第53話 確固たる意思の示し方
「少し、時間稼げたりする?」
アウィーロとメロネに問いかける。そして回復魔法でなんとか動けるようになったユグナもそれを聞いていた。三人が頷く。ポリトナは魔力を放出したまま結晶化し、相手の瞬間移動を抑えてくれていた。
それを見た僕は残り最後の、力の増幅薬を飲み干した。これで魔力を増強し、最高火力の一発に賭けるしかない。薬を飲んだことで、僕の意図は伝わったらしい。飛んできた攻撃を散って避け、僕らは最後の手段に出る。
僕はシーから距離をあけて着地する。もう一度強く願ってから、その場で静かに呪文の詠唱を始めた。持てる魔力を出し切って全てをぶつける。それでも足りなければこの身を削っても構わない。それが僕ができる、確固たる意思の示し方だ。
「くっ……!」
魔力を溜め込んで増幅させる。僕の目の前でゆっくりゆっくりと光の文字が浮かび上がっていき、魔法陣が作られていった。みんなが最後の力を振り絞って注意を引いてくれている。
チャンスは一度。絶対に逃してはならない。自分の魔力の全てを注ぎ込む。これだけの攻撃ならきっと倒せるはずだ。魔力だけではやはり足りないのか、手の先が痺れてきた。魔法陣が完成する。目の前には巨大な光の塊ができ、それを青い雷が囲んでいる。
ドオオオオオオオオ!!!!
大きな音を立てて、僕の手から大技が放たれていた。攻撃が魔族に当たった感触はある。多分うまくいっている。
「っ!」
自分の魔法衝撃に耐えられないほど体はぼろぼろだったようで、体がぐらっと傾く。アルバトロスの制御がこちらで可能となりました、職員を派遣します、と通信が入った。ああ、良かった。これで助かった。そう思ったのも束の間、自分の視界がおかしいことに気が付く。
「え……」
みんなや周りの景色が上下に何重にもぶれる。その速さに酔ってしまいそうで僕は慌てて目を閉じた。体が浮くような感覚に襲われる。周りからの音も消えてしまった。
「わっ……と」
浮遊感がおさまって恐る恐る目を開けると、もうそこは先ほどまでいた場所ではなかった。鍾乳洞の入り口のような狭い道だ。僕以外誰もいない。アルバトロス内の別の場所に転送されたのだろうか? ……一体どうして?
「…………」
壁に手をついてふらつく体で前に進んでいく。目的地がわかっているように進むから、まるで体が操られているみたいだった。この進路に迷いはない。しばらく歩くと、少しひらけた場所に出た。そしてその中心には、台座のような大きな岩があり、その上に眩しいオレンジ色の宝玉が乗せられている。近くの天井に大穴が空いていて、空からの光がさしていた。
「宝……?」
宝玉の目の前に男が立っている。ギルン……と似ているような、別人のような不思議な青年だった。
「やっと会えたね、サテ」
「え……?」
その雰囲気どこかで……。考えつく前に口が動く。
「まさか……デューイ……?」
「そう。よくここまでたどり着いたね。さすがだよ」
「あ、ありがとう……って、ちょっと待ってよ。どうして今まで僕の前に現れてくれなかったんだ? 連絡もあまりくれなかったし」
「言い訳にしかならないだろうけど、色々手が離せなくてね」
デューイはそう言いながら床に置かれた大きいカバンを漁っている。目当てのものを見つけたのだろう。動きが止まった。
「さあこれを。君も持っているだろう」
彼の手には水色の欠片が乗せられていた。
「スィッフの欠片?」
僕もポケットからそれを取り出した。さっきほど魔物から回収したものもある。僕の手のひらに三つの欠片が置かれた瞬間、それは強い光を放った。
「う、うわ……!」
光が収まると、それらは完全にくっついて、一つの塊になっている。そしてその中心には見たこともない文字が浮かび上がっていた。
「ありがとう。申し訳ないけれど、それはこれと交換だ」
彼は台座に置かれていた宝玉を僕に差し出した。なんだか渡してはいけない気がする。僕は手の上にある塊をギュッと握って自分の方に引き寄せた。この塊の価値を僕は知らない。でもこれを渡さなければ、もっと彼と話ができると思った。
「あっ……」
しかし魔族と戦闘後の体はかなり弱っているようで、抵抗虚しく宝玉と塊を交換されてしまう。
「待ってよ。僕は君と話がしたいだけなんだ」
「オレは急いでいる。長くここにはいられない。だから君をここに導いたんだ。たどり着いたのは君の力だけどね」
「それってどういう……」
彼は僕から奪った塊を見せる。水色の歪な球体だった。
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