第24話 選ばれた試合
「ごめん。今はこの剣を使わせるわけにはいかないよ」
案の定、僕から剣を奪われた彼は納得がいかないと言った顔をする。ごめんと思いつつ武器入りのカプセルは返してやれない。多分ユグナは怒って暴言を吐くことも、リーダーの命令を振りかざして、僕らを縛り付けることもしないだろう。
彼は優秀で時に強引ではあるが、独裁的なことはしない。僕の予想通り、彼は黙ったままだった。僕よりずっと頭がいいから、こちらの考えも理解はできるはずだ。
「他に強い武器が手に入る可能性もある。それは最終手段とするのが得策に見えるな」
アウィーロからの後押しで彼は諦めたように頷く。心のどこかではこの剣に敵わないとわかっていたのだろう。やっぱりユグナも人間だったんだと再確認した。
ユグナが落ち着いたところでポリトナが剣の呼び起こすトラウマについて尋ねていた。彼曰く、人生で経験した辛い出来事が、映像になって一気に脳内を駆け巡るらしい。父親や母親に言われて絶望した言葉や、乳母が自分を捨てた時の記憶など、多くの苦しみで自分がコントロールできなくなるという。その苦しみが強いほど剣の威力も増すらしいけれど、それに耐えられなければ攻撃できない。
その後何度か剣に慣れるための訓練を行ったが、成功せずユグナの精神が磨耗するだけに終わったので早々に諦めることになる。
アウィーロの言葉通り、僕らの本当の最終手段として、剣はユグナの腰にカプセルごとぶら下げてはいるものの、事実上封印することになった。
「試合のタイムスケジュールが発表されたようだ。確認してくる」
前にも聞いたことがあるセリフだと思いながら僕たちはユグナを見送った。イーグル探索初期から随分と時が経ち、今日は入学してから二回目のバトル形式の試験の日。そしてこれが一年生としての最後の試験となる。
卒業を目指す僕らはこれまで試験というものにかなりの力を注いできた。今回もそれは例外じゃない。しかしそれよりももっと明確にこの試験に気合が入る要素が一つ。
「奴らだ」
「ああ、気をつけないとな」
前回の試験。つまりは前期最後のバトル試験で僕たちは、セコい手を使うチームだと認識されてしまっている。なんとも腹立たしい。僕らにだってプライドはある。そんなふうに思われ続けるのはごめんだ。今回は実力だけで勝たなければ。
「が、頑張りましょうね」
メロネが握り拳を作って気合いを入れている。こういう一声はありがたい。僕らはそれに頷いた。
すると少し早足でユグナが戻ってくる。なんだかそわそわとしているようだ。
「初戦だった。会場はこの中央コロシアムだ。控え室へ急ごう」
「えっ、わ、わかった」
それを聞いて僕は一気に緊張する。初戦、ましてや中央コロシアムの試合は開会式の延長のようなもので、多くのギャラリーに見られることになる。学園側もそれを考えて見応えのありそうなチームを割り当てると風の噂で聞いたことがあった。
それが本当なら、僕らはわざわざ選ばれたということになる。一体なんのために? セコいイメージはあれど、至って普通のチームだと思うけれど。
「な、なんでボクたちが初戦なんだろう……」
「ですよねですよね……! しかも中央コロシアムだなんて……もっと他のチームでも良さそうな気がしますが……」
ポリトナとメロネが戸惑った様子で控え室に向かっている。僕自身も同じ気持ちでその答えは出ていなかった。視線をユグナとアウィーロに向ければ、わかってる、覚悟はできていると言った顔をしている。
どうやら二人には思い当たる節があるのだろう。それか自分の腕に自信があるから、見応えのある試合を作れる、という考えだろうか。
「まずは着替えを済ませよう。開会式が終わったら呼ばれるはずだ」
「そうだね」
控え室についてすぐに僕たちはバトル試験用の衣装に着替えた。あとは武器のチェックとコンディションの確認くらい。そう思っているとユグナが言いづらそうに口を開く。
「……俺の父が来賓で来ているそうだ。父は前回の俺たちの結果を知っていて、おそらく今回も同じだと思っている。だから俺たちが初戦に選ばれたのだろう」
「ああ、そういうこと」
やっと理由が判明する。なるほど、リコエシャール家の圧力でしたか、と冗談めいた僕の声が脳内で響いた。
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