第4話 波乱のチーム割り

「オレとアンタだったら確実にオレの方が目を引くし、男らしくてカッコいいだろ?」


 初対面の僕にドヤ顔をかましている。な、何言ってんだこの男……と彼を見ていると、ムキムキの手が差し出された。


「オレはキイル。アンタはサテっつったよな? 前後同士よろしくな」

「よ、よろしく……」


 手を握ると彼は豪快に笑った。僕も合わせて笑ってみるといつの間にか相手は真顔になっている。情緒のわからないやつだと思っていると、彼は声のボリュームを下げた。そのガタイと同じで結局声はでかいが。


「なぁ、知ってるか。あの天草って教師、滅多にクラスを持たないらしいぞ」

「えっ、そうなの?」

 じゃあどうして、と聞き返すと彼は解せないような顔をした。

「今年は”特別”だから、らしい。クラス担任になる理由があるんだと」


 彼と天草先生とは間接的な接点があるらしく、彼には学園の情報が手に入りやすいのだとか。これからも彼から色々な話を聞くことになるかもしれない。……それにしても、天草先生の特別ってなんなんだろうか。


「”特別”ねぇ……」


 そうしているうちに彼にお迎えが来たようで、じゃあな、とキイルは教室を出て行ってしまった。クラスでの友人第一号は彼になりそうだ。まあ、話せる人ができたのはいいこと……ということにしておこう。僕もそろそろチームメンバーの集合場所に向かわなければならない。


 今度こそ鞄を持ち上げて、マップを見ながら僕はゆっくりと教室を出る。確か先生は隣の棟の第三理科室へと言った。棟の中のマップ上でも隣の建物にそのような部屋がありそうで、僕は階数を確認してから階段を登った。他の部屋にもチームの人たちが集まり始めているようで、少しうるさく感じる。廊下を歩きながら部屋の札を確認していく。第一理科室、第二理科室……あった。一番奥が目当ての第三理科室だ。


 一応コンコンっとノックをしてから扉を開ける。すると五人ほどの生徒が僕をバッと見た。その視線の鋭さに少し驚いて僕は一歩だけ下がって恐る恐るみんなに視線を返す。中には先ほど斜め前に座っていた少女もいた。


「アンタ、Dクラス……じゃないんだよな?」


 そのうちの男子生徒が僕に言った。僕はコクリと頷いてEクラスの……と言いかけたところで先ほどの男子生徒が舌打ちをする。ええ? っと僕は戸惑いながらも表情は崩さなかった。みんな暗い顔をしている。この第三理科室にいるのは全部で六人。そこまで考えた僕の頭には先ほどの天草先生の言葉が繰り返された。


 ”魔法使いの数は他のクラスの生徒に比べて少なくなっている”

 ”すべてのチームに魔法使いは割り当てられない。その場合、Dクラスの生徒がいないチームが不利になるので、他クラスの生徒を増員してカバーするようにしている”


 ここにいるのは六人。本来の五人から一人多い六人だ。増員されている。増員されるということは、不利になっているチームであるということ。


 つまり僕は、魔法使いがいないチームに割り当てられてしまったのだ。しかもーー。


「拠りに拠って増員がBとEかよ……無理ゲー。オレ抜けるわ」


 すっと手を挙げたのはやはり先ほどの男子生徒だった。言い終わるないなや鞄を持ち上げて理科室から出て行ってしまう。


「あ、ちょっとーー」


 Eクラスにいた少女が呼び止めるのも聞かずに彼は去った。教室には五人の生徒が残されている。ああ、まずい展開になってしまったのだと、たった今ここに来た僕でもわかった。しかしその空気は一人の男子生徒がパンっと手を叩いたことで流れを変えられた。みんなの視線が彼に集まる。


「彼のことは気にせず、とりあえず自己紹介から始めよう。俺はユグナ リコエシャール。Aクラスだ。なんとしても、ストレートでの卒業を目指したいと思っている。魔法使いが不在で増員が一人抜けた状況であっても、その意思は変わらない。以上だ」


 有無を言わさぬような威圧的な声。ユグナと名乗った生徒は僕と同じ男子用の制服を身につけている。色素の薄い金髪から覗く、透き通った薄い緑の目がキッと僕らを貫いた。その目つきから数々の修羅場をくぐり抜けてきたであろう彼の強さが伝わり、僕はきゅっと喉を締める。やはりAクラスともなれば、これほどの勢いがないと生きられないのかもしれないなと自分の甘さを悔いた。


 そうしているうちに様子を伺うように女子生徒が手を挙げる。


「は、初めまして。Cクラスから来ました、メロネです……。よっ、よろしくお願いします!」


 控えめな女子生徒のようで、かなり緊張している様子だ。僕も人見知りだから気持ちはよくわかる。彼女がお辞儀をすると、腰ほどまで伸ばされたウェーブのかかった髪が大きく揺れた。なんだか昔絵本で読んだお姫様のような雰囲気がある。


 彼女を見ているとまた、その隣からすっと手が上がる。隣に立っているのは黒いパーカーを着た生徒だ。なかなか声を出さないので気になって見てみると、その人の目の前に青いスクリーンと文字が浮かび上がる。


 ”少し待ってくれ”

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