは大昔、スィフというものが手にしていたとされる宝。所有者は万物を思い通りにでき、すべての神となれると言われている。

 僕は探し出すことができるだろうか。そしてそれを手に入れた先で何を為すことができるだろうか。僕はその答えごと、伝説の宝を探す長い冒険に出ることにした。


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第三の選択肢 芦屋 瞭銘 @o_xox9112

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