第4話

 レオルは目の前が緑の光に包まれ、全身に浮遊感を感じたと思うと、周囲の景色が一変していた。

 その視界の正面には木々が生い茂っており、獣道と呼ぶには整備された一本の道が先へ続いている。背面には日の光を反射して青く輝く湖があり、ちょうど森と湖の狭間の切り開かれた場所に立っていた。


 ほのぼのとした風景にどこか気持ちが落ち着くレオルであったが、腰に下げていた結晶から、心音のような規則正しい振動が伝わってきたことで現状を思い出した。魔素を注ぎなおそうと手を伸ばすも、結晶が独りでに宙へと浮かびレオルの正面でその位置を固定した。

 

 この様子に期待で胸をいっぱいにしたレオルに応えるかのように結晶は光に包まれ、姿を大きく変化させる。

 光が収まると、腕で一抱えするのには少しばかり大きいサイズの、ベビードラゴンと呼ばれる魔物がいた。

 その身体は山吹色で、水色の瞳からは、どこか知性と優しさを感じさせるが、額から後頭部に向かって伸びる角が、ドラゴンらしい威厳を感じさせる。

 わずかに丸みを帯びた胴体からは小ぶりな四本の足と尻尾、小さな翼がその存在を主張しているが、その小さな翼では宙を飛べるとは思えず、どうやって宙に浮いているのか、見ている人に疑問を抱かせる姿をしている。


 孵化したベビードラゴンを見たレオルは、感極まるという言葉を体現するが如く身体を震わせ、ベビードラゴンを抱きしめた。


「お前……なんてかっこかわいいんだよ! 決めたぞ。俺はお前と一緒にモンスターマスターの道を駆け上がるぞ!これからよろしくな!」


「キュウ? 」


 突然抱きしめられた状況にベビードラゴンは困惑するも、自分の存在を喜んでいることは伝わり、嬉しそうに鳴き声をあげる。


 全身を使ってひとしきり喜びを体現していたレオルだが、森の方から物音が聞こえてきたことで我に戻る。

 急いで森の方に視線を向けると、そこには人間の子供くらいの大きさで、猿によく似た魔物が草木をかき分けて現れた。

 それはウッドモンキーと呼ばれる全身を茶色の毛皮に包まれた魔物で、すばしっこい動きと、器用な手先を生かし、様々な道具を扱うことが特徴の魔物だ。


「ウッドモンキーか。ドラコのデビュー戦に丁度いいな。」


 いつの間にかドラコと名前を付けられていたベビードラゴンは、「えっ、俺のこと?」と、驚いた表情をレオルに向けるも、レオルのキラキラした瞳に何も言えず、黙って受け入れるのであった。

 

 ウッドモンキーもレオルたちの存在に気付と、見慣れぬ姿に目を鋭く細め、先手必勝とばかりに近くに落ちていた枝を右手にドラコへと飛びかかってきた。


「ッ! ドラコッ!」


 それは本来急襲と呼ぶのに相応しいもので、油断していたソラは咄嗟にドラコの名を呼ぶことしかできなかった。


 ただウッドモンキーにとって不幸だったことは、ベビーの名がつく末端とは言え、正真正銘ドラゴンの系統に属するドラコの存在である。その血は生まれたてとは言え、強い闘争本能と、それに相応しい能力をドラコにもたらしている。

   

 飛び掛かってきたウッドモンキーは勢いのままに右手を降り下ろし、ドラコの脳天へ木の枝の一撃をお見舞いしようとするも、ドラコはヒラリと身体を回転させることで木の枝を避けた。

 空振りにより地面を強く叩くことになったウッドモンキーは反動による痺れで一瞬硬直する。その隙を見逃さず、ドラコは茶色の毛皮に覆われた喉元へと食らいつく。

 本能的な手応えより一嚙みでは仕留められぬと判断したドラコが身体を回転させると、顎の力に加えて遠心力による負荷も受けたウッドモンキーは、悲鳴を上げる間も無くその身を頭部と胴体へと綺麗に二分されるのであった。


 コロコロとウッドモンキーの頭部がレオルの足元に転がっていき、つま先にぶつかって止まる。驚いた表情をしたまま固まっているウッドモンキーとレオルの目が合ったところで、死体の魔素化が始まった。

 ウッドモンキーの死体は、端部から紫色の煙へと姿を変えていくと、あっと言う間にその存在の痕跡はなくなり、ドラコへと吸収されていった。


「痕跡が残らないとは言え、グロいのはグロいな。」


 魔素を吸収したことで喜んでいるドラコを横目に、華やかな仕事の裏側には相応の苦労があるよな。と、レオルは何とも言えない表情で腕組みをしながらつぶやくのであった。


____________________


【名前】ドラコ

【種族】ベビードラゴン

【系統】ドラゴン

【Level】 1→2 levelup

【攻撃力】F

【守備力】G

【すばやさ】F

【魔力】G

【特徴】

レオルが初めて仲間にした魔物。

ドラゴン系統には珍しく、非常に人懐っこい性格で人気がある種族。

学園で配られる結晶から孵化する確率は1/1000。

実はかなり貴重な種族で、魔素を溜めて進化していくと強力な魔物になるとか……



【種族】ウッドモンキー

【系統】ビースト

【Level】 1

【攻撃力】G

【守備力】G

【すばやさ】G

【魔力】G

【特徴】

名前の通り木の上に巣を作り生活する種族。

今回は水を飲むために降りてきたところでレオル達と遭遇してしまった。

学園で配られる結晶から孵化する確率は1/20。

弱いが好戦的。手先は器用で生産職を専門とするテイマー達から人気がある。






 


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