第49話 ボーデムの事故
目の前には三体の魔物がいる。耳と体が巨大な怪物だ。僕らを見つけた瞬間、大きすぎる腕を振り下ろしてきた。
僕らは散り散りになる。僕とユグナは魔物の視界にわざと入るように浮遊魔法で飛び回った。その隙に他のメンバーを逃す作戦だ。よし、無事逃げられてみたいだ。
アウィーロは魔物に向かって弓を引いている。
「おわっ!?」
「こらサテ! よそ見するな!」
魔物が突き出した拳の風圧に足を取られてしまった。横転した隙を狙われて次々と攻撃は飛んでくる。こちらも魔法で攻撃するが、向こうの手がやけに早かった。
「うわああ!!」
気がつけば目の前に魔物の拳が現れていた。今から攻撃を用意しても間に合わない。僕は腕で顔を覆い、受け身の体制をとった。吹き飛ばされるだけならなんとかなる。
「……?」
衝撃は来ない。目を開けると、巨大な拳は網で包まれ僕の目の前で止まっている。網は下から引っ張られているようで視線を移せば見慣れた筋肉が大きな網を引っ張っていた。
「キイル!」
クラスメイトのキイルだ。彼が抑えている隙に僕は雷魔法を叩き込む。魔物は尻餅をつき、倒れ込んだ。
「よっ、ナイス魔法だったな」
彼はひらりと腕を振った。僕は彼の目の前に着地する。浮遊魔法と攻撃魔法を使い続けたので視界と足がふらついた。それを彼はすっと立て直してくれる。
「援護助かったよ、本当にありがとう」
「こちらこそ。あの数は流石に相手にできないからな」
それから二つのチームからの猛攻にあっさりと魔物は落ちた。チームメンバーの力を大幅に消耗させずに討伐できたのは大きい。……多少は攻撃を受けちゃったけど。
これで済んでいるのも運良く現れてくれたキイルのおかげだ。
「じゃあな、検討を祈る」
「そっちもね」
彼らと別れてみんなに目を向ける。少し回復に時間がかかりそうだった。
ユグナがみんなを呼んで小さな洞窟へ入り込んだ。
「ここで少し休憩しよう。見つかりにくいように結界を張っておく」
「はあ……」
しかし火の周りにメロネは近寄ろうとしなかった。俯いたまま、手を震わせている。
「メロネ?」
「すみませんユグナ。私、……貴方とみなさんに話していないことがありました」
「メロネ……?」
彼女がバッと顔を上げる。今、話したくなったのでと申し訳なさそうに笑っている。
「聞かせてもらおうか」
「嫌になったらはぐらかしてもいいよ」
「ふふっ。ありがとうございます。でも、そんなことしません」
僕のフォローにメロネは笑って僕らの隣に座る。
そして彼女の壮絶な過去を話し始めた。
「私の故郷はボーデムと言って、小さな街です。……クレントアーレの隣にある国の南にあります。その村では定期的にある儀式が行われていました。そしてその村は今、儀式の失敗によって失われつつあるのです」
彼女の街では六年に一度、街の住人が一年の眠りにつくという風習があるようだ。夢を神に捧げ、次の六年で恩恵を受けるための儀式だという。
眠りについている一年の間街は寂れ、観光客も寄り付かなくなる。これを彼女の国ではボーデムの大睡眠というらしい。そして住民が眠りについた半年後に、街の住人の中で子供が一人眼を覚まし、住人達を起こすため、目覚めの儀式の準備する。
それは目覚めの子と呼ばれている。
「眠りの巫女の儀式で街の住人は眠り、ついになる目覚めの子の儀式で街が目覚める。そう言った風習でした。眠りの巫女も、目覚めの子も、代々その家系が受け継いでいて、役目を果たしていたのです。しかし、前回の眠りの儀が行われた時に目覚めの子の家系には子供がいませんでした。その時は代表者となる子供が分家から選ばれます。ですが、半年後に目覚めた子供は選ばれた子ではなかったのです」
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