第47話 新たな魔法使い

 メロネが叫んだ後、ポリトナからの攻撃は魔法の防御壁に守られていた。


 強力な防御魔法。僕とユグナとアウィーロでは今のボロボロの状態じゃなくても貼れないシールドだ。


「メロネ……」


「まさか、魔法発現……ですか?」


 メロネの手の先に複雑な魔法陣が浮かび上がっている。その魔法陣に浮かび上がった文字を見て、ユグナはメロネに体調を尋ねた。彼女は特に問題ないと答えている。


「回復と防御特化の魔法発現だ。発現時の術者への体の負担はほぼない。いいものを持ったな。今一番必要な力だ」


 ユグナが微笑んだ。メロネもそれに合わせてぱあっと笑顔になる。


「はいっ……! それでは皆さんに回復を!」


 メロネが手をかざす。じわじわを体が暖かくなっていくのを感じた。重かった手足が上がるようになり、傷も癒えている気がする。


「戦う前に戻ったみたいだ……。すごいよメロネ!」

「よし! ポリトナの力が尽きるまで、耐えるぞ!」


 魔力と体力がほぼ全回復になり、僕たちはポリトナの攻撃を迎え撃った。ここにきてから数時間。ポリトナの力の放出が続くとされる時間まで、あと一時間は切った。



 メロネの魔力も少なくなってくる中で、僕たちは攻撃を打ち消し続けた。やがて、向こうからの攻撃は弱くなっていき、パタリと届かなくなった。


「止まった……?」


「止まったぁああ!!」


 ポリトナはすとん、と座り込んだ。その表情はいつもの彼女のもので、僕らをぼうっと眺めている。



「あ、ああっ……」



 しかしすぐに彼女の様子が変化した。僕らは彼女に駆け寄って目線に合わせてっしゃがむ。その目は絶望に揺れていた。彼女の考えていることがなんとなくわかった。


「ボク……みんなをこんなに傷つけた……ボクなんかのために、みんながここまでする価値、ない……のに」


 ぽろぽろとポリトナの目から涙が溢れる。アウィーロとメロネはそれを優しく拭き取った。


「僕たちがやりたくてやったことだ。ポリトナが責任を感じる必要はないよ」

「でも、ボク……いつかこんなふうに誰かをきっと殺しちゃう」

「じゃあ、約束して」


 そういえば、ポリトナは僕をじっと見つめる。泣き腫らした赤い目からまだ涙が溢れ続けていた。


「君が自分の村を救うまで、自分を保つこと。いつか魔族になって心を失い、君が人間を殺す時は、僕が駆けつけて倒すからさ。だからそれまでは心を持ってて欲しいんだ」

「サテ……」


 ポリトナの目が大きく揺れる。みんなが頷いていた。

「サテ、みんな……ありがとう……」


「うん、よろしい」

「なんか偉そうだな」

「ああ」

「なんだとー!」


 その後は「意外と元気そうだな」と天草先生に若干引かれつつ、学園の職員たちから治療を受けた。特に救護室の先生の魔法でさっきまであんなにボロボロだったとは思えないほど回復できた。


「ねえ、みんな」

「ん?」


 僕らの前にポリトナが一歩飛び出してこちらを向く。もう涙はなく、そこには笑顔が咲いていた。


「これからは、卒業試験に専念できるように頑張るよ!」

 「可愛くクリアしちゃうぞー!」という元気な声を聞いて、元のポリトナに戻ってくれたのを嬉しく思った。やっぱり彼女の元気な声がないと始まらない。そんな中、まだ晴れない表情を浮かべる男が一人。僕は彼に駆け寄った。


「ユグナ? どうした?」

「いや。なんでもないが……サテ、メロネ。二人は俺に何か言いたいことなどないだろうか」


 彼は探るように僕らを見た。言いたいこと? なんだろう? 僕には全く思い当たることがない。


「僕は特に。メロネは?」

「……私も、特には」


 僕らの答えに納得がいかないといった表情を浮かべながらも、彼は「そうか、わかった」とだけ返してくる。変なやつだなぁと思いながら僕はそのままメロネと出口に向かっていた。少し後ろで風に攫われた呟きは僕の耳には届かない。




「ではなぜ、君たちが要観察対象なんだ……?」


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