第五節

探偵のような傭兵①

──薄明。

 トワイライトとも呼ぶ空は、美しさと寂しさを覚える。


 アウルは階段を上がり、煙草に火を点けた。

 屋上には、すでにシキがいた。会話を交わすことなく、手すりにもたれる。


 どこからか夕飯の匂い。犬が吠える声に、教会の鐘の音。


「なぁ、アウル」

 鐘の音が消えた頃、シキが口を開いた。


「こういう時、どうしたらいいんだろうな?」


「それ、俺に訊くか?」

 煙草を指で挟み、アウルは煙を吐き出す。


「俺にもわかんねぇよ。……今は、あいつにかける言葉なんてない。俺たちにできるのは、そばにいてやることだろ」

 くわえた煙草を上下に動かし、天を仰いだ。 


「だよな」

 手すりから体を離し、シキは歩き出す。


「……今日は不味いな」と、アウルはスラングを吐く。

 吸いかけの煙草を、灰皿に押し込んだ。


 二人が部屋に戻ると、夕飯の匂いが出迎える。

 アインは皿にスープを注ぎ、ウルフは読書に耽っている。


「エルラー旅行記?」

 アウルは片眉を上げ、本のタイトルを読み上げた。


獣人ガウダ人が書いた本。小さい頃、よく読んだ」

 本から顔を上げず、ウルフは答える。


「とういうことは、君は──」

 何かを察したのか、アインは瞠目した。


「あ、言ってなかったっけ? 俺、人狼じんろうなんだ」


 ガウダ人は、獣と人の姿を持つ。

 その多くが人の姿を選び、人間社会に溶け込んでいる。

 現在は、三つの種族に分けられる。

 

 翼を持ち、制空権を持つ鳥人ちょうじん

 ひれを持ち、制海権を握る魚人ぎょじん

 そして、強靭な四肢を持つ人狼。


 人狼は嗅覚と聴覚に優れ、悪路での走破性に秀でる。

 さらに時速三十キロで、六時間以上も走り続けられるという。


「だから君は、潜入が得意なのか」

 合点がいったように、アインは頷く。


「そう。あと、名前は『ヴォルク』。よろしくね」

 ウルフ改め、ヴォルクは本を閉じた。


 一同は、椅子に座った。夕飯は昼の残りのパンに、チーズとスープ。


「私は遠慮するよ。……食欲がないんだ」

 弱々しくアインは首を振った。

 シュッツェ同様、深い悲しみの中にあるのだろう。


「無理するなよ……。なんて無理か」

 パンをちぎる手を止め、シキは視線を落とした。


「君が前もって伝えてくれていたから、覚悟はできていた。……でも、まだ信じられない」

 アインは、シュッツェが閉じこもる寝室を見た。


 物音一つない寝室。

 悪い気を起こしていないかと、夕飯前に様子を窺った。

 泣き疲れたのだろう。シュッツェは、毛布に包まり眠っていた。


「俺も、信じてないよ」

 チーズを一口で食べ、シキは首を振る。


 意外な返答に、アインは目を丸くした。

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