第39話 勝敗の行方
どのぐらい寝ていたのだろう。数秒か、数時間か。客席の歓声が聞こえる……ということはまだ試合中か。
「…………」
僕はうっすらと目を開ける。味方は全員倒れている。みんな横たわったまま動かない。何故か会場の中心には、一人の男が立ちつくしていた。
「勝者、リードレプリカ!!!」
どういうことだろう。僕は朦朧とする意識の中で考える。コールされたのはギルン率いる相手のチーム名だ。
僕たちは負けたのか? ギルンを倒し損ねていた? 考えが生まれては消えていく。すると僕の前に大きな影が刺した気がした。その影の主はたった一言僕に言う。
”やっと会えたなぁ、サテ”
その言葉を最後に、微かに聞こえていた音すら聞こえなくなってしまった。
第三理科室にて。バトル試験のトーナメント戦から一日が経過し、学園内は本来の雰囲気を取り戻しつつあった。僕たちのチームは決勝戦のダメージから久々の復帰となる。
全快とまではいかないが、問題なく出歩ける程度になはったのでユグナから召集がかけられたのだ。
決勝戦は学園内外からかなり評判が良かったらしい。大変白熱した試合だったと学園や来賓からお褒めの言葉をもらい、なんとあのユグナの父親の後押しで、準優勝の第三の選択肢にも報酬がもらえることとなった。
もちろん評価も上がるらしい。いつの間にユグナの父親は息子のために動く気持ちになったのか。ユグナが魔法発現をしたあの試合から既に彼を見直してくれていたのかもしれない。
「結果的には準優勝だからな、魔法を使わなくても叶う範囲という条件付きで学園側は願いを叶えてくれるそうだ」
「いいんでしょうか……! なんだかすごく優遇されているようですね……」
「入学当初のチーム分けの時点で不利だったのだから気にしなくていいだろう。願いが決まったものは各々先生方に申し出るように」
彼はそう言って報酬の希望を記入する紙を渡してきた。どうしよう、僕は何を叶えてもらおうかと考える。いざ言われたときは思いつかないものだ。
それに今は少し気がかりなことがある。
”やっと会えたなぁ、サテ”
おそらくギルンが発した言葉だ。彼がデューイなのではと思い始めると僕の思考は止まらなくなった。バトル試験後に彼を探しても出会えずに、事の真相がわからないままとなっている。
ギルンはAクラスの授業には出ているらしいが、授業が終わるといつの間にか姿を消しているらしかった。デューイと連絡もつかない。今は気にしないように諦めるか。でも、と考えながら時間を浪費していた。
ふとみんなを見渡す。それぞれ叶えてもらう願いを考えているようで、自分の世界に入り込んでいる。なんだか疎外感を感じてしまった。みんなの意識を繋げる話題を探した。
「そうだみんな。打ち上げやらない?」
自分の世界に入っていながらも、その一言にはみんな賛成してくれた。
「はあ〜、お腹すいた〜」
「ふふ、このような打ち上げは初めてでワクワクしちゃいます!」
僕が打ち上げをしようと言い、それを夜に控えた休日のこと。バーベキューをしようと学園のスペースの一部を借りていた。
僕とメロネとアウィーロは先に集合して買い出しをしていた。もうすぐ第三理科室に辿り着くところで足音が一人分減る。それに気がついた僕とメロネは止まって後ろを振り返った。
「アウィーロ?」
彼は視線を彷徨わせてから僕らを見る。ぐおん、という機械音は今日は鳴っていない。魔法が使えるようになったことで、失った声を取り戻せそうにあるらしい。
それからは掠れた地声で話していた。
「二人とも……」
ひどく掠れた声が控えめに話しかけてくる。ここまで酷い声なら、まだ機械に頼ってもいいのではないだろうかと思うほど風邪を拗らせに拗らせたような声を出していた。
「言わなければならないことがある」
誰もいない静かな廊下で、彼はそれだけを静かに告げた。
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