第41話 亀裂

「言わなければならないことって?」


 僕とメロネの二人は少し後ろで立ち止まったままのアウィーロを見る。ひどく掠れた声がそれに答えた。


「ずっと、みんなとチームになってから言えなかったことなんだ。しかし勇気が、出ない」


 らしくないと思った。普段のアウィーロなら結構攻めた発言も躊躇わずに口にしている。だとすればこれから彼が言う話は結構大きな話なのかもしれない。彼の表情を見るに、まだ話すことを迷っているようだった。


「言いたくなったらでいいのですよ」

「え?」

「誰しも秘密はあるものです。まだ迷ううちは納得がいくまで持っておくのも大事なことです」


 僕もメロネと同意見だった。アウィーロが何を恐れているのかはわからないけれど、それが原因で僕らのチームの絆がなくなるわけじゃない。一年以上の時間を共に過ごしてきたのだから。その時間を僕らは忘れない。


「もし全員の前で言いにくかったら先に誰かに打ち明けてもいいんだしさ。今僕らで話す練習してもいいし」

「そうですね! ユグナとポリトナに話す時には背中を押せますから」

「……ありがとう。少し、考えてみようと思う」


 バタンッ!!!!


「な、なんの音!?」


 入り口から大きな音がし、僕たち三人は建物の外に出る。空に何かあるようなので見上げてみると、そこには魔法で浮遊するユグナとそれを狙うように短剣を構えるポリトナの姿があった。


「ハァ!? ちょっと! 何やってんの!?」


 僕は慌てて魔法で体を浮かせ、二人の元へ飛んだ。しかし二人は僕が見えていないみたいにお互いに攻撃しあっている。当たり前だが、ユグナの魔法が強く、ポリトナが押されている。


「本当、落ち着いて!!」


 やはりこちらの話を聞いていない。お互いの動きにだけ夢中になっている。

「ああもう! いい加減にしろっての!!!」


 僕は両手を掲げて二人を覆うほどの範囲に大量の水を降らせた。突然の介入に驚いたようで、弾かれたようにこちらを見てくる。もちろんこの魔法はリーフちゃんに教わったものだ。こんなにすぐに使うことになるとは思っていなかったけれど。


「とにかく、事情は下で聞かせてもらう」


 浮遊魔法を解いて僕たちは芝生の上に降り立った。幸い他の学生には見られていないようで安心する。飛びながら攻撃を放つのは結構な魔力を使うので、少しだけ眩暈がした。


「何をしているんだ」

「お、お二人ともお怪我はありませんか!?」


 そこにアウィーロとメロネも加わり、僕ら三人は尋問モードに移行した。なんとか怪我は擦り傷程度で済んだようだが、あのまま続けたら物理的にも内心点的にも大怪我を負っていたことだろう。


「それで、なんでこんなことになってるの?」

 二人はお互いに外側を向いて黙っている。ポリトナはともかくユグナがこのような態度をとるのは難しかった。


「……言えない?」

「今はな。すまないが俺はもう行く。また夜に」


 そう言い残してユグナはスタスタと歩いて行ってしまった。空気は最悪だ。とんでもない緊張感を置いて行ってくれたものだと彼の背中を追う。


「ポリトナ」

「悪いのはボクじゃないもん」

「あ、ちょっと!」


 彼女はその場から走り去ってしまった。その場に残された僕とアウィーロとメロネはただ二人が立っていた場所を呆然と見つめている。


「打ち上げは、日を改めよっか」

「ああ」

「はい……」


 この日から、なんだかんだ上手くいっていた僕らの絆に亀裂が入ることになる。

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