第27話 僕らへの評価

「すごい! 魔法発現だ……! 初めて見た」

「試合中に魔法発現って初めてじゃないかしら?」

「迫力すご……!」


 ギャラリーは興奮し切っているようで、歓声が止まない。その歓声は前回の試合のような悪意ではない。その逆だった。それを自覚できただけでもなんだかすごく安心する。

 前のブーイングで思い出したくなかったコロシアムの景色は、一気に変わっていた。僕は周りを見渡す。以前は誰にも目を合わせずに控え室に引っ込むことになったから、ちゃんと見ておきたかった。ああ、これだよ、と体の中心からそわそわとした感覚が湧き起こる。

 僕が欲しかったものはこの賞賛だ。やっぱり僕はまだ、リアクションで満たされる人間のようだ。それに今は魔法の使いすぎとこの熱気でハイになっている気がする。


 この中にはユグナの父親もいるはずだ。ちゃんと息子の勇姿を見ることができただろうか。あなたの思惑は失敗に終わったんだと見せつけるように、来賓席のどの席見ているかもわからない父親に視線を送る。


「ユグナ!」


 その声に振り返ると、ユグナは鼻血を片手で受け止めながら茫然と立ち尽くしていた。僕は我に帰って彼の両肩を掴み、名前を呼んだ。放心状態のようでこちらからの呼びかけには反応が鈍い。


 僕らしかいないコロシアムのフィールドに職員たちが入ってきた。数人は白衣を着ているから、ユグナの様子を見にきてくれたのだろう。正直どうすれば良いのかわからなかったのでありがたい。大人が来てくれたことで緊張の糸が緩んだ感じがした。


「勝者、第三の選択肢!!!」


 勝利の宣言が行われるが僕らはそれどころじゃなかった。ユグナの周りを学園の職員たちが囲んでいる。彼の様子を見ながら薬品や素材の名前とグラム数を確認していくのが聞こえた。治療薬を調合するのだろう。僕が魔法発現した日もこうだったのかもしれない。

 保険医や薬剤師からの血液型やアレルギーの類の質問に僕らも答えていった。ユグナの何気ない情報が役に立った瞬間だった。


 前回のバトル試験同様、各チームの試合は一回だけだ。二年生の試験からはトーナメントで一位が決められたりするらしい。全チーム一回ずつの今回は、試合の進みが早い。

 あんなに奮闘した試合から時は経ち、あっけなく大会終了の時間となった。僕らは一番会場を沸かせたチームとして閉会式で表彰されることになった。ユグナは今魔法発現後の治療を受けているので、僕らで表彰の証であるバッジを受け取る。会場を沸かせた張本人には後でバッジを届けてやろうと彼の分はポケットにしまった。


 閉会式も終わり、僕らが歩いていると、やはりいろいろな人から噂されているようだった。特に前期試験の僕らの様子を知っている人からすれば、奴らは一体なんなんだって感じだろう。


 結局僕らの印象は”ずるい”という言葉で表現されることになってしまった。多くの人が目にする初戦で魔法発現が出てしまえばそうなる。その後の試合は味気ないと人の記憶にあまり留まらなくなる。

 それに、”魔法使いが二人所属するチームが今日誕生した”という情報だけで多くの注目が集まる。学園内で僕らは一目置かれるチームとなった。魔法使い無しに加えて、増員離脱の不利だった僕らに、光が当たった瞬間だった。


「…………」


 しかし僕は見ず知らずの人からの評価より、気にしているものがあった。なかなか答えはもらえない。そう、未だ顔のわからない友人デューイだ。結局一年もの間同じ学園で過ごしたはずなのに直接会うことはなかった。試合を見ていたかという返事には「見た。おめでとう」とだけ返される。すごく淡白だった。

 なんかこう、他にないのか。とヤキモキしてしまう。おそらくこれは、デューイから良い評価をもらえると期待していたからなんだろう。欲深くならないようにと思っても無意識は求めてしまっていたようだ。


 その頃からまた、デューイからの返信は途絶え始めた。

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