永遠の

田村転々

短歌二十首連作 永遠の

君がゐた部屋の匂ひは若草を摘んだ天使の羽ばたきに似て


風船を大切さうに抱へゆくかなり控えめであるスキップ


電車から見える田んぼの夕暮れはデジャブ、若しくは火星のひとつ


とぼとぼとおたまじゃくしを突つついて ほんとに悪戯が好きなんだな


鍵を差す音が意外と低いこと 瓶のコーラは異常な美味さ


映画館出てから感想を話す良いマナーだね、あ、にはか雨


炒飯のお皿の縁の紅しようがの切り口 夏の日がとほくから


多分とか恐らくだとかかもねとか バナナの黒いとこやはらかい


とびつきり大きな林檎掴んだとき明日の君の寝顔を思ふ


月光がゲッコーといふ無機質な発音ならばヤモリを愛せ


虫網をたまたま二つ持つてゐて カメムシの奴家から出そうぜ


犬を飼ふことを一緒に決めたとき笑つた唇のうへの黒子の


泣いてから泣き止むまでが永遠のやうで私は木犀をかぐ


星空が幾つもあればそのうちの一つは僕ら専用にする


マンションの監視カメラにあんぱんと蜜柑の皮を投げつけやうよ


冬が来る 人差し指で折り曲げて伸びる伸びーるチーズのピッツァ


僕たちが僕たちである為に踏むロイター板のしなやかな発条


爆音のライブ映像流しつつ 切られる葱がドラムのやうで


手袋がないと云つたら君は直ぐ自分のはづして握つてくれた


初雪が踏切待ちの全員に等しく降ればケ・セラ・セラ








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永遠の 田村転々 @tenten_tamutamu

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