第18話 不完全燃焼
「っ!!!」
すぐにユグナが弓を持った生徒に斬りかかる。その一撃でBクラスの彼はダウンした。それを見ている間にメロネがハンマーを回す。Eクラスの女子生徒は震えながら反撃しようとしていたが、吹き飛ばされてしまった。リーチが長い武器に短剣で挑もうとしても、相手の間合いに入れなければ攻撃は難しい。
しん、とコロシアムが静まる。審判も一瞬ポカンとして、状況を判断するのに時間がかかったようだ。
「勝者、第三の選択肢!!!」
しかしすぐに切り替えたようで、僕ら側に手を掲げてコールする。次の瞬間、数少ないコロシアムの観客からブーイングが起こった。何を言われているのかの全ては聞き取れないが、その悪意が僕たちに向けられていることはわかる。魔道具に頼りすぎた試合を責める内容が微かに聞き取れた。聞き取れたところで自分の気持ちが沈むだけでどうすることもできないのだけれど。
”これもバトル試験のためだ。先を急ぐぞ”
この空間に居合わせて初めて、ユグナが探索に必死になっていた理由を知った。こんな勝ち方をしたくないし、きっと僕らにこんな思いをさせたくなかったから。何歩も先をいく彼の考えに追いつく頃には、かなりの時間が経っていることをまた実感する。
「会場を出よう」
ユグナはそれだけ告げる。僕らはギャラリーに目も合わせないまま、控え室へ退散した。その間も納得いかないような声が耳に届き、僕は目を瞑った。
今一度問う。魔法使いがいないチームが勝利するには、本当にこうするしかなかったのだろうか?
控え室に戻り、僕らは俯いたまま黙っていることしかできなかった。誰も納得はいっていないだろう。
「すごく評判悪かったね」
ぼそっと声が漏れた。この空気をどうにかしようとしたわけじゃない。心からの感想だ。声に出さないと耐えられそうになかったのだから許してほしい。
「これはショーじゃない。対魔物用の練習だ。相手を負かしたら勝ちなのに変わりはない」
ユグナはそう言いながらも悔しそうな顔をしている。今回の試験はこの一戦だけで終わりだ。だからこそこの不完全燃焼な感情を解放する場がない。
♪♪♪♪♪
スマホが鳴り、画面を見るとデューイからメッセージが来ていた。止まっていた連絡はスマホの修理が原因だったらしく、やり取りはできるようになった。
“試合見たよ。ちょっとずるい勝ち方だったね。あんまり好きな戦法じゃなかったかも”
「はぁ……まあ、そうだよなぁ」
グサっと彼の言葉が刺さる。当然の主張だ。当然だからこそさらに落ち込む。多分僕が同じ立場でもそう言うと思う。スマホから目を離さないでいると、誰かからの視線を感じた。
「そろそろここからも退散しよう」
彼は切り替えたようにそう言い、荷物を肩にかけた。しかし節々から、悔しさが見える。申し訳ないと思ってしまった。
ユグナの忠告を聞いて、もっと一生懸命に探索していれば、この未来は変えられたのだろうか。
“ユグナ。今日の夜なんだけど、忙しい?”
この気持ちをすぐに晴らしたくて、解散した後に僕はユグナに連絡を入れた。彼からは時間はあるという答えが返ってくる。
“今日からバーディで探索をしたい。疲れてなければ一緒に行ってくれないかな”
バーディとは、僕らが散々探索をしたあの魔法空間の名前だ。魔法空間ごとに名前がつけられていて、ギドルヴァーグに似せて作られた空間には鳥に関する名前がつけられるらしい。これは授業で先生が言っていた。
ユグナからすぐに返信があり、彼も探索に行きたいとのことだったので、僕らはバーディの入り口で待ち合わせることにする。待ち合わせ場所に向かうと、数名が立っているのがわかる。
「サテ、やっと来た!」
「ポリトナ……。みんなも、どうして?」
集まっているのは第三の選択肢の面々だった。夜の探索だったから女子を避けてユグナにしか声をかけていなかったというのに。
「俺が呼んだんだ。こういった活動は全員でやった方が上手くいく。あまり遅くならないうちに早く向かおう」
「……そうだね。行こうか」
こちらの意図は通じているらしいので、僕は黙って彼に着いていくことにする。
「探索をするのは、即戦力となれる俺の剣とアウィーロの弓を最優先とする。特に剣は魔法防御が付くとなお良い」
ユグナは探索器を起動して目の前に掲げる。すぐにそれは小さく光だしてユグナが歩き始めた。僕らもその後を追っていく。
「メロネの武器も対策が必要だろうな」
「わ、私の武器!?」
アウィーロがメロネの腰の辺りを見た。そこには手のひらサイズのカプセルが吊るされている。カプセルの中にはメロネがまたハンマーが納められている。これは学園支給の武器収納カプセルだ。メロネのような重い武器を持つ生徒でも簡単に武器の持ち運びができる優れものだ。ちなみに僕も短剣を中に入れている。
「攻撃力はあっても、その重さは長期戦に向かない」
「それもそうですね……」
「結局何も見つからなかったかぁ」
「そう上手くはいかないってことだよ」
それぞれの声を聞きながら、僕は足を止めた。なんだろう……すごく嫌な予感がする。
「ちょっと待って」
みんなを呼び止める。みんなも既に気がついているようだった。目の前にゆっくり、ゆっくりとドス黒い何かが現れる。それは徐々に輪郭を濃くしていった。
「な、なんだよ、これ……」
ゴオオオォ……と音を立てて“何か”がこちらを向く。禍々しいオーラの中にいたのは牙を剥き出した竜のような怪物だった。
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