第25話 猛攻への切り札
ユグナの父親は、自分の息子の試合を多くの人間が目にする初戦に割り当てて、無様な姿を晒す気なんだ。自分の息子の決めたギドルヴァーグへ行く夢をまだ許していないから。来賓も含めたギャラリーの多い試合で前回のようなセコい手を使えば、ブーイング程度では済まない。
卒業が危うくなるだけじゃなく、学園内外からの目が厳しくなる。耐えきれず退学することを期待されているのだろうか。本当にユグナの親なのかと思うほど酷い仕打ちだ。こういう時いつも自分の家と比べてしまうけれど、やはり僕の家ではそんなのはあり得ない。子供の意思や考えを応援してやれないのはどうしてなんだろう?
「本当にすまない。また俺の個人的な家庭の問題でみんなに迷惑を」
彼が頭を下げようとする。しかしそれはみんなの手によって制された。
「迷惑だなんて微塵も思っていないぞ」
「そうそう! そっちの方がむしろ燃えるよね!!」
「ええ! 絶対に見返しましょう!」
「正々堂々戦って勝とう。それで全部解決だろ?」
僕らの言葉を聞いて、ほうっとユグナが感心したように息をついた。申し訳なさそうな表情を忘れてしまったみたいに、目を輝かせて彼はこちらを見ている。
「俺は本当にチームメンバーに恵まれたな」
「それはこっちのセリフだ」
そう言えば感極まったのかどれだけ僕たちが素晴らしいかを語ってくれようとしたので、それは卒業できた時に行ってくださいと冗談混じりに言えば、珍しく彼は声を出して笑ってくれた。
「それでは、試合開始!!」
審判の声が響く。間髪入れずに相手の魔法攻撃が飛んできて僕らは陣形を崩された。僕らが仕掛ける前に仕留めるらしい。会場からおおっと歓声が上がる。次の手を考える前に今度は弓の攻撃だ。攻撃が止んだ途端に一気に距離を詰められる。僕は光の光線を放って接近してきた敵を吹き飛ばした。周りに目をやる。アウィーロは弓で後方から攻撃を続けてくれている。メロネも大ぶりのハンマーを振って接近戦は避けられていた。相手の武器よりリーチが長いのでこちらが優勢となっている。残りは、ユグナとポリトナだ。
「よっと!」
ポリトナは手持ちの魔道具で相手の短剣の攻撃を器用に避けている。しかしそれは手持ちの魔道具を使い切ってしまえばこちらが不利だ。相手のEクラスの生徒は僕と同い年の男子生徒で、短剣での勝負になれば体の小さいポリトナでは武が悪い。
ユグナとAクラスの生徒は剣を交わして戦っている。見たところ武器は学園支給の同じものだ。それなら剣術に長けるユグナの敵じゃないだろう。問題はDクラスの魔法使い。なかなか強者だ。攻撃範囲が広いのに威力が強すぎる。
僕の攻撃じゃ打ち消しきれないし、防御も間に合わない。魔法使いは僕とユグナを狙っているようだ。いくらユグナが相手より剣術で上回っていたとしても、いつ来るかわからない魔法攻撃まで避けていては手が回らなくなる。
「!」
相手の魔法攻撃が止まった。僕と相手の間に大きな魔法陣が浮かび上がる。しまった大技の呪文詠唱を始めている。僕がこれから同じことをしても間に合わない。溜め攻撃で衝撃を和らげるか、防御するか。考えた結果僕は防御を選択した。
一つしか所持していない魔道具をポケットから取り出す。魔力を一時的に増幅する魔道具だ。これで防御を固める。
ドオオオオオオ!! っと大きな音がした。さすが大技だ。僕は防御壁ごと数メートル後ろに押される。
なんとか攻撃は防いだけれど、また相手は大技の攻撃に入っている。攻撃で邪魔しようにも他の生徒に邪魔されてしまった。自分の相手と戦いながらも仲間の状況を確認しているらしい。……強い。全員ユグナかって感じだ。
「ああもう……!」
もう魔法の増幅はできない。彼はもう直ぐ詠唱を終えてまた攻撃を放ってくる。今の俺は次の攻撃に耐えられるか? もし耐えられなかったどうなる? そうなれば僕らが倒れる前に学園側に強制的に止められる。
それだと僕らの負けだ。ユグナをチラリと見ると、あのトラウマを呼び出す剣の入ったカプセルに手を添えては離してを繰り返している。かなり迷っているようだった。なかなか勇気が出ないようで時間と僕らの体力だけが消費されていく。
「ユグナ!」
「!」
僕が彼の名前を呼ぶと、彼は体を大きく震わせた。こちらを振り返り、僕を見つめる。
僕ら二人の時だけが一瞬止まったようだった。
彼は自信がなさそうにしている。おい、いつもの顔はどうしたと焦りが駆り立てられる。一回でいいから、この場を打開する力が欲しい。
「今は君しか対抗できない! さっさと勇気を出せ!!」
そう言うと彼は目を見開いた。
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