第52話 願い
「君の望みを叶えてあげると言っても?」
何を言い出すかと思えば、彼はメロネを引き込むつもりらしい。メロネは反射的に首を横に振り、叫ぶように拒否した。シーは困ったような顔で頭を掻いている。
「うーん、ダメか。やっぱ人間を引き込めは無理があるよなぁ」
「お前……一体何を考えている……」
「では、これならどうだろう?」
ユグナの声なんて聞こえていないように彼はぴんっと人差し指を立てた。その瞬間、周りの景色がガラッと変わった。
「なんだここ……? 街?」
店や家が並ぶ街の風景。人は僕ら以外に見当たらない。見たことがない街だ。もうしかしたらクレントアーレではない地域かもしれない。
「……!」
「メロネ、どうした?」
僕も彼女を見ると、先ほどとは明らかに様子がおかしいのがわかった。だんだんと息が上がっているようだ。まるでトラウマを呼び出す剣を持ったユグナのみたいだった。
「君の故郷ボーデムの街だよ。懐かしいだろう。ああ、街の人たちはまだ眠っているんだっけ?」
「お前っ……!」
「よせ! また攻撃されるぞ」
「でも!」
彼女にとって触れてほしくない話だ。
「大丈夫……っです……」
「メロネ!」
「みんなを……起こすためにここにいるのですから……」
メロネがキッと彼を睨んでいる。彼女のあんなに鋭い眼差しは初めてだ。
「デスヨネ。まあ精神的ダメージは与えられてからよしってことで……やっぱりこうなるか」
彼は僕らの方に手を伸ばす。その前に黒い球が浮かび上がった。それは魔物と同じように邪悪なオーラを纏っている。
「私は君たちをここで始末するように命令されている。だからちょっとでも敵数を減らそうかなと思ったんだがね」
面倒ごとは嫌いなんだと呟いてからは攻撃を放ってきた。僕とメロネが大きな防御壁を張る。
「うわっ!!!」
しかし僕のシールドは簡単に貫かれた。慌てて雷の攻撃を出して相殺する。彼は次々と瞬間移動し、的確にこちらにダメージを与えていく。
「くそ……、間に合わない……」
「ボクが止めるよ」
ポリトナが黒い柱を出し、彼の動きを封じた。
「異動を封じたくらいで、私に勝ったと思わないでいただきたいね」
相手からの攻撃が降り注ぐ。何とか避けて魔法で防げたが、何度もは受けられない。
「命令って何だ!! まさかギルンじゃないだろうな!」
「ギルン? あんなのと一緒にするなっ!!」
「あ……」
ユグナの魔力が一気に弱くなるのを感じた。魔力切れか。しまった、僕の回復に使ってしまったからだ。あの後下手に手を出さなかったのも、自分の魔力の残りを気にしてのことだったのだろう。
「ぐっ!!!」
「ユグナ!!!」
彼の手から武器が落ちる。魔力も体力も限界か。そのまま膝をついてしまった。僕とアウィーロが魔法で彼の体を後ろに下げる。
「魔力を回復させるものもない……か」
手持ちの道具は魔物との戦いでほぼ使用済みだ。力を増幅する薬はあるが、今ある力を膨らますだけ。魔力がなく動けない状態で使っても体に負担を与えるだけだ。
「魔力も体力も回復任せてください!」
そうは言ってもメロネの回復も無限じゃない。また同じ状況に何度も追い込まれれば限界はくる。
「!」
今度はアウィーロが狙われているようだ。彼女は攻撃を避けながら弓と魔法で応戦しているが、相手の攻撃量が圧倒的にそれを上回る。まずい、処理しきれなくなってきている。何か策を出さなければここで全員やられてしまう。何か、何かないのか。
「あっ」
一瞬だけ僕の視界の端に何か光るものが見えた。
「あれは……」
ちょうど魔物がいた位置だ。僕はサッとそれに駆け寄る。思った通りだ。そこには水色の欠片。スィッフの欠片が落ちている。それを僕が拾い上げた瞬間に、僕が持っていた欠片も光り出した。ただの石でしかないはずなのに、欠片同士が共鳴している。
「…………」
僕は二つの欠片を手に乗せた。スィッフは万物を思い通りにできると言われる宝だ。それは欠片であっても、きっと効力を発揮する。もうしかしたらこれが打開策になるかもしれない。
手の中にそれを握る。すると頭の中に言葉が浮かび上がった。「願いは何か」と。
”目の前の魔族をどうにか排除したい”
咄嗟に願う。すると今度は「その確固たる意志を示せ」とまた言葉が続いた。ふうっと息が漏れる。多分その意思の示し方は任されているのだろう。
「サテ?」
「少し、時間稼げたりする?」
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