第3章 バトル試験と魔力発現への道
第16話 勝者の探索
「勝者、第三の選択肢!!!」
会場にコールが響いた。勝利したのは僕ら。でも僕たちは呆然と、起きた事実を魂が抜けたように見つめている。会場からブーイングが湧き上がる。
これが試合に勝って勝負に負けたということなのだろうか?
魔法使いがいないチームが勝利するには、本当にこうするしかなかったのだろうか?
ー数週間前ー
「なかなか……見つからないもんだねぇ」
「うう、ボクもう歩けないかも……」
木々の間にある道を歩いていく。大きな森の中で僕たちは長い時間探し物をしていた。体力の限界が来てしまった僕とポリトナは、耐えきれずに地面にへたり込む。本当に長い間歩き続けたんだ。地面を見ながら息を切らしていると、メロネが心配そうにこちらを覗き込んでくる。彼女は平気そうだった。男として情けない……。
「さっき休憩を取ったばかりだろう」
ユグナの厳しい言葉が鋭く刺さってくる。彼の言う通りではあるけれど、限界が来ているのも事実。休憩をとってから限界に達するまでの間隔が短くなってきている自覚はあった。
「そうは言っても、疲れたんだもん……」
「これもバトル試験のためだ。先を急ぐぞ」
ユグナは僕らの手を引いて立ち上がらせた。この細い体のどこにそんな体力があるのか。筆記試験の後に過労でぶっ倒れたときから回復して、もうすっかり良くなっているらしい。元気なのはいいことだが、探索のスイッチが入ってもう誰も止められないって感じだ。
「探すのにどれぐらいかかるんだ……広すぎるよ……」
ここは学園内にいくつかある、魔法空間と呼ばれる場所の一つだ。魔法使いの職員が作った広い場所であり、学園内の決められた入口から入ることができる。完全なる作り物の異世界ではあるが、未開拓エリアのギドルヴァーグに似せて作られている。スィッフの探索練習用で学生に開放されている場所で、もちろん本物のギドルヴァーグとは違って魔物はいない。
より本物に似せるために魔物が出現する魔法空間もあるが、バトル形式の試験を受けたことがない新入生や、魔法使いを有さないチームには入る許可が降りない。僕たちはそのどちらの条件もまだ満たしていなかった。
では僕たちが何しにここにいるかというと、バトル試験を有利に運ぶためのアイテムを探しているのだ。しかしそれは簡単には見つかってくれない。バトル試験ではチーム同士が戦うことになる。魔法使い相手に互角に戦うには、魔法アイテムやより強い武器を探す他なかった。
「あと何が足りないんだっけ?」
「探索を急ぐのは魔道具と剣だ。俺とサテとポリトナは接近戦になるからな。学園支給の武器では分が悪い」
ああ、そうかと今更頭が追いつくくらいには思考力も落ちていた。確かに学園から渡された短剣はおもちゃみたいで頼りない感じだったけれど、りんごの皮が剥けそうなくらいはするどかったし、攻撃はできると思う。
Aクラスのユグナなんて両手持ちの剣を支給されている。今のままでも勇者みたいでかっこいいんだから別にもっと強い武器を探さなくてもいいのではないか、とごちゃごちゃ考えた後に、僕はその考えを全て捨てた。
「魔法使い相手にするんだもんなぁ……。そりゃ相手よりも強い武器用意しなきゃダメか……」
僕はみんなの装備を確認した。ユグナは両手剣、アウィーロは弓。メロネは探索で見つけた大ぶりのハンマーで、僕とポリトナは短剣だ。クラスによって支給される武器が違い、バトル試験がチーム戦であるということをより実感させられる。きつい体で探索したくない自分を納得させるために、僕は授業の内容を思い出していた。
「いいですかぁ皆さん。あなた方がスィッフハンターとなったら、五人チームでスィッフの探索を行うことになります。五人のチームメンバーにはそれぞれ役割があり、Aが頭脳と主戦力、Bがコントロールと即戦力、Cが理解と適応力、Dが探知と異能力、Eが囮と直感力を担っています。その中で、Eクラスの皆さんはポジションEに位置付けられます。実は学園のクラスもその適性を加味されて割り振られているんですよぉ」
戦術学のイア先生が黒板に書いていた、優しい字が頭に思い浮かぶ。イマジナリーイア先生がぴっ、と人差し指を掲げていた。
「このポジションという構成ですが、スィッフを探すための役割分担というよりは、対魔物用の分担が主になっています。未知の探索エリアで魔物と遭遇しても、戦って勝利するための陣形です。よぉく覚えておくように。ここはテストに出しますよぉ」
僕はそれをノートに書き写しながら、固まった覚えがある。僕が第三の選択肢というチーム名を決めた日のユグナの言葉だ。
”大丈夫だ。これはチームメンバーの本来の役割に沿って決められた名前となる”
ポジションEは直感力を担う。つまりユグナは、Eクラスである僕かポリトナにチーム名を決めさせたかったんだ。
もうあの時から、彼はポジション構成を意識していたらしい。あの時は意味がわからなかったが、やっと納得した。いや、結構悩ませられたから根に持ってはいるけどね。
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