第14話 現実を見る
「はあああ〜、どうしましょう……」
そうしているとちょうどメロネの声が聞こえる。僕たちはすぐに振り返って彼女と目を合わせた。彼女はビクッと体を震わせて、こちらにぎこちなく微笑んだ。
「メロネ、もうしかして結果悪かったの?」
「あ……ええっと……」
彼女は言いづらそうに下を向いた。僕はそれを察して彼女に目線を合わせる。
「気にすることはないよ。って……ん?」
彼女は顔を真っ赤にして両手で顔を覆っていた。泣いているのだろうか。ユグナに事情を話す時にはフォローしようと心に決める。
「どうしましょうサテ、ポリトナ。私……」
「メロネ……?」
「一点、落としてしまいました……」
「え?」
「は?」
僕らは慌ててCクラスの掲示板に近寄る。一位はメロネ。満点から一点だけ引いた点数がそこには書かれていた。
「すごいじゃん!! メロネも一位だよ!!」
「で、でも……ユグナは満点を……」
「大丈夫大丈夫。結果は一位だから。満点取る気持ちで行けって話だから!!」
「そうそう! 落ち込まないで!」
二人で元気づけて彼女の手を引いた。せっかくだから一緒にチームメイトの成績を見て行こうと言えば彼女はこくりと頷いてくれる。
「Bクラスまで結構遠いね……」
「うん……あ」
そしてBクラスの掲示板の位置まで来た時に、それをぼうっと眺めるアウィーロが立っていた。いつも通り、話しかけんなオーラが出ている。一瞬声をかけていいか迷い足を止めたが、ここは同じ男として僕が勇気を出さなきゃいけない。
「やあ、アウィーロ? どうだったんだ試験は?」
そう問いかければ、数秒後に彼は僕の方を振り向いた。二人の間に時差でもあるのかと軽くツッコミを入れて隣に立つ。ぐおん、ぐおんと機械音が鳴った。
「まあ、当然の結果だな」
僕は掲示板に目を写した。一位の欄に複数名前があり、その中にアウィーロの名前も書かれている。点数は満点。上位のクラスに行けば行くほど本気を出す生徒は増えるものなのだろう。今年のBクラスは粒揃いということか。
「お、おめでとう、アウィーロすごいね」
「うんうん……。私は満点逃しちゃって……尊敬します」
僕の後ろからメロネとポリトナがぱちぱちと拍手しながら彼を囲む。彼は満更でもないように微笑んでありがとうとだけ言った。
「よし、次はお待ちかねのAクラスかぁ」
「なんだか私まですごくドキドキしてきました……。ユグナなら大丈夫だとは思うのですが」
Aクラスの掲示板の前には誰も寄り付いていない。その異様な空気を感じながら僕たちはその前に立った。
「「はあ〜……」」
「まあ、うん。知ってた」
「ほう」
感嘆の声が上がる。僕の予想通り、彼の名前は一番上にあった。しかも満点だ。彼は本当に人間を超えた別の生き物なのかもしれないと僕は遠い存在にすら思った。ポリトナなんて少し引いている。
「お疲れ様。揃っていたのか。呼ぶ手間が省けたな」
「ひぃっ……」
「何だその反応は」
聞き覚えのありすぎる声に全員で振り向くと、そこには噂の人間を超えた人が腕を組んで立っていた。僕らの反応に眉を顰めて納得がいかないと言わんばかりに首を傾げている。彼の機嫌なんて気にせずに、僕は自然と一歩前に出て思った言葉を口にしていた。
「おめでとうユグナ。本当に君はすごいよ。君がいれば何だってできる気がする」
みんな僕の言葉に賛同している。ユグナはまたぎこちなく笑い、次の瞬間には真面目な表情に戻っていた。
「気分を下げて悪いが、一応見ておくべきだろう。ついてきてくれ」
そう言ってスタスタと歩いていく。急に置いてきぼりにされた僕たちはぽかんとしてから慌てて彼を追った。彼は電子掲示板のさらに先に進んでいく。道中には何も文字がない掲示板だけが並んでいた。そして僕らが向かう先には大勢の生徒が集まっている。隙間から書いてある内容を覗いて、僕はそれを口に出して読んだ。
「魔法実技試験 結果……」
背が低いポリトナは僕の言葉を聞いてやっと情報を手に入れられたようで、結果はどうなのかと僕の制服の裾をくいっと引っ張る。一位から名前を見ていく途中で気がついてしまった。きっと最下位から見たほうが早い。僕は数歩横にずれて、最下位から順位を追った。目当ての名前はすぐに見つかる。
”最下位 第三の選択肢”
でしょうね、とだけ声が漏れた。それを聞いて、ポリトナは少し寂しそうな顔をした。みんなわかっている。だって僕たちにはこの試験で点を取ることができない。そのために、他の試験に全力を注いだのだから。
「一応試験には顔を出したが、何もできなかった」
ユグナは首を振って、僕たちを見る。彼は静かに話をしようと告げて、全員で第三理科室へ向かった。
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