第50話 フル稼働
「ーー眠りの儀が行われた時に目覚めの子の家系には子供がいない時は、代表者となる子供が分家から選ばれます。ですが、半年後に目覚めた子供は選ばれた子ではなかったのです」
「えっ」
「目を覚したのは儀式の家系ではない、一般家庭に生まれていた私でした。目覚めの儀式について何も聞かされていなかった私は、みんなを目覚めさせる方法がわからず、怖くなって街から逃げ出してしまったのです」
彼女は逃げ回った末に隣国の兵士に捕えられてしまう。隣国にも魔法の文化はあったが、儀式という特殊な方法で眠った住民を起こす方法はない。彼女はその国で育てられ、成長とともにスィッフの存在を教えられる。隣国の王は彼女にスィッフハンターとなることを提案し、スィッフの力を少し自国にも使用する条件で、街を保ってくれることを約束した。しかしずっと眠り続け、住人たちも年々弱ってきている。急がなければならない。
「私の目的には、当時ボーデムに住んでいた住人すべての命がかかっているのです。だから、早くスィッフを見つけ、街のみんなを目覚めさせなければなりません。これが、私が話しておきたいことでした」
「そうか。よく話してくれたな」
ユグナはスッキリしたような表情で彼女を労っている。多くの人の命のためにこれまで彼女が頑張ってきたと思うと、心が締め付けられるようだった。みんながメロネに寄り添っている。もし僕がスィッフを見つけたら、彼女の願いも果たしたいと思った。
「サテ、君は何も話すことはないのか?」
「残念ながら全くない。え、何……もうしかして煽ってる? 薄っぺらい人生だなって」
「ふっ……煽っていないし、おもっても、いない」
「笑っちゃってんじゃん!!」
貴重なユグナの笑い声も聞けたところで、休憩をとって体力を回復した僕たちは、探索を再開することにした。
「なんの音……?」
そろそろ出かけようという時に、大きな音が聞こえる。
「囲まれている。一気に抜け出すぞ!」
僕とアウィーロで天井に大穴を開けた。上空に魔物が振り上げている手が見える。後数秒遅ければ潰されていたかもしれない。僕らは一気にその場から離れた。
「下手したら死者が出るぞ」
他のチームの人たちは無事だろうか。全く会えない。まさかもう……と考えて首を横に振る。よくない考えはよそう。
「この範囲にこの数。多くないか」
「ああ。魔物を誰かが召喚し続けている……?」
次々と攻撃が飛んでくる。一つ見誤ればそれが命取りだ。僕らは攻撃を続け、なんとか開けた場所に辿り着いた。魔物たちもすごい勢いでこちらに突っ込んでくる。特に翼を持っている竜が速い。
「危ない!!!」
竜が大きく口を開けた。その口から炎の攻撃がこちらに飛んでこようとしている。しまった、避けきれない。
「みんな、しゃがんで!!!!」
瞬間、黒い柱のようなものがポリトナから放たれて魔物を貫いた。これは魔法学で習った、闇属性の呪文だ。暴走に近い勢いで放たれるそれをみて、全員が魔法発現だと察した。
悪魔の力を放出している時も闇属性の魔法を出していたので、そのままその使い手になったのだろう。
「すごい……」
貫かれた魔物はすでに消滅している。遠くから他の魔物がこちらに向かっているが、距離がかなりあるのでしばらく時間があるだろう。それよりも今は、ポリトナの状態を確認しなければ。
「ポリトナも魔法発現……?」
「うそ……僕本当に……?」
みんな彼女の周りにすぐに集まる。驚いて座ってしまったようだ。そのまま動かないので不安になった。
「ポリトナ、大丈夫か!? すぐに治療しないと、……でも」
この空間から学園に出られない。つまり症状を抑える治療が行えない。どうしようと焦っていると、ポリトナが落ち着いた声で答えた。
「大丈夫、みたい。……全然普段と変わらないよ」
僕らはもう一度彼女を見た。言う通り、苦しそうでも怠そうでもない。ユグナがううん、首をひねる。
「もしかしたら悪魔であることが功をなしているのかもしれない。ただ、無理はするな」
「うん! わかった」
魔物はこちらに向かって歩みを進めている。
「もし全員が魔法発現をしたら、一度やってみたかったことがあるんだが試してもいいだろうか?」
「?」
ユグナが僕らを呼び寄せた。呼び寄せられた魔物は攻撃魔法を放ってくるが、メロネがそれを防御する。
「全員の魔法を放つ。おそらく今視界にいる魔物は一掃できるだろう」
「ああ、なるほど」
ようやく竜の形をした魔物が五匹僕らの前に現れた。バーディで戦ったときの魔物によく似ている。僕らは手を掲げて照準を合わせる。それぞれの魔法が一つに重なった。
「今だ!!!」
ユグナの声に合わせて僕らは力を解き放った。魔物を一掃し、その場が静かになる。
「勝った……?」
「いや、まだだ」
魔物が消え去ったその場所に一人の男が立っていた。
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