第17話 作戦名:カエル

 僕ら一人一人に役割があり、卒業に近づくためにもそれを次のバトル試験で発揮しなければならない。バトル試験自体が、魔物に打ち勝つための練習をさせられていることになる。


「ねぇねぇ、その武器探索器壊れてるんじゃないのー?」


 ポリトナがユグナを見上げながら疲れた声を出した。ユグナは手元の円形の探査機を怪訝そうに眺める。この魔法空間には武器や宝が多く眠っていて、それをあらゆる手段で探索して手に入れるのも自主練の内だった。


「壊れてはいないと思うが……」

「そうだな。壊れてはいなさそうだ。この空間に落ちている武器が少ないだけだろう。実際のギドルヴァーグでの探索もきっとこんなものだ。すぐに成果が出ないことには慣れるしかない」


 アウィーロが頷く。なんだか妙に説得力があり、残りの三人は諦めたように返事を返した。初めてのバトル形式の試合は後数週間に迫っている。今のところ目眩しのための魔道具ぐらいしか手持ちはない。そんなもので乗り切れるほど、バトル試験は甘くないということなのだろう。さあ、いくぞとユグナが声をかけて、僕らはもう一度歩き始めた。


 武器を探し歩き、成果が出ない日々は続いた。気がつけば試合当日。追加の武器も見つからず、誰も魔法発現しないまま、僕らは会場に足を踏み入れていた。結局セコい魔道具だけを持ち、試合に挑むことになる。


「試合のタイムスケジュールが発表されたようだ。確認してくる」

「おー」


 会場内の掲示板に向かうユグナを見送って、僕らはせっせと手を動かしていた。

 今回は初めてということもあり、試合は各チーム一回のみだ。バトル形式の試験は一年生の間は二回ほどしかなく、二年生になってからぐんと回数が増える。むしろ筆記よりバトル形式の方が多くなるらしい。


 たった一回の試合しかないのなら、当然勝たなければならない。対戦相手の発表は二日ほど前にされていて対策も可能だ。そこで僕たちは相手の弱点をつくことにした。相手の魔法使いはカエルが苦手らしいので、投げて攻撃する魔道具をカエル型のケースに入れて攻撃を行う。いくら魔法使いがいないからといって、こんなやりかたでいいのだろうかと内心やるせない気持ちだった。他の三人は意外とカエルケースに道具を詰める作業が楽しいらしく、このセコい手段については考えていないようだ。僕の考えすぎだろうか?


「スケジュールが確認できた。俺たちは午後から、南側のコロシアムで試合となっている」

「ありがとう。こっちももう準備できたし、あとはゆっくりしておこうか」

「そうだな」


 心の蟠りと一緒に、カエルのケースをポケットにしまう。なんだか胸がざわついて、落ち着かなかった。


「それでは、試合開始!!」


 試験までの時間は思ったよりも早く感じた。一年生の試合は見応えがないので、ギャラリーも少ない。ぱらぱらとまばらな拍手とたまに聞こえるそこまで大きくない歓声は、僕の心を恥ずかしくさせていた。


「サテ! ポリトナ!」


 ユグナが僕らを呼んだ。相手に先手を打たれる前に、僕とぽポリトナがカエルを投げる。こっちの期待通り、魔法使いは掲げた杖をすぐにおろして青ざめた。


「かっ……かえる……!」

「ミア!!」


 そしてばったりとその場に倒れ込んでしまう。ごめん本当に。君を抑えないとこっちに勝ち目がないんだ。


「うっ……か、カエルだけは……」

「アタシも苦手……」

「ええっ! ちょっと嘘でしょう!?」


 なんと相手チームはカエル無理勢が過半数を占めていたようで、ばったばったとメンバーが倒れて行った。二対五、一気にこちらが有利になる。見たところ、残っているのは短剣を持った女子生徒と弓を持った男子生徒だ。

 つまりはEクラスとBクラスの生徒が一人づつ。武器は学校支給のもので、こちらと差はない。勝てる状況にあることを確信した。

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