二千二十四年 六月 二十三日


 寝室には窓がなくて、締め切ると空気がこもって暑いから、続き間のダイニングか作業部屋のどちらかの引き戸を開けておく。


 いつもどおりに、作業部屋と寝室の引き戸をすこし開けて赤ちゃんを寝つかせる。


 作業部屋の窓はすぐそこに街頭があって、その白い光を、レースカーテン越しにぼんやりとさせて、作業部屋に取りこんでいる。寝室には、引き戸を開けた隙間に沿って、白い光が差し込む。


 ダイニングは明るいのでそちらは閉めておく。ここでの「ダイニング」は、リビングのうちキッチン側の端にテーブルを置いた場所だ。リビングと寝室をつなげるのは昼間だけだった。


 赤ちゃんを寝かしつけるのは長くかかる。目をそらしてこちらも寝ているようなふりをする。赤ちゃんの側から首を反対に回すと、視線は壁に向く。ベビーベッドが明るくないようにしてあるから、作業部屋からの光は壁に当たる。すると、その光が窓のようだった。


 そこだけが明るい。かたちは縦長で、大きさはじっさい窓くらい。ベッドのフレームで窓の枠に似た影が落ちる。賃貸でよくみるざらついた壁紙の陰影は、レースカーテンによく似た質感をしている。そのことに、はじめて気がついた。

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