3.国際傭兵組織
「では、承った依頼は解決ということで、よろしいですか?」
書類から顔を上げ、ディア・エヴィエニスは微笑んだ。
「ええ、これで一安心です。本当にありがとうございます」
向かいに座る政府高官は、勢いよく頭を下げた。
国際傭兵組織(International Mercenary Organisation)
略して『IMO』。ベイツリー共和国お抱えの、傭兵組織だ。
字面から、筋骨隆々の男たちの組織だと、誰もが思うだろう。
しかし、外交役として訪れたのは、金髪碧眼の美女。
「では、こちらをどうぞ」
高官は、アタッシュケースを持ち上げた。
もちろん、中身は報酬だが、申し訳程度の札束だ。
討伐対象は、シャムロック大陸で最大規模を誇る過激派組織。
その一派を抹殺した功績からすると、あまりにも安い金額だろう。
だが、発展途上国のカクトゥスに大金はない。
困り果てた大統領は、IMOに秘密裏に依頼した。
「今回の件は、敵対している組織の仕業に偽装してあります」
ですが。とディアは続けた。
「まだ油断はできません。ですので、今後も要請があれば、IMOは協力する方針です」
「ありがとうございます。こちらは、大統領からの親書になります。司令官殿にお渡しください」
高官はケント紙の封筒を、
「お預かりします。前にも申し上げましたが、契約書は厳重保管をお願いします」
今回の件は、大統領と副大統領。
そして一部の閣僚と、高官にしか知られていない。
議会を通せば、反対の声が上がるだろう。
「ですが、大統領の英断には感銘を受けましたと、上の者が申しておりました」
ディアのフォローに、高官は笑顔を浮かべた。
「では、失礼します」
※
総務局を出た頃には、日が傾き始めていた。
ディアの視線の先には、一台の車。
「おかえり」
運転席のアウルが、嬉しそうに手を振った。
車体にもたれていたウルフが、後部座席のドアを開ける。
「どうだった?」と、ジャガーが口を開いた。
「任務完了よ。とても喜んでいたわ。これ、今回の報酬」
「このご時世に、現金払い?」
運転席から上体を捻り、アウルは目を瞬かせる。
「そりゃあ、大統領の署名が入った小切手なんか、貰える訳がないだろ。帰り道に気をつけなきゃねぇ」
物騒な言葉と共に、ジャガーはケラケラと笑った。
「その金、どっからだろうな?」
「税金でしょ」
頭を揺らし、ジャガーは窓を見た。
通り過ぎる街に、強烈な西日が降り注いでいる。
「そうだ。大統領からの親書を預かったの。結局、会えずじまいだったわね」
ディアはバッグを漁り、封筒を取り出した。
「今は州知事戦前だから、大統領はそっちにご執心だろうね」
無言だったウルフが、不意に呟く。
「いただき!」と、ジャガーが封筒を掠め取った。
「あ、コラ!」
ディアは手を伸ばすも、失敗に終わる。
「なになに……。
我が国は五年以内に軍を解体し、非武装国として新たな道を歩むつもりです。
ですが、その道は非常に険しいことも事実です。
恥ずかしながら、我が国の軍や警察は、近年の過激派やマフィアと渡り合える武器も力もありません。
今後しばらく、ベイツリー共和国に介入いただきたく存じます」
読み終えたジャガーは、小さなため息を吐いた。
「へぇ、カクトゥスにも駐在軍を配備ね。オヤジの株がまた上がるな」
アウルの大きな目が、さらに見開かれる。
「シャムロック大陸も、ベイツリーに支配される日は近いな」
「そうだな」
頷いたジャガーの目には、憂いの光が帯びていた。
「まぁ、大きな仕事が終わったんだ。今日は打ち上げでも……。いや、オヤジが来るんだった」
「ったく、何の用で来るんだろうな?」
「面倒だね」
男たちの陰鬱な口調に、車内の空気が重たくなった。
車は市街地を抜け、荒野に続く国道を走る。
道路標識には『この先 国境検問所』の文字。
『IMOシャムロック大陸方面・エスペランサ支部』まで、もう少し。
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