第8章 最終試験
第48話 不穏な開始
「それでは、最終試験の注意事項を説明する」
僕らは魔法の柵の中で、学園職員の放送を聞いていた。卒業まで後二ヶ月。入学してからの二年間の最後の評価として、ギドルヴァーグに似せた魔法空間アルバトロスにて最終試験が行われる。
この試験では、魔法空間内に設置されたスィッフに見立てられた宝を持ち帰ることができれば合格となる。僕たちはすでにアルバトロス内の拠点に待機させられていて、放送によってこの注意事項を聞いていた。
「魔法空間アルバトロスでは、ギドルヴァーグから生け取りにした魔物が出現する。制御装置で力は少しだけ削っているが、簡単に勝てる相手ではない。準備を怠らないよう、魔物を討伐しながら宝の捜索を行うこと」
わかってますよと言わんばかりに僕はポケットの中を見た。この日のために僕らは魔道具や薬を含めた様々なアイテムを準備してきている。もう何も入らないほど詰め込んできた。
「また、チーム同士の戦いは認められていない。ギドルヴァーグで他チームのスィッフハンターに出会う確率を計算し、各チームを配置している。探索中に出会った場合は協力し合うこと。これはスィッフハンターとして探索するなら必ず自覚していてほしい」
簡単な説明が終わり、あとはGOサインを待つのみとなった。僕らは目を合わせて頷き合う。この試験で全てが決まる。これまでの努力の集大成だ。
「全チーム、探索を開始せよ」
開始の宣言がされると同時に拠点から外に出られるようになった。僕たちは探索を開始する。これまで歩いてきたバーディやイーグルよりもさらに広いアルバトロスの中で、設置された宝を見つけなければならない。それに魔物が出るなら、より一層身を引き締めてかからなければ。
「あまり緊張するなよ。実践の練習だと思えばいい。行くぞ」
僕の心を読んでいるのかと疑いたくなるタイミングで、前を歩くユグナから言葉が飛んできた。やけに落ち着いて見える。いや、これは誰よりも緊張しているパターンだろう。
このような結果が大事な時に限って弱みを見せない男なので、注意して見ておかないとなと思っていると、彼と目が合ってしまった。
「どうした?」
「いーや、なんでもない」
人の動きに敏感なやつだな、と僕は彼を警戒しながらも目線を外すことにした。
しばらく探索を続けるが、他のチームどころか魔物に一切出会わない。アウィーロが不審そうにあたりを見渡した。
「やけに静かじゃないか?」
「俺も思っていた。魔物がいなさすぎる」
確かに、イーグルの空間ではもっと頻繁に魔物とエンカウントしていたと思う。僕の短剣で倒せるほどの下級の魔物すら全くいない。本当に試験が始まっているのかと不安になった。
『ジジッーー……が、学生諸君! 聞こえているだろうか!?』
歩き進めていると、無線から天草先生の声がした。
『申し訳ないーー……ものが、暴走しているーー』
「途切れ途切れだね。なんて言ってるんだろ?」
「魔物が暴走している、でしょうか?」
「だったらやばいけど」
『すまない、通信が不安定なようだ……アルバトロスが何者かに……攻撃……受けている。ーー在、調……を行っている』
抜けている言葉を補正すると、アルバトロス……つまりこの空間が攻撃を受けており、調査中らしい。さらにこの魔法空間と学園を繋ぐ出入り口が魔法で開閉できなくなっており、外から空けられない状況だという。
「出入り口の開閉は、外からの魔法での操作と宝の認証で行えるんだったな」
「そしたら宝を見つけて持っていけば開くってこと?」
「確証は持てないな。すでに学園にとって想定外のことが起こっている。宝での開閉も駄目だと考えた方がいい」
「では、どうすればいいのでしょうか……?」
「攻撃している人を見つけて倒す、とか?」
「その人がこの中にいたらできそうだね」
こんなことが起こっていても、僕らは冷静だ。何せ僕らは、あのバーディで起こった魔物発生事件を乗り越えているのだから。こんなことでは揺るがない。
「?」
僕らが歩みを止めていると、ざあっと木々が音を立てた。嫌な予感がして周りを見る。すると周辺が黒い霧で覆われた。この霧は見たことがある。その正体を記憶で辿ると同時に、一気に魔物が現れた。相変わらずすごいオーラだ。上級の魔法空間ということもあり、さぞ強いのだろう。
「魔物は暴走してるんだっけ?」
「ああ。できるだけ早く倒そう。音を聞いて増えると厄介だ」
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