第38話 勝敗を分かつのは
敵は振り続ける氷の柱に阻まれて攻撃を封じられている。こちらに攻撃を仕掛ける隙はないだろう。
「アウィーロ、落ち着け!」
「しかし……!」
「大丈夫。深呼吸」
僕とユグナでアウィーロの体を抑えた。弓を持った手をユグナが上から握ってなんとか震えを止めようとする。僕ももう片方の腕を押さえて声をかけ続けた。
数十秒後、やっと攻撃が止む。氷の柱が降らなくなったことで視界がクリアになった。すぐにユグナがフィールドを見渡して状況を口に出す。
「相手は二人ダウン。こちらはアウィーロを退避させるが、数ではこちらが有利になった」
「そうだね。あとはこっちでーー」
職員に素早くアウィーロを任せて僕たちはまた彼らに立ち向かおうとした。しかし……。
「あ……れ……?」
味方にかけた強化魔法を延長しようとした時に気がつく。
「魔法が、使えない……」
顔を上げればギルンが嬉しそうに顔を歪ませていた。気がついた時にはもう遅い。おそらくユグナもだろう。しまった、また油断してしまっていた。
「きゃあっ!!」
メロネとポリトナも抑え込まれてしまっているようだ。どうする? この状況を打開するにはどんな手段がある?
「……っ!」
ユグナが諦めたように目を閉じた。手持ちの魔道具で誤魔化しようにも、ギルンの魔法で対処されてしまいそうなものばかりで、迂闊に出せない。
「ユグナ、あの剣は持ってる?」
「……ああ。そうか、これならまだ」
そう言いながらユグナの表情は曇っていく。そう、彼はあの剣をまだ克服できていない。魔法発現してからはそれに頼ってきたからだ。
ここで出しても、まともに立っていられる保証はない。するとギルンが一歩、一歩弄ぶように近づいてきた。こちらの状況は筒抜けのようだ。
「どうした? 悪夢を見せる剣を所持しているのだろう?」
「なんで知ってるんだ……」
「使えばいい。できるものならなっ!」
ギルンが大剣で僕とユグナの間を狙って攻撃する。僕らは分断されながらもそれを避けて彼から距離を取った。観念したようにユグナはカプセルから剣を取り出す。
「それでいい」
まるであの剣をユグナに使わせたいと言った口調だ。どういう意図があるかはわからない。
「あああああっ!!!」
剣を構えながらユグナが悲鳴を上げる。尋常じゃないほどの汗をかいて息が上がってきた。ギルンに攻撃をしようとはしているみたいだが、一歩も動けていない。やはり、ダメだったか。
「ふっ……。無様だなぁ、ユグナ。もっとも卒業に近いお前が大衆の前でこのような恥を晒すとは。過去に囚われ醜い姿よ」
僕はその様子をなんだか他人事のように眺めていた。ぼんやりと景色がぼやける。しかしユグナの持つあの剣だけが鮮明に僕の目に映っていた。
何かを思いつくわけでもなく、次の瞬間には走り出していた。ゆっくりと思考が追いついていく。
「なっ」
「よく考えたら、これは僕が使えばよかったんだ。思い出すだけで寝込むようなトラウマ、僕にはないんでねっ!」
もちろんこの剣は使用者の苦しみが大きいほど威力が増す。でも剣そのものの攻撃力で十分威力はあるとアウィーロが言っていた。
僕はギルンに切り掛かり、不意を突かれた彼はその場に落ちた。
「なぜリーフちゃんに生徒を襲わせた?」
「ふっ……」
彼は笑っている。答えは返ってこない。僕は大剣を持つ手に力を入れる。このまま振り抜けばギルンをダウンさせられる。
「答えないならこのまま斬る!」
僕がそう言えば、彼はさらに笑って素手で大剣を抑えてきた。血がダラダラと垂れていく。なんだこいつ……。この状況を楽しんでいる。
ユグナへの言葉やリーフちゃんへの脅しの時点で思ってはいたが、やはり気味が悪い。
「……簡単なことだ。より確実に、この状況に持ち込むためだ」
「何をわけのわからないことを……!」
僕はもう一度大剣を握り直して彼を斬った。ユグナと比べてだいぶ技術は劣るだろうが、剣が強い分ダメージはあるはずだ。ギルンはそのまま地面に倒れる。
「っ!」
ユグナが座り込んだまま、奥にいる残った二人を魔法で攻撃する。ギルンを倒したことで魔法が戻ったらしい。僕もすぐにメロネとポリトナの防御を強化した。相手のチームメンバーも動いてはいるが、ギルンが倒れたことで僕らがなり優位になる。
順番にダウンさせていき、最後の一人を攻撃し終わった。
「か、勝っーー」
勝った。そう思いかけた次の瞬間、僕の視界は真っ暗になった。
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