第21話 バーディで起こったこと

「……?」

 目を覚ますとそこは薄暗い部屋だった。だんだんクリアになってきた視界で見渡す。周りにはぶくぶくと気泡を立てる試験管やフラスコが並べられていた。誰もいない。

 起きあがろうとすると手に違和感を覚える。僕は点滴に繋がれているようで、蛍光色の液が入ったチューブが腕まで伸びていた

 ……え? 蛍光色?


「ひぃぃっ!?」


 情けない声が上がる。なんだこの色。人間に投与していいものなのか? もうしかして僕は何かの実験台になるのだろうかなんて、いろいろな考えが浮かんだ。一気に不安で埋め尽くされる。


「起きたか。……よかった」

「ユグナ……?」


 僕が軽くパニックになっているところにユグナが現れてくれた。ひとまず点滴は人間用の薬であることを教えてもらい、少しだけ落ち着いた。よかった、俺でキメラを作るとかじゃなくて。


「魔法発現をした者は体の急激な変化でかなりの負荷がかかる。それを軽減するために調合された薬らしい。これはサテの体に合うように作られていると聞かされた。薬と十分な休息で回復できるから安心していいそうだ」


「そっか……」


 この部屋は調合用の特別な部屋で、魔法発現した生徒はここに運ばれて回復するらしい。こんな場所来たことがなかったし、何よりこの点滴の色も初見だ。もっとマシな見た目にならないものだろうか。


「じゃあ、……僕本当に?」

「ああ、魔力発現したんだ。君はもう魔法使いということになる」

「まじかぁ」


 僕が感動していると、ユグナが真面目な表情になった。どうしたの? と問いかけると彼は難しい顔をしたまま僕の横たわるベッドに腰掛ける。


「まずはバーディで起こったことを話そう」


 僕たちは学園内の魔法空間バーディで武器の探索をしていた。そして魔物に遭遇し、僕が魔力発現をしてそれを倒した。その出来事の詳細だろう。


「サテが魔法を放った場所。つまり魔物が立っていた位置から魔物の反応が出た。だから俺たちが対峙していたのは正真正銘の魔物だったということになる。しかしここで矛盾が生まれる」


「バーディは魔物が出ないはずの魔法空間だってこと?」


「そうだ。本来魔物が出ないはずのバーディでの魔物の発生は異常事態だ。今、教師や職員など学園側が緊急会議を開いている」

「そうだよね……魔法発現がなかったらきっと僕たち死んでいただろうし」


 バーディで魔物が出ないのは、もちろん魔物を相手にできないレベルの学生が利用するために作られた場所だからだ。その生徒がいきなり襲われれば、結果は誰にだってわかる。今回は奇跡で助かったようなものだ。


「ああ。そして、魔物がいた場所からあるものが見つかっている」


 ユグナがスマホの画面を見せてきた。表示されているのは一枚の写真で、歪な形をした水色の透明な破片のようなものが写っていた。


「これは?」


「詳しくはわからないが、ギドルヴァーグで近年発見されているスィッフの欠片と類似している。スィッフユニオンの研究者に渡して解析にかけるらしい」

「でもどうしてこんなものが……」

「素直に考えるなら、ギドルヴァーグの魔物が突然バーディに現れた……が自然か」


 情報が多すぎて混乱だらけだ。僕も教科書でならスィッフの欠片を見たけれど、それがどうしてあの場にあったというのだろう?


「なあ、サテ」


「なに?」

「今回のこと、どう思う?」

 ユグナはぶくぶくと音を立てるフラスコの方を見ながら僕に聞いた。どう思う、とはバーディで魔物が出たことについてだろうが、自分の中で正直答えは出ていない。


「僕にはわからないけれど、学園も知らないことが起きているなら、……やっぱり少し異常なんじゃないかな」

「そうだな。俺も同じ考えだ」


 そう言いながらユグナはベッドから降りて立ち上がった。僕を見て彼は優しく微笑んでいる。


「まずはサテが魔法発現した事実を喜ぼう。本格的なバトル試験までに発現できてよかった。試験までにうまくコントロールできるようになろう。こちらも全力でサポートをする」

「うん、わかった」


 ユグナは優しく微笑みかけてくる。このイケメン……と思いつつ、この顔に安心している自分もいる。


「まあ、今は体を十分に休めてほしい。元気になったらお祝いをしよう。食べたいものでも考えていてくれ」

「……ありがとう。元気出た」


 自信を失くしかけていたところに、新たな希望が芽生える。僕は魔法使いになったんだ。これで役に立てる。

 この間の大ブーイングのトラウマを全員分、晴らすことができる気がした。

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