第4章 心からの勝利を求めて

第22話 青い雷

「もう大丈夫か」

「うん。すっかりね」


 魔法空間バーディでの魔物事件から数日。第三理科室に顔を出した僕を見て、皆んなほっとしたような顔をした。随分と心配かけてしまったらしい。申し訳ないと思いつつ、魔法が使えるようになったことでみんなの役に立てるかもしれない喜びで僕は浮かれていた。


「忘れないうちにこれを渡しておく」

 椅子に腰掛けた僕に、ユグナがそっと何かを渡してくる。手に乗せられたそれは、点滴中にユグナに見せられた、歪な形をした水色の透明な破片の実物だった。


「これって、確かあの魔物がいたところに落ちていたものだよね?」

「そうそう! ボクが見つけたんだよ」


 ポリトナが元気よく答えてくれる。僕はその欠片を手のひらの上で転がしてみた。ただの透明な石で特に変わったところはない。

「結局これは何だったの?」

「解析の結果、やはりスィッフ欠片の一部と思われる。ただだいぶ端の部分で、魔法反応は確認できなかったらしい。スィッフユニオン側は調べ切ったので、記念にサテが所持していいそうだ」

「じゃあお守りがわりに……なるかわからないけど持っておこうかな」

「そうするといい。それと、その欠片を持つ魔物がなぜバーディに現れたのかを学園側が調べている。そのためバーディは閉鎖となった」


「そしたら、探索はしばらく行けないってこと?」


「いいや、そうでもない。魔法使いの魔力が安定したら、一つレベルが上の魔法空間イーグルの探索許可がもらえる。学園側が作り出した極めて低級の魔物が出現するが、学校支給の武器で討伐可能な程度だ」

 魔法空間イーグル。授業でちらっと聞いたことがある程度だが、武器や魔道具の入手率は高いらしい。収穫は期待できそうだ。そうなれば、一日でも早く魔法を習得せねば。



 それから一週間、僕はユグナに教わって魔法の制御ができるように特訓を行った。魔法が使えないのになんで制御の方法が的確にわかるのかと彼に聞くと、Dクラスの授業内容を参考にしているという。彼は未だに録音をしながら履修しているのだ。かなり先に行われる、次の筆記試験に向けて。


「えいっ!!」


 僕が手の先に魔力を込めると、十数メートル離れた的に攻撃が当たった。この練習を始めて一週間、ようやく魔法を放ちたい位置に打てるようになったらしい。その成長に他の三人もパタパタと拍手してくれている。 僕だけの特訓に皆んな毎回集まってくれていた。


「その調子だ、何度か繰り返して感覚を掴んでおこう」

「分かった」


 何度か狙いを定めて攻撃を放つ。そのほとんどが的に当たり、攻撃は安定してきたと言っていいだろう。やっと魔法使いだと名乗れるなと思っていると、アウィーロが僕の指先をじっと見つめているのに気がついた。


「アウィーロ? どうしたの?」


 そう聞けば、ぐおん、と機械音が鳴る。彼の音声ソフトは未だ調子が悪く、話す度にこの機械音を鳴らしていた。


「最初に魔法を使った時、青い雷を出していたようだが、あれはもう出さないのか?」

「ああ、そういえば」


 僕は魔物を攻撃した時の情景を思い出した。アウィーロの言う通り、青い雷を僕も見た。しかし今使えているのは光の光線を放つ魔法で雷ではないし、青くもない。あの時のような威力もなかった。


「そのことなんだが」


 ユグナが僕らに一歩近づいた。何か思い当たることがあるらしい。

「おそらくサテは雷の属性の魔法を使える。ただ、雷の魔法は発動させる難易度が高く、扱える魔法使いが非常に少ない。俺も初めて見たほどだ。それほど情報が出回らない」

「そうですね、雷魔法は大魔法使い様を筆頭に、数えられるほどの人しか扱えないと聞きます。なのでサテがその使い手だとしても、魔法を覚えたての状態では簡単に発動できない可能性が高いです」

 ユグナ同様にメロネも魔法には詳しいらしい。なるほど、僕は結構希少な属性の魔法を使えるのか。ふーん。そっかそっか。そう思いながらまた自分が浮かれているのに気がつく。いけないいけない。僕は一番下のEクラスなんだ。いい加減にしろ。天狗になるな、怠るな。


「とにかく今は、魔法を安定して打てるようになることだけ考えようと思う……」


 僕はそれだけ言って練習に戻った。自分からも他人からも興味をなくして魔法に集中しよう。絶対にその方がいい。そしてそれが可能になった未来の自分に、青い雷の魔法を託すことに決めた。

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