終章 本番の地へ

第55話 暫しの別れ

 卒業式というものは、なぜこんなに涙を誘うのだろう。終わりを感じてしまうからか、学生と顔を合わせる頻度が減るからか。


 でも会いたい友達は卒業後にたくさん連絡を取って会えばいいし、この学園においては、卒業生の行き先はほぼ同じだ。だから寂しく思うことなんてない。もう会わなくなるであろう人たちとは在学中もほぼ交流を持っていないのだから、いてもいなくても変わらない。なのに、なんとも儚くて切なかった。


 いつか聞いた、この学園の新入生で卒業できるのはたったの一割という話を今身をもって体感している。卒業生を見ると本当に数が少ない。最終試験のトラブルを加味したとしても、これだけしかスィッフユニオンには進めないのかと恐怖すら感じた。そしてその一割に自分がいることも怖さを助長させている。


 ”最後にもう一度集まろう”


 ユグナからそう言われて、僕たちはお馴染みの第三理科室へ集まっていた。胸元につけられた花の飾りと手の中にある小さな花束が、僕らの門出を祝っている。


「卒業してスィッフユニオンへ行ったら、それぞれ別のチームへ配属されることになるだろう。暫しの別れになるな」

「そうですね……」


 彼の言葉を聞いて、僕は漠然とした悲しさの理由を知った。名前も知らない同級生に向けた感情なんかじゃない。そっか、ここでの生活はもうこの先ないんだ。卒業生した新米のスィッフハンターは現役の先輩たちのチームに配属され、バラバラになる。


「また……会えるよね?」

「もちろん。それに連絡先もわかっている。会おうと思えば会えるさ」

「俺たちはスィッフハンターとなって、同じものを目指すことになる。経路や手段は違えど、行き先は同じだ」

「そうだね。スィッフの前で再会とかあったりして」


 これが永遠の別れじゃない。それに新しい環境に慣れようとするうちにこの別れの悲しさは薄れていく。今必要なのは、新しい環境に飛び込む勇気だけだ。


「解散を宣言するつもりはない。このメンバーでまた、チームとして動けることを願っている」


 ユグナのその言葉を最後に、僕らは第三理科室を後にした。


 みんなと過ごして得たものは僕にとって重要なものとなるだろう。たったの二年で僕は大きすぎるほど成長したと実感していた。見た目は変わっていないけれどね。


「あのっ……先輩!」


 聞き覚えのある声に振り返ると、そこにはリーフちゃんが立っていた。目元を赤くして、拳をギュッと握りこちらを見上げている。


「卒業、……おめでとうございます」

「ありがとう」

 僕は先にギドルヴァーグで待っていると伝えた。彼女は嬉しそうに笑い、深々と頭を下げる。

「どうか……お気をつけて」


 その一言に、いろいろな意味が込められていたと思う。この人生で唯一、僕に憧れてくれていた子だ。彼女の思いは大事にしたい。

「うん、絶対にまた会おうね」

 彼女は頷きながらも複雑そうな顔をしていた。その気持ちの全てはわからないけれど、これっきりではない気がしたから、再開したら聞きたいと思う。


 みんなと共にいつか、スィッフを手に入れられる日が来るといいな。

 僕は何度も振り返りながら学園の門を潜った。

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