第23話 諸刃の剣
数日後。案外簡単な確認の末、第三の選択肢にイーグル探索の許可が降りた。許可が降りた当日から僕たちは空間に入り、森の中を歩き進めていく。バーディと同じでここもギドルヴァーグに似せて作られているせいか見慣れた景色が広がっていた。バーディよりは広い範囲で作られているらしいけど。
「これは……」
”いいこと”というのはとんとん拍子に続くこともある。イーグルの探索を開始して数時間。大きな宝箱の中に入った大剣を入手した。
「こんな簡単に強い武器が見つかっちゃうなんて……バーディで僕らが費やした時間は何だったんだよ〜」
「そうですねぇ、サテが魔法使いになったことに感謝です……!」
ポリトナとメロネから感謝の言葉がかけられる。なんだか照れ臭くなったけど、ここは胸を張っておくことにした。そしたら何故か拝まれてしまった。うむ、苦しゅうない。と心の中で言っておく。そうしながら僕はくるりと振り返った。
「それで、その剣は使えそう?」
喜んでいるポリトナとメロネを背に、僕は剣を手にしたユグナの手元を覗き込んだ。彼は角度を変えながら剣を確認していき、難しい顔をする。少しだけ嫌な予感がした。
「まさか、……すっごく弱いとか?」
「いいや。それはない」
アウィーロが剣を持ち上げた。剣は光を反射して暗めの紫色を放っている。なんとも禍々しい雰囲気。できればあんまり持ちたくはない感じだ。抵抗なく手に取ったアウィーロはすごいなぁと感心する。
「威力は十分。学園支給の剣よりかなり強い。ただ、厄介な性質があるようだ」
一眼見ただけでそこまでわかるなんてすごい。僕は思わず身を乗り出した。
「厄介な性質って?」
「使用者の精神を抉る。過去のトラウマを鮮明に思い出させる性質があるようだ。使いこなすには精神面で強くないといけない」
「それはまた……」
みんなの視線がユグナに集まった。チーム内で大剣を使うならユグナだろう。彼もそれはわかっているようだった。何も言わずにアウィーロから剣を受け取り、すっとカプセルに仕舞う。少し緊張しているように見えた。ユグナにしては珍しい。
「使えるかどうかは試してから決める。まずはこれで魔物と戦ってみよう」
それだけ言うと、彼は先陣を切って歩き始めた。僕らは互いに目を合わせてから彼についていく。
精神面で強いか、思い出したくないほどのトラウマを抱えているか。それに全く言及しなかった時点で僕らは彼を止めるべきだった。
しかしそれに僕たちが気がついたのはもっと後のことになる。
「あ、あそこ! 魔物だっ」
低級の魔物に遭遇するのも時間はかからなかった。今日はことごとく何でもうまくいく。歩いていたらちょうどよく信号が青になっていくような小さなラッキーを感じていた。絶賛魔物に遭遇しているので、そんな場合ではないのだけれど。
すぐに配置について僕らは武器を構えた。先に僕とポリトナが魔道具で霧を出し、僕が魔法のシールドを張る。相手の動きが鈍くなったところで他の三人に攻撃をしてもらうのが僕らの戦法だ。そしてここは、先ほど剣を手に入れたユグナに任せる場面。しかし彼はなかなか動こうとしない。少しおかしいなと思ったところでその異常に気がつく。
「あっ……」
カン、と金属が音を立てて地面に落ちる。前方。ユグナが剣を落とした音だった。慌てて駆け寄ると、彼の目は大きく揺れて顔が青ざめている。
「来るぞ!」
すぐに後ろからアウィーロが弓で攻撃し、魔物を倒した。敵がいなくなったことで緊張が解けたので、全員がユグナの方を見る。彼は申し訳なさそうにしながら剣を拾ってカプセルにしまった。
「すまない。あまりの邪気に剣を取り落としてしまった。これからは扱えるように努力する」
「駄目だよ、無理したら。顔真っ青じゃん」
「いいや。これは俺の役割なんだ。必ずやり遂げなければ」
窶れた目がこちらに向く。僕はたった一本の剣の性質に驚きを隠せない。彼が剣を持ったのはほんの数分だ。それでここまで弱るなら、剣の威力は凄まじく、彼のトラウマは相当なものだ。もうしかしたら彼の家のことや、彼を置いていったという乳母に関わるトラウマでも見ているのだろうか。どちらにせよ、これ以上剣を持たせたくない。これは諸刃の剣だ。僕は迷いなく彼の腰に手伸ばす。
カチッ
「あっ、何をするんだ」
「ごめん。今はこの剣を使わせるわけにはいかないよ」
僕は彼の腰についた武器カプセルを外して奪い取った。
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