第37話 憧れの理由

「……サテ先輩のことは去年の学園祭に来た時に知って、その時に一目惚れしたんです」


「あ、えっ、ああ、僕に憧れてたって話は本当……なんだ?」

「もちろんです!! こんなふうにいきなり襲うなんてできなくて、ずっと迷っていました。でも噂の所為で退学になったら、もう先輩を学園で見られなくなるから……」


 そんな、僕に学園で会えなくなるから噂の張本人になることを恐れていただなんて、相当好かれているじゃないか。この言葉には流石にみんな一瞬黙る。僕以外が見ても、彼女が本心で話しているのはわかるのだろう。


「ちなみに……フフッ、サテのどの辺が良かったのだろうか?」

「おい」

 アウィーロが半笑いで彼女に聞いたので、思わずツッコんでしまった。その様子が心底この状況を面白がっているようで腹立たしい。怖そうな見た目をしておいて、彼は結構ユーモアで溢れている。真顔で冗談言うから油断ならない。


 そんな意地の悪いアウィーロとは対照的に、リーフちゃんは問いかけに一生懸命答えてくれた。僕のいいところを数個あげてくれる。うれしい。


「そ、そっか〜」


 このような純粋な好意を向けられるのはあまりなくて、僕は反応に迷ってしまう。するとアウィーロがゴツゴツと僕の脇腹を肘で突いてきた。ごめん、僕はこんな時気の利いたセリフを思いつけないんだよ。

 結局メロネが目をキラキラさせてロマンチックだなんだと騒ぎそうだったので、僕らは早々にリーフちゃんを送ることにした。


「お、送っていただきありがとうございました……! その、明日は頑張ってください!」


 彼女の寮はそこまで遠くない位置にあったので、案外すぐに着いてしまった。彼女は今夜僕の急襲に失敗しているので、事情を信頼できる教師か職員に相談しておくように助言だけしておく。あとは僕らが明日ギルンを負かせばいいのだから。

 リーフちゃんが寮に入ったのを確認して僕とポリトナは来た道を戻り始めた。


「よかったねサテ」

「よかったって……何が」

「モテてるじゃん。可愛い子にさ」


 ポリトナはちょっとだけ面白くなさそうにそう言う。どこが不機嫌ポイントだったのかいまいち掴めないけど「嬉しいけどきっとそんなんじゃないよ、先輩マジックだって」と答えておいた。

 学園祭で一目惚れしたなら、僕がやっていたスィフの仮装でも見たのだろう。壁画に忠実で、あれは結構好評だったから。


「?」


 さっきから明らかに彼女の口数が少ないような気がする。僕は急に心配になって彼女の顔を覗き込んだ。

「どうした? ポリトナ元気ない?」

「ううん。だいじょーぶ」


 晴れない表情のまま、ポリトナは僕の隣を歩いている。それからコロシアムの宿舎に着くまでの話題は、いつもほど盛り上がらなかった。



 次の日。決勝戦の時間となった。会場は中央コロシアム。大会の頂点を決める戦いというのもあり、多くのギャラリーが詰めかけていた。


「それでは、試合開始!!」


 試合開始のコールが聞こえる。僕はチーム全員に防御や攻撃の強化魔法をかけながら相手の出方を待った。ここまで勝ち上がっただけのことはあり、向こうにも隙がない。


「来るぞ!」

 ユグナの前に大きなゴーレムが召喚される。これがギルンの召喚魔法。敵の数が増えてしまうので早く封じなければこちらが消耗するだけだ。


「サテ!」

「わかってる!」


 魔法攻撃を避けてユグナの隣に走る。そして、僕は攻撃を彼の剣に放った。剣は青い雷を纏い、ゴーレムに襲いかかる。ゴーレムは動きがそこまで早くない。

 攻撃が飛んでくる前にこちらから仕掛ければ、大きな音ともに崩れ去った。ギルンの召喚魔法についてはユグナが情報を持っており、どう倒すかの作戦はある程度用意してきているつもりだ。


 それに学校支給の剣は何度でも交換可能なので、魔法を乗せて壊れてしまっても問題ない。職員には剣を大事にしろと言われてしまうが、魔法衝撃に耐えられる武器はみつからなかったのだからこの手段を使わせてもらうことにしていた。


「っ!」


 メロネの方を見ると、弓の攻撃を避けながらハンマーの相手も攻撃してくれている。実力は互角で、均衡を保っているようだ。


「このままじゃお互い消耗するだけだ」

「でも……っ」

 またゴーレムが追加される。敵を召喚され続ければ、先に限界を迎えるのはこちらのチームとなる。


「わああああっ!!!」


 ポリトナが突き飛ばされて、短剣を持ったEクラスの生徒に追い詰められていた。僕が手を伸ばすが、今の位置だと魔法にポリトナも巻き込まれるだろう。

 間に入るには距離が空きすぎている。相手の剣を持った手が、大きく振り上げられた。


 ダメだ、やられる。


「ポリトナっ!!!」

「えっ……」


 時間が止まったみたいだった。横から何かが飛んでいって、キン、と音が聞こえたかと思うと、短剣を振り上げている生徒は氷漬けになっていた。


 飛んできたのは矢だ。その出どころに目線を移せば、ガタガタと体を震わしているアウィーロの姿がある。……まさか。


「まって、なんだこれ……! 止まらないっ……!」


 彼の弓から氷の柱が出続けており、それはあちこちに飛んでいっては着地点を凍らせている。

 ……魔法だ。しかも彼は混乱している。僕とユグナは慌てて彼に駆け寄った。

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