交差②

「アイン!?」

 呼ばれたシュッツェは、目を丸くした。


「嘘だろ」と、掠れた声が上がる。

 破顔した瞬間、固い抱擁ほうようを交わした。


「無事でよかった。……本当に、安心したよ」

 雑踏ざっとうで親を見つけた迷子のように、アインは笑う。


 諦めていた再会が叶ったのも、束の間。

 何も知らないアインが、疑問を口にする。


「レーヴェは?」


「……一緒に逃げたら目立つから、あとで合流するんだ」

 シュッツェは、固い笑顔を作った。


「そうか。じゃあ、すぐに会えるな」

 疑うことなく、アインは喜んだ。


 二人が談笑を始めたため、IMO隊員は互いをねぎらう。


「お疲れさん」

 いつものように、ローファイブを交わした。


「ウルフはどうした?」と、アウルは声を潜めた。


「トラブルがあった。あとで話す。……そっちも、一人足りないな」


「こっちは、正当な理由だ」


「そうか……。どうも、上手くいかない」

 腰に手を当て、ジャガーはため息を吐いた。


「再会を喜ぶのはここまで。アウルとアインは、軍服から着替えて」

 気を取り直すように、両手を叩く。


「もしや。大使と話していたのは、このためか?」

 アウルに問いつつ、アインはコートに袖を通した。


「そ、越境する時に伝えた方が、大使に気を遣わせなくて済む。あんたに言うと、取り乱しそうだから黙ってた」

 軍服を鞄に押し込み、アウルは笑った。


「少し、よろしいですか?」

 申し訳なさそうに、クレモンが片手を上げた。


「大使の提案で、外務大臣との面会を設けてあります」


「本当ですか? ありがとうございます」

 シュッツェは、驚きと喜びが混じった表情だ。


「ただ、人目を避けるために、支部に来て頂くことになります」

 ご了承くださいと、住所が書かれたメモを差し出した。


「構いません。何時に伺えばいいですか?」


「十三時でお願いします。では、この辺で失礼します」

 特別改札の通過後に、クレモンは腕時計を見た。


「お世話になりました」


 謙遜けんそんの言葉を返し、クレモンは雑踏の中へ消えて行った。


「お帰りなさい」

 ミリュー中央駅の一般車乗降場に、手を振る男がいた。


「初めまして、ジェネロ・シティです」

 下がった目尻は、見るからに人が良さそうだ。


「ジェネロもIMO隊員だ。彼は医者だから、不調があったら遠慮なく言ってくれ」

 ジャガーは助手席に、残りは後部座席へ。いうまでもなく、車は超満員だ。


「すぐ着くから、我慢してください」

 ジェネロは苦笑いを浮かべ、ウィンカーを出した。


「……二往復すると思っていたけど。何かあったのかい?」

 少し経って、ジャガーに耳打ちした。 

 人数が足りない理由を、それとなく聞いている。 


「色々とね。……何だか、怪しい雲行きだ」

 ヘッドレスに頭を預け、ジャガーは目を細めた。

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