第3-6話 君ならどうしただろう
「トツさん、僕は言いましたよね!」
当然のことながら、憮然とした表情を浮かべている。
「何かわかったら、こっそり僕に教えてくれるって」
ここは例の公園の中だ。
普段は人が寄り付かないはずのこの場所も、今はパトカーや救急車、それからどこから聞きつけたのか、野次馬とマスコミが押し寄せているのだった。
かろうじて黄色いテープで仕切られ制服警官が足止めをしているが、それらがなければ今ごろ現場とんでもないことになっていただろう。
「それがこんなに大事にしちゃって一体どうするんですか!
こうなったら僕は、ツユさんに報告しないわけにいかないんですよ!」
「すりゃあいいじゃないか」
「無責任な……あのねぇ、トツさん! こっそり報告してくれるって言うから、こっちは色々と目をつぶるってことにしたんですよ!」
「そうだっけか?」
「トツさん、どちらへ? 聴取は受けてもらいますからね」
「逃げないよ」
向かったのは別の救急車の後ろに乗っていた小鳥のところだ。
たった1人、ポツンといった感じで座っているのだった。
救急隊員は刑事たちと何やら話をしている。きっと小鳥の様子を伝えているのだろう。
「すまなかったな。婚約者を守れなくて」
すぐに「やめてください」と消え入りそうな声が聞こえた。
顔を上げると、小鳥は頭を振っていた。何度も泣いたからだろう。目と鼻が真っ赤だ。
「探偵さんのせいじゃないんで。彼は私を守るために──」
唇を噛み締め、うつむいてしまう。目から涙が溢れた。
「いい男だな。君の婚約者は」
「はい……自慢の彼です」
笑ったのだろうが、その表情は痛々しく、大きな目からはすぐに涙がこぼれる。
|凸守は救急車に寄りかかった。正直、まだ立っているのは辛かったからだ。
「これからどうするんだ。確か君は、彼と同じで身寄りがないと聞いてるが」
依頼を受けた時に、「佐藤」と出会ったころのことを聞いたのだった。
行方を探すためのヒントになればと思ったからだ。実際、大切な人がいなくなった場合、家族や友人たちとの思い出の地にいることは少なくないのだ。
ただし、その時に聞いた2人の出会いは、特段劇的でもなれば、運命的なものでもなかった。
「佐藤」が働いていた鐵工所に、仕事を発注する側の建設会社の事務をしていたのが小鳥だった。
そんな関係だったから、何度か顔を合わせることがあり、他愛のない会話から互いに天涯孤独であることを知り、一気に距離が縮まったらしい。
「どこか、身を寄せられそうな人はいるのか?」
「何とかなりますよ……」
口からこぼれた、といった感じで彼女は言った。もしかしたら自分に言い聞かせた言葉なのかもしれない。
「なあ」
「はい?」
「迷惑でなかったら、ウチで働かないか」
「それって、助手ってことですか?」
「まあ、そうなるな」
「ど、どうして私なんかを? もしも責任を感じてるなら──」
「違うんだ」
「え?」
声を上げたのも無理はない。小鳥の「サブ属性」の部分が「
「実はこれ、俺が持っていたサブ属性なんだ。そして妻の形見でもある」
「す、すみません! 私、知らなくて……」
「いや、これは君のせいじゃないんだ」
あの時、小鳥は「佐藤」の元へと行こうと
結果的に「高橋」に阻まれてしまったわけだが、「佐藤」が劇薬を飲んで命を絶った瞬間、彼のメイン属性は1番近くにいた
「佐藤」は小鳥を守るために、決死の覚悟で決断したわけだ。
その目論見通り、
が、それまで
「押し出された俺のサブ属性は、その時に1番近かくにいた人物──つまり俺たちの方へと走り出していた君のサブ属性に移動したというわけだ」
「じゃ、じゃあ、この『
「俺の妻の形見だったスキルだ」
「ご、ごめんなさい! 私……なんてことを……」
「いや、むしろ感謝してるんだよ」
小鳥は不思議そうに
「もしもあの時、君が俺たちの方へと移動してなかったら、あの『高橋』って男のものになってただろうから」
「そう、なんですね……」
「そういうわけだから、ウチで働いてもらえないか。でないと妻の形見と離れ離れになってしまうんだよ」
もしも君が俺の立場なら、どうしていたんだろう。
トツさんってセンチメンタルなのね──
呆れて笑うだろうか。
だが俺には、君が残してくれた「
教えてくれ。
もしも君がここにいたのなら、彼女にどんな言葉をかけてたんだろう。
俺にはこうするしかなかったんだ……。
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