第1章 第三の選択肢

第1話 ショッキング入学式

 ちょっと聞いてほしい。僕はもっと自分ができる子だと思っていたんだ。


 ここはレイトノーウェス第二学園。僕の目の前には横に長く伸びている透明の電子掲示板がある。そしてその掲示板のEクラスという文字が浮かび上がる下に、はっきり”サテ メイカイ”と僕の名前が書かれていた。今日はこの学園の入学式で、僕は新入生だ。

 この学園の新入生はAからEの五つあるクラスに、学力と能力の優れたものがAクラスから順に振り分けられていく。もうお分かりかと思うが、そのうちの最低であるEクラスに僕は割り当てられていた。


 正直入学試験は好感触で、当然Aクラス、悪くてもBクラスだと思っていたので、僕は今かなりショックを受けている。周りからは僕のように予想外でEクラスとなったことを嘆く者もいれば、友人とクラスが分かれてしまったことを悲しむ者、思ったよりいいクラスに行けたと言いながら通行する者もいる。中にはEクラスなど終わっている、Eクラスなら学園を去る、という言葉も聞こえて結構凹んだ。相手のことを睨むこともできない。だってこれが僕の順位なわけだから。ああ、嘆かわしや。


「新入生の皆さん。案内板を確認して、クラス移動をお願いしまーす」


 ショックのあまりその場から動けずにいると、学園の職員らしき人から声がかかった。掲示板の前にいた生徒達は資料でマップを確認し、移動を始めている。誰かと一緒に入学した人もいるみたいだが、ほとんどの生徒が個別で行動していた。僕も例外ではない。この学園に友人と連れ添って気軽に入学できるわけがなかった。


 だってここはこの国に二つしかない、特別な人材を育てるための学園なのだから。


 まだショックから立ち直れてはいないけれど、Eクラスの教室へ向かうべく他の生徒に続いて日陰の渡り廊下を進んでいく。この学園は広すぎる。どんだけ建物があるのかと若干引きながらマップを目で辿った。


「これ……どうやって行けばいいんだ?」


 だだっ広い敷地の奥の奥、ようやく十一号館と書かれた建物を見つけた。案内板によればそこにEクラスの教室があるらしい。他のクラスは別の号館のようで歩くうちにぱらぱらと列から生徒が離脱していった。いいなあ、他のクラスということはEクラスよりは上。うらやましい限りだ。まあなってしまったものは仕方がないので割り切ることにする。


 やがて十一号館と書かれた建物に人が吸い込まれていくのを見つけた。ここか、と僕は一息ついてから校舎の階段を二階分あがり、三階にたどり着く。階段を上がるとすぐに広い教室が現れた。乳酸が溜まった足には嬉しい近さ。中は大学の講義室のような内装で、奥側半分は後ろに行くほど座席の位置が高くなっている。奥行きもあり、五十人は軽く座れる広さだ。

 確か電子掲示板に書かれていた名前もかなりの数あったと記憶しているので、結構な人数がここで学ぶことになるのだろう。僕は自分の番号と席を照らし合わせ席に着いた。五五番。なかなかキリの良い数字だなんて考えてウロウロしていると、周りの席は埋まっていく。結局六十人程の人数が教室に集まって席に座った。


 年齢はほとんどが僕と同じ十五歳ほどの男女で、十歳ほどの子供や逆に歳を重ねたような大人びた人もちらほら見受けられる。この学校に年齢の制限はないが、一般的には義務教育の後に進学を考える人たちが多いと聞かされた。皆、鞄を床や机の上に置いて荷物の整理を始めたので、僕も同じように鞄から筆記用具を取り出す。


「……?」


 コツコツ、と革靴が床を叩く音がして手を止める。顔を上げれば教壇に一人の男性が立っていた。白髪交じりのグレー頭髪は整えられ、細身のスーツに身を包んでいる。なんだかできる大人という感じで、その立ち居振る舞いからすぐにこのクラスの担任なのだと分かった。彼はゆっくりと僕たち生徒を見回してから、すっと息を吸う。


「八二〇期生諸君。まずは入学おめでとう。Eクラスを担任する天草だ。専門は歴史だが他の学問の質問もできる範囲で受け付ける。在学中の間、諸君らを導けるようにしっかり指導する所存だ。どうぞよろしく」


 拍手が上がり、僕もはっとして手を叩いた。拍手ってついつい頭から抜け落ちていて、誰かに合わせてやってしまう。


 担任だという天草先生はカチッとした挨拶を済ませてもう一度僕らを見渡し、一人一人の顔を見ている。目が合った時、ドクッと心臓が鳴った気がした。彼がそれほどの目力でこちらを向いていたから。先生は深刻そうに全体を見てゆっくりと口を開いた。

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