第6話 置いてきぼり
「ええ!? ぼ、僕が!?」
「ああ。何か問題でも?」
彼は当然のように僕に問いかける。いやいやいや、なんで僕? もっといい人いるでしょう!
「ユ、ユグナくんが決めた方が絶対良いものになると思うんだ……けど……」
それに僕が考えるにしろ、いきなりすぎる。普通は今晩各々で考えて明日持ち寄ろうとかじゃないのか……?
「大丈夫だサテ。君なら思いつくだろう。あと呼び捨てで構わない。おそらく同い年だ」
「わ、わかった、けど……。そ、そうだ、例えば他のチームはどんな名前にしているんだろう?」
時間を稼ぎながらも知りたいことを彼に問えば、彼はすぐに答えをくれた。
「そうだな。一昨年のチーム名は見たことがあるが、誰かの好物や好きな四字熟語など、皆好きに付けていてあまり法則はないように思う。チームメンバーの名前を文字ったものもあったな。なので特にルールはない。君の頭に思い浮かんだもので良いんだ。直感で決めて欲しい」
ええ〜!? と僕の頭の中はもっと混乱した。一昨年の人たちも適当につけすぎだし、しかもここには他に四人もいるのになぜ僕なんだと恨むように彼を見る。さっきの彼の様子を思い浮かべると、僕とポリトナちゃんを交互に見ていたので、初めからEクラスの二人のどちらかに決めさせるような素振りではあったけれど……。そう考えながらも僕は理科室の中を見渡していた。何かいいものがあるかもしれない。そして黒板の隣にものたがたくさん置かれている台があるのが目に入って僕は目を凝らした。積み上げられた本の中で一際目を引く背表紙の本がある。
「だ、だい……」
「……だい?」
「第三の選択肢……」
あろうことか僕は、理科室の黒板の隣にある一冊の本の名前を口走ってしまった。ち、違う。考える時に言葉を発するのは僕の癖だ。しかし状況が悪い。これでは話が進んでしまう。ユグナはそれを聞いて考えるように顎に手を当て、案の定僕が弁解するより先に、じゃあそれで決まりだと話し合いを終わらせてしまった。
「ああ、ちょっと待って!」
「なんだ?」
「ほ、本当にそんなんで良いの? みっ、みんなで決めなくて」
「大丈夫だ。これはチームメンバーの本来の役割に沿って決められた名前となる。だからこれで良い」
「はあぁ!?」
意味のわからないこと言い、ユグナは鞄を持って理科室を去ろうとする。チーム名とメンバーの届出はしておくので今日のところは解散だと告げた。明日以降の集合場所はチャットルームで伝えると言い残して。
「私はいいお名前だと思いましたよ。よろしくお願いしますね、サテくん」
「また明日」
「バイバーイ♪」
他の人たちも次々とその場を後にしていく。日の射す第三理科室で一人、僕はぽつんと何もかもから置いてきぼりにされてしまっていた。静かになったその部屋で、僕のお腹の音だけが聞こえる。体内時計に時刻を教えられたところで、僕はゆっくりと寮に向かうことにした。今は食べて元気を出そう。今日まではお母さんのお弁当がある。
♪♪♪
「?」
しかしそれを僕のスマホの振動が遮った。一体誰だろうとチャットアプリを開くと、そこには見知った名前があった。
”デューイ”
そういえば、と僕は彼とのチャット画面を開く。彼は入学前にネットで知り合った、顔も知らない友人だった。同じ学校に受かったという共通点から度々話をするようになったので、友人歴はだいぶ浅い。
なんとなく波長が合い、僕によく似た人物だと感じていたから、最初から話しやすかった。多分彼も僕と同じ境遇で、家族の愛の中で育ってきた感じがする。
だからきっと、世間とのギャップに驚いたり、時には苦しんだりして本当に僕と同じような人生を歩んできたみたいだった。もしかしたらさっき同じクラスにいたかもしれなかったのに、入学の緊張で頭から抜けてしまっていた。
『お疲れ様。今日から同じ学校だね』
「うん、お疲れ様。入学式どうだった?」
『楽しかったよ。そっちは?』
「いろいろあって疲れたの方が大きいかも。デューイに早く会いたいよ。クラスはどこだった? 今度行くよ!」
クラスを聞くと彼からの返信が止まった。会話が途切れるまで一気に話すのがいつもの流れだったので少し戸惑うけど、誰かに話しかけられたのかもしれないしと僕はアプリを閉じて寮への道を急いだ。これから荷解きや部屋の整理を行わなければならない。やることは山積みだ。しばらくしてポケットの中でスマホが振動する。その返信に僕はまだ気が付かない。
『クラスはA』
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