第26話 暴走
僕の声を聞き、ユグナは弾かれたように腰のカプセルを開いて剣を取り出す。時間が本当にない。
振り返った彼の後ろから魔法攻撃が迫っていた。魔法とは反対の属性の攻撃をアウィーロが放ってくれているようだが、それでは全く威力が落ちないほど、向こうの攻撃が強い。
「ぐっ!」
ユグナが両手で剣を持つ。すでに剣の力で苦しんでいるらしく、体が大きく傾いている。みんなで彼の体を支えてなんとか立ってもらった。ひゅ、ひゅ、とユグナの喉の奥から高い音が鳴っている。
やっぱりこの剣、使用者によっては身を滅ぼす劇物だ。あの冷静でなんでもこなすユグナを、ここまで追い詰めているのだから。彼の体に触れている部分から、彼が全身に力を入れたのを感じる。もう魔法攻撃は僕らの目前まで迫っていた。
「ああああああ!!!!」
彼は叫びながら剣を思いっきり地面に突き刺した。どうしてそんなことを? と思う間もなく状況が変化する。剣と地面の隙間から炎が現れて相手の攻撃を消滅させた。何かを考える前に、また状況が変わる。
次の瞬間には大きな炎の柱が前方に何本も現れていた。炎の範囲はどんどん大きく広がっていき、僕らが立つ場所まで迫ってくる。
僕は慌てて一歩出て魔法のシールドを張った。シールドの範囲を広げてチームの全員を防御壁の中に入れる。相手チームの方にチラリと視線を向ければ、最初の炎の柱が出現した時点で全員吹き飛ばされてしまったらしい。
今は相手がどうなったかまで確認する余裕はないが、無事は祈っておいた。
「まずいな……」
炎の威力は未だ増し続けている。それを生み出した当の本人はただぼうっと立っているだけだった。危機的状況下での魔法発現。完全に魔力が暴走している。このままじゃ会場が火の海だ。
「っ……」
僕はあとどのぐらいシールドが持つか自分の魔力と相談する。流石に手が震えてきた。こういう時のために防御系の魔法も増やしておくべきだったと今更どうしようもないことを考えてみる。やっぱり耐えるしかないか。
「し、試合を停止します!!」
ゴオオオッという炎の轟音の中から審判の声が聞こえる。次の瞬間、会場を包み込んでいた炎が一瞬にして消え去った。
「…………」
「…………」
数秒の沈黙。その後大きな歓声が響く。僕は体を大きくふらつかせながらシールドを解除した。息が上がっている。魔法でここまでの体力を消耗したのは初めてだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます