第5話 心あらずの決断

「……?」

 言われた通りに、残りの四人は待っていた。すると、ぐおん、ぐおんと機械が動くような低音が聞こえ始める。なんだと思い視線を送れば、申し訳なさそうに眉尻が下げられた。


「すまない、訳あって声を出すことができない。代わりにこの音声合成ソフトで会話をさせてもらう」


 高い女性の声と低い男性の声が同時に話しているような、ノイズ混じりの機械の声が理科室に響く。僕を含めた四人は絶句していた。初めて接するものだったからだ。


「すまない。このソフトもかなり調子が悪く、声質も安定しない。言いたいことは伝わるはずだから許してくれ」

「まあいい。続けてくれ」


 すっかり冷静に戻ったAクラスのユグナくんが先を促す。機械音で話す彼は少し嬉しそうにしている。頭を下げた時にジャラジャラとしたピアスやイヤーカフが見えた。地元のヤンキーお兄さんって感じだ。こういう人は雑誌や動画の向こうにいればかっこいいと思うけれど、接するのはなかなか怖いなというのが正直な感想だった。


「私はアウィーロだ。Bクラスに所属している。よろしく」


 淡白な挨拶を終えて黙ってしまった。意外にも丁寧な一人称なのだと少し好感を持ったところで、次の挨拶の候補に自分も入っていることに気がつく。残ったEクラスの僕と少女が目を見合わせ、数秒もたたないうちに彼女が僕にそっと微笑んで手を上げた。


「はい。Eクラスから来ましたポリトナです。できればボクも今期で卒業したいな。みんなよりは子供だけど、力になれるようにがんばります。よろしくね!」


 そう言って微笑む姿は天使のようだった。僕以外の挨拶はこれで終わり。最後に、僕に視線が集まる。


「僕はサテ メイカイです。同じくEクラスです。ええっと……僕は特に卒業を急いではいない……けどーー」


 そこでユグナくんと目が合う。すごい目力に押されそうになった。僕は視線をすっと外してみんなの中心にある机を眺めた。天草先生の言葉が蘇る。


 ”基本的には入学後に組まれたチームで卒業を目指せるように努力するのが望ましいが、時には自分が卒業を目指せるチームかを見極め、決断することも必要になってくる。そこは自らで考えて欲しい”


 不利なチームでわざわざ卒業を目指さなくても、一年待てば来年には魔法使いと組める。わかってはいるけど、留年という選択に抵抗があった。留年したら、僕に期待してくれている家族はどう思うだろう。ここにいる人たちは薄情だと思うだろうか。かといってBクラスの彼のように逃げる勇気もない。きっとここで留年しないと言い切らないと。自分自身も、チームも台無しにしてしまう気がした。気持ちがゆらゆらと揺れたまま、口を動かしていく。


「りゅ、留年も考えていない。このチームで卒業できるようにできる限り協力できるように頑張る。足りない部分があったらなんでも言って欲しい。……よろしくお願いします」


 そう言えば、他のメンバーがほっとしたような顔をした。その表情を見て、頑張ると言って良かったと思った。この選択が間違っている可能性もかなりあるけれど、断るほうが心臓に悪い気がしたから。


「よし。これで全員だな。これ以上抜ける者がいないのは助かった。恩に着る」


 なぜか感謝されると共に、自然と舵取りはユグナくんになった。先に連絡先の交換と、全員の住まいを確認しあった。ここにいる五人は全員寮生活を選んでいたので、在学中に学園から出ることはほとんどないという情報共有まで終わらせる。正直僕以外は家から通うかと思っていたので驚く。特に教育が行き届いていそうなユグナくんは寮生活なんて無縁そうなのに。


 ぼーっと彼を見ていると、ユグナくんは一番大切なことを決めよう、と言った。僕以外の人たちもなんだろうと彼を見つめる。逆に彼は僕とポリトナちゃんを交互に見て、その後僕をじっと見つめた。


「な、なに……?」


 彼はしばらく僕を見つめてから、よし、と声を漏らした。説明してくれ、何がよしなんだと彼を見つめ返すと、力強く頷かれてしまった。


「ではサテ。君が俺たちのチーム名を決めてくれ」

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