第13話 結果発表

 試験当日。とうとう僕たちにとって運命の日がやってきた。ユグナが言った通り、この最初の試験に必死になっている生徒はそう多くなかった。みんなだるそうに目を半分だけ開いて最後の復讐をしている。次のコマはポリトナが受ける試験なので、僕は隣の棟の第三理科室で待機だ。


「…………」


 参考書を眺めては一つ隣の建物を眺める。ちょうどAクラスとDクラスが試験を開始する頃だ。そう言えばユグナはどうやってDクラスの試験を受けるつもりなんだろう? 隣のクラスとはいえ、場所が違う。僕は廊下に出て、Aクラスの様子を伺った。


「あ」


 すると、Dクラスのテスト用紙を配り終えた先生がAクラスにも用紙を配りに来た。それをユグナが受け取っている。うそだろ? もうしかして一コマで二クラス分受けるつもり?


 Aクラスの他の面々は怪訝そうにユグナを見ている。いやわかるよ。僕だって今まさにその顔してるもん。窓に反射して見えている。ユグナはあれだ、頭が良すぎて頭がおかしい人なんだきっと。そう言い聞かせて僕は参考書を握りしめた。


「だって、大事な人に会いたいんだもんな」


 そうだ。彼は明確な意思のもとで必死になって卒業を目指している。僕が足を引っ張るわけにはいかない。僕の試験まで、もう一時間を切っている。


「お疲れ様。どうだった?」

「どうだろう……。手応えあるような、ないような」


 少し雲がかかった表情で教室を出てくるポリトナと景気付けにバトンタッチして僕は教室に入る。大丈夫だ、と心でもう一度唱えた。僕は卒業のために、ここで結果を出さなくてはならないと言い聞かせて。





「ほらほら! 早く行こうよ!」

「ま、待って待って!」


 あの試験の日から四日が経過した。僕は今絶賛ポリトナに腕を引っ張られて掲示板へ連れて行かれている。今日は試験の結果発表の日だった。個人個人にプリントで結果が返されるのかと思いきや、まさかの張り出しらしい。ポリトナは早足でどんどん進んでいく。僕はついていくのがやっとだった。彼女は早く結果を見たいけれど、一人は怖いらしい。


「また、長い掲示板だこと……」


 入学式のクラス発表と同じ長さの電子掲示板が中庭に設置されている。透明で奥の景色が見える板に文字が浮かび上がっていた。それが試験の結果になる。


「Eクラスは……うわ。もうここか」


 僕たちが立っている位置のすぐそこに”Eクラス 試験結果”の文字がある。ドクドクと心臓がいつの間にか大きな音を立てていた。音が鳴るたびに頭や顔にも振動が伝わる。


「い、行くよ……?」

「お、おっす……」


 僕たち二人は腕をがっしりと組んでジリジリと掲示板ににじり寄った。一番から順番に名前を見て行こうとした瞬間ーー。

「あ……あ……」

 僕の口から情けない声が漏れる。ポリトナは声すら出していない。僕らは掲示板の前で固まっていた。視線は二人とも、一位の隣に書かれた文字で止まっている。


 ”一位 第三の選択肢”


 その横に書かれた合計点数は満点だ。決して簡単な試験じゃなかった。少しのミスはしているだろうって思っていたのに。


「ぽ、ぽりとな……ど、どどどどっ、どうしよう………」

「いちい……とっちゃったの、ボクたち……? しかも満点、とちゃったの……?」


 うるうるとした視線が交わる。二人とも同時に両手を上げた。

「ポリトナぁぁぁぁぁあああああ!!!!」

「サテぇぇぇぇぇえええええ!!!!」

 二人で向かい合って手を握り、僕たちはぴょんぴょんと飛び跳ねた。周りからの視線なんて気にしている場合じゃない。だってこんなすごいこと、体験したことないんだから。


「他のクラスも見に行こう!」

「うん!」


 不恰好なスキップもどきで僕たちは掲示板を辿る旅に出る。お次はDクラス。掲示板を見た途端、スキップもどきは止まった。僕たちはポカンと口を開ける。


「ユグナ一位……? すご……」


 流石に上位キープかと思いきや、ユグナはしっかりと一位をとっている。しかも満点。ありえない。彼はDクラスの授業を録音していただけだ。それを聞きながら夜に勉強をしていた。

 それプラス、Aクラスの授業にも出て学習している。それに奴はおそらく一コマ分の時間で二つのクラスの分のテストを受けている。その結果。Dクラスの人間を差し置いて一位。


「本当、優秀さんだよね……」


 ほうっとポリトナが息を吐く。僕らは一度気持ちを落ち着けて次のクラスを見に行くことにした。続いてはCクラス。メロネの結果だ。

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