第3話 チーム制度

 僕は手元にあるプリントを見ながら、先生の声を聞いていた。


「君たちがこの学園で試験を受けたり、行事で学んだりして卒業を目指すにあたり、本日発表されるクラス混合のチームメンバーと共にその全てを乗り越えてもらう。それがチーム制度だ。この制度はスィッフユニオンで採用されているもので、卒業後もこのようなチーム制で動くことから、学園の教育過程で学ぶようにカリキュラムされている」


 資料に目を写しながら先生の話を聞いていく。この話は聞いたことがなく、少し戸惑っていた。てっきりこのEクラスのみんなと過ごしていくものだと思っていたから。


「AクラスからEクラスまでの各クラスからチームメンバーが出されて、五人で役割を担いながらチームとして動く。既にこの中にもいるとは思うが、チームから抜けて次のクール、つまりは来年の新入生を待ち、チームとなるのも手だ」


 来年の新入生を待つということはすなわち留年ということになる。僕は思わずクラスメイトをチラ見した。確かに明らかに年上で風格がある人が何人かいるような気がする。そうか、”二年目”の人もいるのか。


「基本的には入学後に組まれたチームで卒業を目指せるように努力するのが望ましいが、時には自分が卒業を目指せるチームかを、決断することも必要になってくる。そこは自らで考えて欲しい」


 見極め、決断? どうして? と僕の頭に疑問符が飛んだ。チームとして頑張っていくと決まったのなら、留年せずともたった二年間くらいなんとかすればいいのに。よほど合わない人間と組まされた時の話なのだろうか?


「はい、先生」

「ドリー、どうした?」

 すっと手が上がる。

「見極めが必要になるというのがピンと来なかったのですが、具体的にはどのような場合ですか?」

 ナイス。疑問に思ったことを質問してくれた人がいた。僕はその質問の答えを少し緊張しながら待つ。


「そうだな……例えば、Dクラスには魔法使いだけが集められているのを知っているだろうか?」

 その問いにドリーさんと僕を含めたクラスメイトの、四分の一程の生徒が首を振った。先生は続ける。


「魔法使いの数は他のクラスの生徒に比べて少なくなっている。つまり、すべてのチームに魔法使いは割り当てられない。その場合、Dクラスの生徒がいないチームが不利になるので、他クラスの生徒を増員してカバーするようにしている。だが、魔法が使えない人間が増えても、魔法使い一人にすら敵わないことが多い。だから魔法使いとチームが組めるように次のクールを待つ生徒がいる。もちろん学園側はそれを加味して、待ったものには魔法使いが所属するチームを割り当てる。これが一例だ」


「わかりました。ありがとうございます」


 ドリーさんは納得したように席についた。彼女のおかげで僕の疑問も解消されて小さく感謝する。僕はクラスの中で手を挙げて質問なんてとてもできないからだ。飲食店で店員さんに手を挙げて注文するのもちょっと苦手だったりする。自分で言うのも恥ずかしいが、所謂恥ずかしがり屋さんなのだ。


「あ」


 いつの間にかチーム制度なるものの説明は終わっていた。先生はチームメイトとの集合場所を伝えると言って僕らの席を周り始めている。


「五五番サテ メイカイ。君はチーム二三だ。隣の棟の第三理科室へ向かってくれ」


 先生が僕に”サテ メイカイ:二三、第三理科室”と書かれた紙を手渡した。すると斜め前の生徒が少し驚いた顔で僕を振り返ってくる。小さい子供だ。フリフリのレースのワンピースを着ていて、お人形さんって感じの。あのような服を総称する呼び名があったはずだけれど……思い出せないまま、先生が再び教壇から僕らに呼びかける。


「それでは本日Eクラスでの説明はこれで以上となる。各々チームのところに向かうように。明日から、共に頑張っていこう」


 そう締めくくって彼が教室から出て行った後、すぐに生徒たちも荷物をまとめて教室を出て行った。中には話をしながら移動する人もいて、教室が一気に騒がしくなる。僕も移動しなければと鞄を机に置いた瞬間、先ほどの少女が一度僕を見てからさっと走って行ってしまった。……いったいなんなのだろう? 僕はあんな美少女知らないぞ。


「あの子、知り合いか?」

「い、いや……見覚えはないね」


 後ろの席の大男から声をかけられて僕は驚きながらも問いに答えた。後ろの席の生徒のようだ。確か名前は……ああ、しまった。彼の自己紹介は物思いに耽っていて聞いていなかった。


「じゃあ、あの子はオレに見惚れてたのか」


「は……?」


 当然だな、と信じて疑わないその目に、僕は口を開いたまま返す言葉を急いで探していた。

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