第54話 スィフ


「スィッフの欠片をこのように合成できるのは君だけだろうからね。悪いけど利用させてもらった。オレはそのために入学したようなものだったから」


 彼が言う言葉の全てがわからなかった。デューイは欠片の合成のために学園に入学した? 混乱する僕の前に彼は座る。ヒヤリとした冷たい手が僕の頬を覆った。


「薄い青色の瞳。それと同じ色の雷魔法。そして、このような欠片同士の合成技術を持ち合わせる人。その特徴は全てスィフと類似する」

「へっ……?」


 スィフ。初めて聞く言葉じゃない。教科書や仲間の言葉で何度も見聞きした存在だ。大昔にスィッフを手にしたとされる歴史上の人物。



「君はスィフの生まれ変わりだ。その生涯で、どこかに眠るスィッフを見つけ出す可能性を秘めている」



 彼の鋭い視線に貫かれた。僕がスィフの生まれ変わりだって? そんなはずがないだろう。僕は極めてごくごく普通の一般家庭出身だ。そんな話知らないぞ。


「う、嘘だ! 君の勘違いでしょう」

「欠片の合成をその目で確認したんだから信じてよ。これは長い歴史の中でスィフにしか実績がない技術だ。授業で習っただろう。それに学園側も君の生まれ変わりのことは認知しているようだったよ。この二年間、君は学園から要観察の扱いを受けていたんだ」

「なっ……!」


 聞き捨てならない発言をさらっとして、彼は荷物をまとめて立ち上がる。言い忘れたように「あ、そうだ」と声を漏らしてから僕が持っている宝玉を指差した。


「その宝を学園に持ち替えれば卒業試験合格だ。……あと少し。頑張ってね」


「デューイはどうするの?」

「あまり時間がないからオレは行かなきゃ。少しだけでも話ができて良かった」

「ちょ、ちょっと待って! せっかく会えたんだからもっと……!」

「ごめんね」


 彼が謝った途端に僕は強烈な眠気に襲われた。魔法を使われたらしい。ここはどこだろう、デューイは何を急いでいるのか。というか入学してから今までどこにいたんだよ。いろんな疑問が浮かぶけど、答えは一つもわからなかった。今はとにかく眠い。





「……テ、サテッ!!」

「っ!」

「良かった……目が覚めたか」

「ここ……」


 僕は目を覚ますと、洞窟にいた。ここはどこだろう? どうしてここにきたんだっけ。誰かと会っていた気がするけれど、思い出せない。なんとなくわかるのは、僕は一人で先にここに来て、第三の選択肢のメンバーが探しに来てくれたということだけ。

 僕は岩のような何かに背を預けるように座り込んでいるらしい。みんなが心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「とにかく学園に戻って手当をしよう。立てるか?」

 差し出されたユグナの手を掴もうとしたけれど、腕が上がらない。それに腕の支えを失ったら体が地面に倒れ込んでしまいそうだった。情けないが、動けない。


「……無理かも、立てない」

「わかった。魔法で連れていくから問題ない」

「ごめん……」

「気にするな。大技を使った反動だろう」


 ユグナは魔法で僕の体を浮かせてくれた。学園に戻るまで超絶恥ずかしい絵面だが、背に腹はかえられぬ。


「いきなり消えちゃったからびっくりしたよ……」

「僕も。それにどうやってここにきたのかわからないんだ。ここはアルバトロスの中?」

「そうですよ。アルバトロスの中でもかなり奥の方です」


 アルバトロスのマップを思い出す。確かに北の方角の端に洞窟のようなマークが書かれていた気がしなくもない。曖昧な返事をすると、メロネが魔法でマップを見せてくれた。思い出した通り、端っこに洞窟の記号が書かれている。


「よく僕がここにいるってわかったね」

「その短剣をたどってな。武器と一緒にいてくれて助かったよ」


 僕の腰には学校支給の短剣が納められている。そうか。支給武器には発信機があるんだっけ。そう手元を眺めると、水晶玉ほどの大きさの宝玉が目に入る。ポリトナもそれが気になっているようで、何なのか尋ねてきた。


「あの場所で、これを持って……誰かと大事な話をした気がするんだけど、思い出せない……」

「不思議ですねぇ。私たちがサテを見つけた時は、誰もいませんでしたし」

「その誰かが去る時に記憶を消されたか、連戦で疲れが溜まって幻でも見ていたのかもしれないが……なんとも言えないな」


 考えるほど頭が痛くなってくるのでもう考えるのはやめることにした。


「その宝玉は最終試験で探すべき宝だろう。持ち帰れば合格となる」

「じゃあ、手に入れられて良かったね」

「それがなくても、魔物や魔族との戦いの勝利で十分合格をもらえるだろうがな」


 宝玉と共に学園にたどり着いた僕たちは、文句なしの卒業試験合格の判定をもらえた。さらには、すべてのチームメンバーが魔法使いとなったことで、卒業までの期間は学園中から称賛の声をもらうこととなる。

 残り少ない学園生活は随分と騒がしいものに変化していった。

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