第12話 分析
「君が僕たちを巻き込んでるって?」
「父は俺を不利なチームにぶつけて学園を辞めるように仕向けたいんだろう。すまないな、俺と同じチームになったばかりに。Dクラスの生徒がおらず、増員がAクラスとBクラスではない組み合わせは相当だ。毎年学園側によってそうならないように慎重に調整されるはずなのだからな」
なるほど、そういうことかと思う。彼は家族の反対を押し切って自分の目的を果たそうとしているんだ。不利な状況になっても、諦めるつもりはないと。僕だったらどうするだろう?
……と思ったけど、考えるまでもない。僕の家庭ならまず家族から反対をされることがないんだ。そもそも僕が家族の喜びそうな選択をするからだけど。
「ユグナが気にすることじゃないよ。魔法使いがいないチームに当たったのは僕の運なんだから。それに、君と一緒のチームになれたのは僕にとってすごく運があったと思ってる」
「ありがとう。一人でもそう言ってくれる誰かがいるだけで心強い」
彼は安心したような顔をしながらもまた申し訳なさそうに首を垂れた。心が揺れるようなふわっとした感覚が僕を襲う。彼がしている表情を僕もしてみる。
ゆっくり、ゆっくりと彼の気持ちを自分のものだと思い込むようにした。自分にはどうしても追いかけたい人がいる。その人はずっと僕のそばにいてくれて、僕を育ててくれた人。でも追いかけることを家族に反対されて味方はいない。さらに名家の圧力で自分の目標を、学園ぐるみで潰されかけている。
ああ、悲しい。見返したい。……いや? そうじゃないか。不利な状況なんて関係ない。僕はただ、大切な育ての親にもう一度会いたいだけだ。そのためなら、何だってできる。
「よし」
「? どうした?」
僕の納得したような言葉を聞いて、ユグナは首を傾げた。僕は自分のできる全てを試験に注ぎ込もうと決める。
「ううん。意気込んだだけ。無事に試験は頑張れそうってこと!」
それを聞いて彼は嬉しそうに笑った。こんなに柔らかい表情をするのかと新たな一面を見れた喜びが生まれる。彼に好意を寄せる女の子たちが見たら、二、三人倒れるんじゃなかろうか。
「ならよかった」
過去を話してよかったと彼は安心したように息を吐く。もう大丈夫。今の僕は意欲に満ち溢れている。僕たちは荷物を持って、理科室から帰ることにした。その間に彼の顔にできているくまを指摘すれば、気恥ずかしそうに今日からは睡眠をとるようにする、とだけ言われる。
親しい人間から心配され慣れていないのか、何だか歯切れが悪くてまた新しいユグナを見られて気がした。だからその顔を心配してくれた女の子たちにも見せてやれって。ちょっとはファンサしたほうがいいと思う。
そう思いながらカバンを整理する間に、満点の小テストが目に入った。僕はそれを見なかったことにする。今はこれで満足してはいけないと、ユグナを知った僕の心がそう言っている気がした。
荷物を整理し終わった頃。そうだった、と僕はユグナに聞きたいことを口にする。
「ユグナ。デューイって生徒がクラスにいない? 僕の知り合いで、クラスはAだって言ってたんだけど」
入学式の日の夜。僕の心はそれはそれはざわついたものである。入学前に知り合った顔も知らない友達は、僕によく似ていて、”同類”であると思っていたのに、それを裏切られた気分になったからだ。彼は自惚れではなく世間から見ても優秀だったのだ。だって割り振られたクラスがAなのだから。
悶々とする僕の様子に一歩引きながら、ユグナは考えるように地面を眺める。もうしかしてユグナもクラスメイトの顔と名前がまだ一致しないのだろうか。意外と人を覚えるのが苦手なのかもしれない。初の弱点発見か? と思っていると、彼はパッと顔をあげる。
「デューイという生徒はいない」
「ええ? ユグナがクラスメイトを覚えていないわけじゃなくて?」
そういうと、ユグナは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。そして「それは初日に全員覚えるだろう?」と当然のようなトーンで、僕の聞きたくない言葉を口にした。
「となると……?」
では、デューイは一体どこにいるのだろう? 同じ学校に通っていて、なぜ会おうとしてくれないのか。チームメンバーの誰かとはクラスがかぶるのだからクラスがどこだったかの嘘は吐きようがないのに。次の集まりでアウィーロとメロネにも尋ねてみることにした。
彼からは入学式のあの会話以降、連絡がない。
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